ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

仙谷長官ら問責可決、国民に信を問え

2010-11-27 12:05:23 | 時事
 国会で本年度補正予算が成立した一方、仙谷官房長官、馬淵国土交通相への問責決議が参院で可決された。問責決議案は、内閣不信任案と違って法的拘束力はないものの、政治的な効果は大きい。過去に問責が可決された場合、3カ月以内に退陣を余儀なくされた。柳田法相の事実上の更迭をきっかけに、菅内閣は末期的な様相を呈してきた。
 菅首相は、2閣僚の問責決議にどう対応するか。両氏の続投か更迭か、内閣改造か、野党を取り込んだ連立の組み換えか。今のところ、先行きは混沌としている。これまで「陰の総理」として内閣を取り仕切ってきた仙谷氏自身が問責を可決され、瀬戸際に立っている。いったい誰が、この内閣の進路を判断するのか。仙谷氏・馬渕氏の続投または更迭、内閣改造、連立組み換え等、菅首相に重大な判断をして、政権を維持できる能力と意思があるようには、見えない。
 「切り札」として小沢一郎氏に離党勧告をして、支持率アップを図るという策があるという。逆に小沢グループが巻き返しに動き、次期政権を狙っているという情報もある。
 民主党執行部は、一度取った権力を失わないよう、現在の衆議院での多数を生かして、生き延びようとするだろう。約60年ぶりの政権交代による現政権ゆえ、解散総選挙を拒み、延命に執着するだろう。しかし、党利党略の政治は許されない。菅首相は、国民に信を問うべく、早期に解散総選挙を行うべきである。
 民主党中心の政治が続く限り、内政外交の失政がくり返され、民利国益の損失が増大することは確実である。国民は民主党の実態を見極め、明確な判断を下す時である。
 以下は報道のクリップ。

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●読売新聞 平成22年11月27日

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20101127-OYT1T00163.htm
2閣僚問責、菅首相は一層窮地に…政権に暗雲

 菅政権が最重要と位置付けてきた2010年度補正予算が26日夜、ようやく成立した。
 ただ、政権の要である仙谷官房長官や、馬淵国土交通相への問責決議が参院で可決され、低支持率にあえぐ菅首相は一層窮地に追い込まれた。政権安定のために模索していた公明党との連携強化も果たせず、逆に政権と同党との距離は広がった。政権の先行きには暗雲が立ちこめている。(略)
 菅首相は仙谷、馬淵両氏への問責決議可決を事実上、無視する考えだが、民主党内には「世論の批判にどこまで耐えられるだろうか」と懸念する声が少なくない。
 野党も、問責決議可決後の通常国会のシナリオを完璧(かんぺき)に描けているわけではないが、自民党などは、少なくとも仙谷長官と馬淵国交相の出席する委員会での審議には応じない方針だ。
 このため、民主党執行部の一人は「菅政権は何をやってもダメだ。年明けにでも内閣を改造し、リセットした方がいい」と語る。仙谷、馬淵両氏だけでなく、防衛省の通達問題などで批判を浴びた北沢防衛相や、北朝鮮の韓国砲撃当日に警察庁に登庁しなかった岡崎国家公安委員長らも含めて大幅な改造を行い、心機一転、やり直すべきだとの考えを示したものだ。
 もっとも首相側近議員は「菅さんはそんなことは考えてない」としている。内閣改造は支持率を向上させる効果が期待される一方、入閣できなかった議員の嫉妬(しっと)を買うなど求心力が逆に低下する危険性もはらんでいる。このため、首相も内閣改造断行には慎重にならざるを得ないとみられる。
 政権の先行きには波乱要因が待ち受けている。
 通常国会では、2011年度予算案のほか、予算関連法案、年度内に成立させる必要がある「日切れ法案」などが最重要課題となる。予算案は参院送付後、30日経過すれば、憲法の規定で自然成立となる。予算関連法案などは、野党が審議を引き延ばした場合、参院送付から60日経た上で、衆院で再可決させる必要があるが、与党は再可決に必要な3分の2の議席を衆院で持っていない。野党が予算関連法案などの成立と引き換えに首相退陣を求める可能性もある。
 さらに、首相は「内憂」も抱える。首相と距離を置く小沢一郎元代表のグループは活動を活発化させている。小沢氏の側近議員は「今は黙って政権が失態を犯し、転んでくれるのを見ていればいい」と語る。「早晩、小沢氏の息のかかった人間がのろしを上げるのではないか」という声も党内ではささやかれている。(政治部 湯本浩司、志磨力)
(2010年11月27日07時18分 読売新聞)

●産経新聞 平成22年11月27日

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/101127/stt1011270253003-n1.htm
【主張】仙谷官房長官 「問責」可決の意味は重い
2010.11.27 02:52

 (略)とくに仙谷氏は問責の理由とされた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件への対応で、中心的な役割を果たしてきた。自民党は「船長釈放は仙谷氏主導と考えざるを得ないのに、那覇地検の判断だと強弁している」「ビデオを長期間非公開とし、貴重な外交カードを失った」などと批判した。
 特に問題なのは、仙谷氏が自衛隊を「暴力装置」と発言したことだ。撤回や謝罪で済む問題ではない。これだけでも安全保障会議を構成する官房長官の職にふさわしくない。
 これらを考え合わせても、菅直人首相は「更迭はまったく考えていない」と言い続けるのか。
 衝突事件への対応は、菅政権が外交・安全保障政策で失態を繰り返した核心部分といえる。内閣の要となる仙谷氏の問責可決は、政権の統治能力や危機管理能力の欠如を突いており、首相の責任をも問うものである。
 北朝鮮による韓国砲撃をめぐる対応でも、首相や内閣の危機管理の欠如が露呈した。来年の通常国会で政権の立て直しを図りたいなら、野党が多数を持つ参院で信任を失った仙谷氏を続投させるのは困難だろう。今も継続している尖閣問題や朝鮮半島の危機に備えるため、どのような布陣を敷くかを考えるべきだ。
 内閣不信任案は法的拘束力があるが、問責決議案には拘束力がない。ただ、政治的な効果は大きい。平成10年には当時の額賀福志郎防衛庁長官が問責可決から約1カ月後に辞任に追い込まれた。福田康夫、麻生太郎両氏も首相問責決議案を可決されたが、結果的には2、3カ月後にそれぞれ退陣を余儀なくされた。(略)

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101127/plc1011270107003-n1.htm
菅内閣 背水の陣の秘策は? ちらつく「解散」
2010.11.27 00:59

 (略)まさに綱渡りの政権運営を強いられる首相だが、実は逆転への秘策がわずかながら残されている。
 一つは通常国会前の内閣改造。仙谷氏らの更迭ではなく大幅な改造を行えば、野党は審議拒否の大義名分が消えるばかりか、支持率上昇も見込める。事業仕分けが一段落した蓮舫行政刷新担当相をさらなる重要ポストに起用するなど話題作りを盛り込めば世間の逆風が収まる可能性もある。
 ただ、人事にリスクはつきものだ。人選を誤れば、民主党内にくすぶる内閣への不満が爆発しかねない。新閣僚に失言や不祥事があれば、通常国会は今国会以上の逆風となる。
 もう一つの秘策は新たな連立工作だ。首相は18日夜、たちあがれ日本の与謝野馨共同代表を首相公邸に招いて密談した。首相の脳裏に「連立組み替え」があるのは間違いないが、安易な「数あわせ」だと世論に映れば支持率はさらに低下し、首相の党内基盤を揺るがしかねない。
 そこでひそかにささやかれる「切り札」が、小沢一郎元代表への離党勧告だ。
 首相には成功体験がある。7月の参院選に大敗し、内閣支持率が40・3%(産経新聞・FNN合同調査)まで下がったが、9月の党代表選で小沢氏に勝利すると一気に64・2%(同)まで回復した。強制起訴が確実な小沢氏を離党させれば、一定の支持を得ることは間違いない。
 これは大きなカケでもある。代表選で所属国会議員200人の支持を集めた小沢氏との決別は、党分裂を誘発しかねない。
 秘策を講じてダメならばどうするか。首相には退陣するか、国民に信を問うしか道はない。(略)
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トッドの移民論と日本31

2010-11-27 08:47:07 | 国際関係
●多文化主義と「差異への権利」への批判

 トッドは著書『移民の運命』において、全世界規模では、アメリカの多文化主義を批判し、フランス国内では、それと連動する「差異への権利」を批判している。トッドは人類学的分析に基づいて、多文化主義と「差異への権利」の根源が、差異主義的心性の構造のなかにあることを指摘する。
 多文化主義とは、異なる文化を持つ集団が存在する社会において、それぞれの集団が「対等な立場」で扱われるべきだという思想である。1965年から1990年にいたる期間、アメリカで勢力を伸張した。アメリカの多文化主義については、本稿のアメリカの項目に書いた。
 多文化主義は、アメリカから全世界に輸出され、トッドの表現で言えば、フランスにも「押しつけられた」。
 もともと子どもは、幼稚園や学校で、言葉を習得すると同時に異文化を受容する。また、移民は出身国と受け入れ国の間に圧倒的な文化的発達の差があると、受け入れ国の文化を吸収する。それによって、自然に同化は進む。ところが近年フランスでは、フランス人自身が己れの同化・統合能カを疑うようになり、同化を悪と考え、民族的差異を尊重・保護すべしとする、差異主義的な考え方が強まった。そこに現れた主張が、「差異への権利」である。トッドは、「差異への権利」という多文化主義的な観念を批判する。  「差異への権利」が現れた原因には、アメリカに押し付けられた多文化主義の影響がある。また、カトリックの失墜によって、フランス周辺部の直系家族社会で文化的活力が復活したことも原因の一つだとトッドは見ている。
 「差異への権利」という主張は、諸民族の文化的差異を尊重・保護する人道的な主張のように響く。ところが、実際は、移民同化能力を発揮するフランスの民衆の自己意識を混乱させ、移民への反感を引き起こしている。フランスで移民反対を説く国民戦線が党勢を伸ばしているのは、こうした民衆の支持による、とトッドは指摘する。
 またトッドによると、人種主義に反対して「差異の権利」を唱える左翼の主張は、「一見善意と同情に溢れているが、実は異邦人への憎しみの裏返しに他ならない」。彼らの意識の奥底には、異邦人への無意識の嫌悪が存在する。「差異の権利」は、移民の側にも混乱をもたらしている。民衆のレベルで自然に同化が進んでいるのに、差異を賛美する左翼の活動が、移民やその子供たちにいたずらな幻想を振り撒いている。そのため、かえって取り返しのつかない窮境に移民を追い込むことになる、とトッドは懸念する。
 トッドは、移民の将来は「同化」しかありえない、と明言する。隔離は、最終的な同化を先送りすることに他ならない。「差異への権利」という観念は、移民第一世代がフランスで体験した衝撃を和らげはしただろうが、結局は彼らの適応能力を妨げている。また、第二世代には同化の円滑な進行を乱すことにしかなっていない、とトッドは厳しく指摘する。
 ここで私見を述べると、アメリカの多文化主義やフランスの「差異への権利」には、ドイツ=アメリカのフランクフルト学派、特にその最左派であるマルクーゼの影響がある。マルクーゼは、フロムらによるマルクスとフロイトの統合を、闘争的な方向へ推し進めた左翼の哲学者である。1968年のフランス5月革命で活動した知識人・学生は、「三つのM」すなわちマルクス・毛沢東・マルクーゼに傾倒した。マルクーゼは、先進国における共産主義革命をめざすにあたり、体制化した労働者階級に替わる主体として、知識人・学生・女性・少数民族等に目をつけ、共産主義革命に利用しようとした。この発想が、マルクス主義の文化革命戦術を激烈なものとした。マルクーゼは、「われわれが着手すべき革命は、社会制度を広汎に渡って解体するような革命である」と述べている。アメリカやフランスの新左翼が、差異主義的な主張をするようになった背景には、こうしたマルクーゼの思想がある。人権や個性の尊重、女性や少数民族の権利を説く運動が、実はそれを利用して共産主義社会を実現しようとする思想に裏づけられているのである。私は、そのことに注意を呼びかけたい。

 次回に続く。

関連掲示
・フランクフルト学派、マルクーゼについては、下記をご参照下さい。
 拙稿「急進的なフェミニズムはウーマン・リブ的共産主義」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion03d.htm
 第7章 フランクフルト学派の批判的否定、第9章 エロス的革命を唱導したマルクーゼ