ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トッドの移民論と日本100

2011-11-09 08:43:12 | 国際関係
●外国の事例~地域統合のEUの場合

 わが国で地方参政権を付与を実現しようとしている者は、しばしばEUの例を挙げる。EUでは、外国人に地方参政権を認めていると。だが、EUは地域統合をすることを決めて、その方向に進んでいる。その加盟国が、EU加盟国の国民に限って、外国人参政権を認めているのが多い。ただし、EU内でもEU国民に参政権を与えていない国もある。
 わが国は、どの国とも地域統合をすることにしていない。アジア版EUのようなものは、存在しない。それなのに、EUにならって外国人に地方参政権を与えようという意見は、前提や条件の違いを無視している。
 EUは、世界的に見て、外国人に地方参政権を付与している国が多い例外的地域である。ただし、それは域内の国や関係の深い国に限ったもので、西尾幹二氏は「EU域内の用心深い相互主義」と呼んでいる。(「外国人参政権~オランダ、ドイツの惨状」)
 ヨーロッパでは統合に向けて、1985年に、フランス、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルク、オランダの5カ国がシェンゲン協定を結んで、5カ国間の国境検問所を廃止した。その後、1993年発効のマーストリヒト条約で、域内のヒトの移動を自由化した。
 EUは、地域統合を進めつつある。EU憲法はまだできていないが、統一議会とEU大統領は誕生した。将来的には一個の超国家的な組織をめざしている。こういう特殊な地域組織ゆえ、加盟国の間で地方参政権を認め合うのは、その特殊事情による。各国は主権をまだ放棄していないので、国政参政権は、EU加盟国同士でも与え合っていない。トッドは、ヨーロッパ統合の実現に懐疑的だが、私も同様である。特に経済面で、主権の重要な要素である自国の通貨を発行する権利を放棄し、また自国の判断で金利を調整することができなくしていることが無理を生じ、地域組織に亀裂が入る可能性がある。さらに最も重要なのは、イスラム系移民が増大することで、国によっては人口の過半数を占めるほどになることが予想されており、ヨーロッパ文明は「ユーロ=イスラム文明」に変容しかねないことである。
 こうしたヨーロッパの事例を国ごとに見てみよう。まずドイツは、差異主義で、トルコ人との民族混交率は低い。国籍取得は、もとは血統主義だったが、フランスの影響で、1998年の国籍法改正によって、出生地主義を採用した。ただし二重国籍は認めない。参政権については、ドイツは、「ヨーロッパ連合条約の批准」という要請があったため、1990年に憲法を改正し、EU加盟国国民に地方参政権を認めた。以後、EU加盟国民に対しては、相互に地方参政権を認めている。その際、相互主義を条件とすることを憲法に明記している。なお州の参政権は対象外で、郡及び市町村のみである。バイエルン州及びザクセン州は首長の被選挙権を除くとしている。ドイツでは、外国人への国政参政権は認めていない。国籍の付与と非国民の地方参政権付与は区別している。また、EU域外の国の外国人には、地方参政権を与えていない。
 次にフランスは、普遍主義で民族混交率が高く、移民の同化が進んでいる国である。国籍については出生地主義で二重国籍も許容する。フランスも憲法を改正して、EU加盟国同士では、地方参政権を付与し合っている。対象は、6ヶ月以上の居住、または5年以上直接地方税を納入している者とする。国政参政権は、非国民には認めていない。国籍付与と地方参政権は区別している。
 トッドはフランスの普遍主義が世界に普及することに期待しているが、フランスは、EU域外からの移民には、国籍を取得しない限り、地方参政権を与えていない。ここが重要である。フランスは、EUの域内と域外を区別している。フランス国民になるなら、平等の権利を与える。非国民には不平等とする。国民と非国民の権利については、差異主義である。平成22年(2010)1月、シャテル報道官は最大野党の社会党がEU国民以外への外国人地方参政権法案を提出する動きを示したことについて、「論外」とフランス政府の公式見解として表明し、一般外国人の参政権を認めないことを明らかにした。
 EU諸国の中で英連邦加盟国であるアイルランドは、イギリス国民に対しては、地方参政権を認め、国政については選挙権のみ認めている。ただし、大統領選挙は除いている。それ以外の国の外国人に対しては、地方参政権のみ認めている。
 EUのほかの国のうち、ベルギー、ルクセンブルク、イタリア、オーストリア、ギリシャ、スペイン、エストニア等の国は地方参政権を互いに認め合っている。国によって、付与する条件は異なる。スペインはドイツとともに相互主義を憲法に明記している。
 上記の国々の多くにおいて、地方参政権の相互付与は、EUの市民同士で交換し合う権利の中に、相互主義という制約つきで地方参政権を入れたことに過ぎない。若干の例外を除いて、EU加盟国以外、域外からの移民については、地方参政権を与えていない。イスラム系の移民や日本人・中国人等のアジア人がいくら長期にわたって居住しても、参政権は与えられない国がほとんどである。そこに明確な差別がある。これがEUの大勢である。
 EU諸国は、大前提として地域統合を決め、その実現に向っているという点が、わが国とまったく違う。この大前提を無視して外国人地方参政権問題の参考にするのは、大きな誤りである。

 次回に続く。