ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

脱貧困の社会事業~ユヌス4

2009-07-27 08:53:51 | 経済
●単なる融資ではなく、生活の向上運動

 グラミン銀行では、利用者に約束をさせる。借り手は「16カ条の決意」を学ぶ。その内容は次のとおりである。

1.私たちはグラミン銀行の4つの原則である規律、団結、勇気、勤勉に従い、どんな人生を歩むことになっても、それを実現することを誓います。
2.私たちは家族に繁栄をもたらします。
3.私たちは壊れかけた家には住みません。私たちは家を直し、出来るだけ早く新しい家を建てられるように働きます。
4.私たちは一年中野菜を育てます。私たちは、その野菜をたくさん食べ、残りがあれば売りに出します。
5.種まきの時期には、私たちはできるだけ多くの種をまきます。
6.私たちは家族の人数をなるべく増やさないように家族計画を行います。出費を少なくします。健康に留意します。
7.私たちは子どもに教育を受けさせます。教育を受けさせられるような収入を得られるようにします。
8.私たちはいつでも子供たちや、周囲の環境を清潔にしておきます。
9.私たちは簡易トイレをこしらえ、それを使います。
10.私たちは飲む前に水を沸騰させるか、ミョウバンを使います。私たちは、砒素を取り除くためにピッチャーのフィルターを使います。
11.私たちは息子が結婚するときには、持参金を要求せず、娘が結婚するときには持参金を渡しません。私たちは持参金の呪いにセンターを巻き込まないようにします。私たちは幼い子供同士の結婚を認めません。
12.私たちは誰かに不正を押し付けることも許しません。
13.私たちはより高い収入を得るために、みんなで集まってより大きな投資を始めます。
14.私たちはいつもお互いに助け合います。もし誰かが困難に陥ったら、その人を助けます。
15.どこかのセンターで規則違反があったときには、私たちはそこへ出かけていって、規則を回復するのを助けます。
16.私たちはあらゆる社会活動にそろって参加します。

 これらの16カ条は、銀行がお金を貸す人に守らせる約束を大きく超えている。グラミン銀行は、単にお金を貸して返済を求めるのではなく、人々が貧困から抜け出して、生活を向上させることを誓わせているのだ。これは、生活向上運動といえる。

 ユヌスは、グラミン銀行が「16カ条の決意」を採用するようになってから、ほとんどすべての借り手が学齢に達した子どもを入学させるようになったという。融資による貧困からの脱出が、教育の普及をもたらしているのである。しかも、グラミン銀行は、上級学校に行く子どもには奨学金を出し、教育ローンも提供している。現在3万5千人が利用しているという。

●マイクロクレジットの世界的な広がり

 ユヌスが始めたマイクロクレジットは、バングラデッシュから多くの開発途上国に広がった。それらの国々では、NPOや政府機関、あるいは企業経営者が始めた何千もの組織が、グラミン銀行の成功を見習って、マイクロクレジットを行っている。今では世界の約60カ国で、1億人以上もの貧しい人々がマイクロクレジットの恩恵を受けるようになっているという。
 グラミン銀行自体は、バングラデッシュの国内だけで運営されている。「他国にはいかなる支店も部門もない。また、私たちは、世界のどこかで運営されているマイクロクレジット組織と提携しているわけでもないし、そういった組織に対して何の責任も持たない」とユヌスは著書に書いている。
 またユヌスは言う。「マイクロクレジットはアジアで最も大きく広がった。しかし、また、それはアフリカ、ラテンアメリカの国、そして中東にも足がかりを持っている。マイクロクレジットは合衆国を含む世界の多くの国の貧しい人々の間で動き始めている。これらのプログラムの多くが、その運営方法をグラミン銀行にならっている」と。
 しかし、グラミン銀行は、バングラデッシュで自国に合ったやり方で脱貧困の取り組みをしているのであり、他の国では、自分の国にあったやり方を工夫すればよいのである。ここで、ユヌスが、「マイクロクレジットは合衆国を含む世界の多くの国の貧しい人々の間で動き始めている」と書いていることは注目に値する。私見を述べると、世界で最も富裕な国であるアメリカ合衆国にも、困窮者が多数存在する。大富豪が多数いるにも関わらず、富は一部に集中し、わずかな助けを求めている人々にはめぐってこない。アメリカはそうした自国の社会構造を世界規模に拡大しようとしてきた。アメリカ文明の世界化は、自由とデモクラシーのもとに、貧富の格差の世界化を生み出している。
 ユヌスは言う。「貧しい人々にお金を貸すために、どんな国にも多くのお金が用意されている。それを流動させ、貧しい人々が使えるようにすることがすべての課題なのだ」と。これは非常に重要な発言である。私見によれば、現代の資本主義は、一部に巨大な富が集中し、多くの人々は貧困にあえいでいる。体の一部に巨大なできものが出来て、そこに血液が滞っているようなものである。お金は、本来血液のように、全身に満遍なく、循環すべきものである。それによって、全体が健やかに成長する。富の配分、所得の再配分は、人類の社会が調和をもって発展するために不可欠な課題である。

 次回に続く。