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ロシア内の真実を知ろう (SNSテレグラムとレバダセンターの世論調査)

2022年04月10日 | ロシアのウクライナ侵攻

  皇帝プーチンによる「ロシアは大国」であるという幻想から、小国ウクライナを踏みつぶそうとしていますが、戦況は彼の思うようには進んでいません。先週非常に驚いたニュースは、ロシアのあのウソばかり言い続けている報道官ペスコフがイギリステレビのインタビューで、「ロシア軍は多大な損失を被った。我々にとって大いなる悲劇だ」と述べたことです。ロシアが自軍の苦戦を認めるのは珍しいのですが、内容的には3月25日にロシア国防省が発表した死者1351人が根拠だとして、「これはかなりの数だ」と説明したのです。

  もっともウクライナ軍参謀本部は今月8日の発表で1万9千人のロシア兵を殺害したと主張しているため、その差は14倍もあります。ロシア軍が残した破壊された戦車や装甲車の数からみてもロシア側の発表はもちろん信用などできません。オランダの分析機関によれば、公開された情報によると開戦から一月弱で撃破されたロシア陸軍の戦車の総数が109両であると発表。それからの経過時間を考慮すると170両くらいであると推定できます。全世界がキーウ近郊の街ブチャやボロディアンカなどの惨状を検証した結果、ジェノサイドであると非難しています。日本政府も本日、追加の制裁措置を発表しました。

 

  さて、ロシア国民はネット経由で海外主要SNSサイトの大半にアクセスできず、ロシア政府発のフェイクニュースまみれのため、国民の大半はプーチンの策略にはまっていると言われています。4月8日の日経新聞朝刊の1面トップも、ロシア国内では1,000万超のSNS偽情報を政府側が拡散させ、世論を操作していると報じられていました。

  またそうした操作によりプーチンの支持率が3月末に83%という高率を達成させているというのが一般的とらえ方です。今回の投稿では、実はロシアにも自由に使えるSNSが存在し、自由にアクセスできるし、世論調査機関は中立で以外にもかなり正確であることをみなさんにお知らせしておきます。ロシアのSNS詳細情報はちょっと長いですがそのまま引用しますので、じっくりとお読みください。これを知らないとフェイクと真実のはざまでさ迷うことになります。

  現在唯一ロシアからもアクセス可能なSNSサイトの名は「テレグラム」です。3月26日付日経電子版のニュースを引用します。長文です。

引用

ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア発の対話アプリ「テレグラム」の存在感が増している。ロシア政府がフェイスブックなど多くのSNS(交流サイト)を遮断する中、貴重な情報源になっている。創業者はプーチン政権との対立も辞さない姿勢を示すが、政権側も活用しており遮断は免れている。ロシアやウクライナだけでなく西側メディアも情報を発信する主戦場となっている。

また、テレグラムはほかの対話アプリに比べて、熱心な利用者が多いことも分かった。利用者が同アプリ上で一日に費やす携帯データ使用量の平均は101メガビットと、フェイスブックの子会社ワッツアップの使用量26メガビットを大きく上回った。

ウクライナでもテレグラムの利用は増えている。侵攻前から同国内で最も使われている対話アプリだったが、侵攻後にさらにダウンロード件数が増えた。米ネット調査会社data.aiによると、スマホ向けのダウンロード数は2月27日~3月5日までの1週間で24万2000件と、前の週の2倍を超えた。ゼレンスキー大統領は国内外に向けたメッセージ発信を、テレグラムを中心にして行っている。

情報統制を強めるプーチン政権は、メタが運営するフェイスブックやインスタグラム、米ツイッターなどに対してロシア国内からの接続を遮断した。だが、テレグラムはこうした対象から外れ、ロシア在住者に西側の情報を届ける数少ない手段となっている。ニューヨーク・タイムズ(NYT)とワシントン・ポストの米有力紙2紙は3月中旬、テレグラムでの情報発信に乗り出し、ウクライナとロシアの読者を対象に一部のニュースを無料で提供している。開設から約2週間でNYTのフォロワー数は4万5000人を超えた。

外交政策研究所フェローのクリント・ワッツ氏は、「ロシア語とウクライナ語の世界では、テレグラムが情報戦の主戦場となっている」と説明する。ロシア側がプロパガンダを広める場である一方で、ウクライナ側が対抗メッセージを流す場でもあるからだ。ロシアのプロパガンダ問題に詳しいイアン・ガーナー氏は、「若者がニュースを得る主媒体となっているため、プーチン政権は(不都合な情報があっても)テレグラムを閉鎖することはできない」と語る。

プーチン政権とテレグラムの関係は複雑だ。テレグラムは2013年にロシア人のパーヴェル・ドゥーロフ氏が兄ニコライ氏と立ち上げた。先立つ06年にはロシア版フェイスブックといえる交流サイト(SNS)「フコンタクテ」を創業し、パーヴェル氏は「ロシア版マーク・ザッカーバーグ」と呼ばれることもある。だが、反政権運動の情報削除を拒否したことなどからプーチン政権との対立が強まり、14年にフコンタクテの経営権を全面的に手放し国外に拠点を移した。

テレグラムはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに拠点を置く。米メディアは従業員は30人程度と報じている。14年は、ロシアがウクライナ南部のクリミアを併合した年でもある。パーヴェル氏がウクライナの反ロ運動メンバーに関するフコンタクテ上の情報提供を拒んだことがさらに締め付けを強めるきっかけになったとされる。今回のウクライナ侵攻を受けてパーヴェル氏は3月7日、ツイッターに「9年前、ロシア政府からウクライナ人の個人情報を守った。そして、企業と家を失った。だが、(必要とあれば)ちゅうちょなくまた同じことをする」と書き込んだ。

テレグラムは、通信内容を暗号化して送るため匿名性が高く、コンテンツに規制をかけない姿勢で知られる。だが、こうした匿名性と自由を重んじる姿勢は、憎悪や暴力を助長したり、テロ組織のやりとりに使われたりする危険性があると指摘されてきた。日本経済新聞はテレグラム経由でこうした課題に対する会社の方針についてコメントを要請したが、返信はなかった。

引用終わり

 

  どうですか。驚きの情報ですよね。このテレグラム(Telegram)ですが、実際に私が日本からアクセスしてみました。するとどうでしょう、最初に出てきたのはウクライナのゼレンスキー大統領のアカウントでした。彼が「これはジェノサイドだ」と言ったブチャの市街地の写真で、道路に横たわる遺体が写っていました。ロシアがよくこれを許しているな、というのが私の感想です。

 

  このSNSはロシア、ウクライナだけでなく世界の誰もが閲覧利用可能です。ロシアでもスマホを持っていさえすれば誰もがアクセスできるため、若者中心にこれでウクライナの情報も仕入れることができます。それでもプーチン大統領の支持率は落ちるどころか上昇し、遂に83%に達しています。この世論調査は政府によるものかと思いきやそうではなく、むしろ政府とは一線を画した民間会社による調査です。その会社は民間の独立系世論調査機関「レバダセンター」で、政府のヤラセではありません。

 

  それでもプーチンは83%の支持を得ている原因は、調査対象がテレグラムを見ることのできる若者よりも大多数を占める老人や農民が多いからでしょう。もちろんレバダセンターは政府に批判的プロ集団で、海外の機関もその中立性を認めていますから、調査対象を偏らせないようランダムに選定していると推察できます。

  NKHの「BS世界のニュース」では、そのレバダセンターのトップにインタビューしたニュースが流れていました。その内容をNHKのサイトで見つけましたので、それを引用します。これまた長いですが、センターの所長が「プーチン自身の真実」を忌憚なく述べています。4月7日付です。

引用

プーチン大統領 なぜ高支持率? 独立系世論調査機関幹部が分析

2022年4月7日 5時52分

ロシアにある独立系の世論調査機関「レバダセンター」で長く所長を務め、ロシア社会について独自の分析を続ける社会学者としても知られるレフ・グドゥコフ氏(75)がモスクワ市内でNHKのインタビューに応じました。

国営メディアで意図すり込み”

この中でグドゥコフ氏は軍事侵攻から1か月がたった先月下旬「レバダセンター」が行った世論調査でロシアのプーチン大統領の支持率が83%と、およそ4年ぶりに80%を超えた背景について「支持する人の多くは高齢者や地方に住む人たちなどで、彼らの唯一の情報源となっているのが政権のプロパガンダを伝える国営放送だ」と述べ、多くの人が国営メディアで伝えられることが事実だと政権の意図をすり込まれているためだと指摘しました。

 

「非ナチ化」で軍事侵攻を正当化

そのうえで「国民は戦争を望まず恐れていた。だからウクライナの『非ナチ化』ということばを作る必要性が出てきた。実際、ナチズムやファシズムということばを使って相手を批判するやり方はロシア社会をまとめるうえで効果的だ。こうした表現や、うそを並べ立てた大衆の扇動がプーチン氏の政策を支持させるために不可欠だとみているのだろう」と述べ、プーチン大統領がウクライナのゼレンスキー政権を一方的にナチス・ドイツになぞらえ「非ナチ化」の必要性を繰り返し強調するのは、国民向けに軍事侵攻を正当化するためだと分析しました。

 

プロパガンダと情報統制の結果…

グドゥコフ氏によりますと、ウクライナで2013年、ロシア寄りの政権への市民の抗議活動が起きる前はEU=ヨーロッパ連合の加盟を目指すウクライナに対して「ロシアは干渉すべきでない」という意見が75%に上ったのに対して「武力も含めて断固阻止すべき」という回答は22%だったということです。しかし「『アメリカが主導する形でウクライナの東部や南部でロシア系住民の安全が脅かされている』というプロパガンダが語られると状況は一変した」と述べ、プーチン政権によるプロパガンダと情報統制の結果、政権が「特別な軍事作戦」と称するウクライナ侵攻を事実上受け入れる世論が形成されたと指摘しました。

 

プーチン大統領の考えの原点「怖いからこそ尊敬される国家だ…」

またプーチン大統領のこうした考えの原点についてグドゥコフ氏は「ロシアのファシズムだ」と表現し「強制力や権力の集中に依存し特殊機関の職員を社会の要職に配置することで経済や教育、宗教まで管理を強化しようとしている」と分析しました。

そしてプーチン大統領が旧ソビエトの情報機関KGB=国家保安委員会の出身であることを強調したうえで「軍の司令部などと手を組みおそれられる強力な国家を夢みている。怖いからこそ尊敬される国家だ。『恐怖による支配』こそが国家を形成すると信じていて『核兵器を保持している』ことが世界から尊敬される理由になると考えている」と指摘しました。

 

「プーチン大統領は明らかに目が曇ってしまっている」

そのうえで「彼の最大の過ちは第2次世界大戦以降の国際関係の構造全体に実際に危機をもたらしたことだ」と批判し「プーチン大統領はウクライナへの憎しみと異常なまでの執着によって明らかに目が曇ってしまっている」と述べ、今後さらに攻撃を続けていくことに懸念を示していました。

 

解説;「レバダセンター」とは

「レバダセンター」は2003年、リベラルな社会学者のユーリ・レバダ氏が設立しました。レバダ氏はソビエト時代末期に発足した政府系の世論調査機関で活動していましたが、志を同じくする同僚とともに独立してレバダセンターを立ち上げ、政府から財政支援などを受けることなく独自の世論調査や分析を続けています。

日本や欧米の政府や団体とも協力して調査を行っていて、2006年にレバダ氏が死去したあとは社会学者のレフ・グドゥコフ氏が所長を引き継ぎました。ロシアの政治経済や社会問題などを幅広く扱い、10年ほど前からは研究報告の中で「ロシアは腐敗した権威主義的な国になりつつある」といった政権批判も展開するようになりました。

レバダセンターは2016年、国外から資金を得て「政治活動」に関わっているなどとして、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され厳格な収支報告を求められているほか、発表資料に「外国の代理人」であることを明示するよう義務づけられるなど圧力を受けています。

これに対してレバダセンターは政権に批判的な姿勢を変えることなく世論調査や分析を続けていてグドゥコフ氏自身、去年5月に所長を退任したあとも研究部長として国内の社会問題を鋭く分析しリベラルな論客として活動しています。

引用終わり

 

  どうですかみなさん、テレグラムレバダセンター。このようなプーチン政権と一線を画す独立系のSNSと世論調査機関がいまだに存在しているのです。その存在も知らずにロシア政府発の情報はすべて政府のヤラセだと言い切る報道やロシア通には注意しましょう。

コメント (2)
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