ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

石平氏の「中国大逆流」4

2009-07-03 08:50:24 | 国際関係
●共産党政権、起死回生の賭け

 小平の指名で国家主席となった江沢民以降、中国共産党は、「『愛国主義精神』という名のウルトラ・ナショナリズムの政治利用」を行ってきた。その結果、今日、中国の若者のほとんどは、「民族利益至上主義の信奉者」となっていると石氏は言う。
 ウルトラ・ナショナリズムは、一般に超国家主義と訳される。この場合の「超」は「国家を超える」という意味ではなく、「極端な、過激な」を意味するウルトラの訳語である。それゆえ、ウルトラ・ナショナリズムとは、極端な民族主義・国家主義のことである。
 私たち日本人は、北京オリンピックに先立つ聖火リレーが長野に来た際、中国人の青年たちが巨大な中国国旗を振り、市中を我が物顔に行動したことを目のあたりにした。欧米の諸都市でも同様だった。彼らの行動の背後には、中国共産党の指示があった。

 石氏は、中国共産党が国民に「ナショナリズム的情念」を煽り立て、「愛国主義の旗印」を掲げれば、その下に国民の大半は熱狂的に集結する。中国共産党はそれを操る「術と力」を持っている、と言う。今後、中国経済が崩壊して社会不安が高まり、未曾有の危機に突入したとき、共産党政権は「起死回生の賭け」に打って出る可能性があると石氏は予想する。
 すなわち、対外的な「戦時体制」を作り出す。その中で、経済に対する統制を強化する。「挙国一致団結して民族の敵に立ち向かう」という大義名分の下で、共産党政権の存在意義とその正当性を強く主張する。それによって、党の政権基盤を再び磐石なものとしようと図る。このような「乾坤一擲の賭け」に打って出ることによって、「『経済の成長と繁栄』の上に政権の基盤を置くという小平路線の破綻を補って、中国共産党はまったく別の政権維持戦略への転換を実現できるのである」と石氏は述べている。

●毛沢東崇拝を愛国主義の中に吸収する

 この共産党の戦略転換と、先に述べた毛沢東崇拝の高揚とは、どういう関係になるか。石氏によれば、小平の経済成長路線が破綻したため、中国では、厳しい現状批判の中から、毛沢東崇拝が再燃している。民衆の暴動・騒乱が毛沢東主義と結びついて、社会主義的な改革を求める動きになれば、私の言う「社会主義の第二革命」の方向になるだろう。しかし、この可能性は低い。むしろ、中国共産党は、毛沢東崇拝を権力の維持に利用し、反政府運動のエネルギーを外に向けるだろうと石氏は予想する。
 「政権側からすれば、『愛国主義』という大義名分下で『毛沢東崇拝』を吸収して体制の中に取り込むことが出来れば、これほど好都合のことはない」「『毛沢東』を旗印とした対外冒険的な軍国体制が共産党政権を中軸にして出来上がってくる可能性は十分あるのだ。いや、それはむしろ、そうなる確率のもっとも高い近未来のシナリオではないかと思う」と石氏は書いている。

 私見を述べると、毛沢東の思想には、マルクス=レーニン主義・毛沢東思想と定式化されるような共産主義の武力革命理論としての性格がある。それと同時に、漢民族の矜持と強烈な反米感情に彩られた現代の中華思想という側面がある。共産主義は本来、インターナショナリズムの思想だったが、スターリンによってナショナリズムに逆転し、さらに毛沢東によって中華思想と結びついた。
 ナショナリズムと結合した共産主義は、ファシズムに類似したものに変容する。ファッショ的共産主義である。既に中国は、マルクス・レーニンの名を掲げてはいても、実態はウルトラ・ナショナリズムを基盤とするナチス・ドイツに似た国家に変質している。石氏が予想する「『毛沢東』を旗印とした対外冒険的な軍国体制」が、経済崩壊後の中国に出現する事態は、十分想像できる。
 中国経済は、崩壊寸前の状態にある。上記の予想は、早ければ1~2年、遅くとも数年のうちに起こりうる事態である。

 次回に続く。