猛暑が続きますね。毎日雨の7月、毎日猛暑の8月。これが9月まで続いたら耐えがたいですね。その中でコロナは依然収まらず、毎日自粛しながら過ごす日々はいつまで続くのでしょうか。
さて今回は時事問題から離れます。7月29日の不動産価格の下落に警鐘を鳴らした記事の最後で、私は以下のように申し上げました。
「こうした日本の不動産投資ですが、実は金利は80年代の大バブル時代に比べてはるかに低いにもかかわらず投資行動は慎重で、無茶な投資はしていません。理由はオフィスビルにしろホテルにしろ、投資決定にはDCF(収益還元法)による価格評価方法を使っているからです。その裏には最初に申し上げた不動産投資にREITが参入したことがDCF評価を一般化させたことに貢献していたのです。 DCFは大変重要な投資の概念ですので、別途説明いたします。」
そして京おんなさんから
>更新が待ち遠しいです。
というコメントをいただきながら、そのままになってしまいすみません。今回はその説明をトライします。
その前に不動産価格の最新状況が出ましたので、お知らせします。地価LOOKリポートというみなさんあまり聞きなれないかもしれない統計の数値です。
8月23日の日経ニュースから部分的に引用
新型コロナウイルスによる経済活動の停滞が地価を押し下げ始めた。国土交通省が21日発表した4月から7月にかけての主要都市100地区の動向を見ると、下落した地区数は前回調査(1~3月)の9倍超に急増した。小売店や飲食店の集まる繁華街が外出自粛や訪日客急減の影響を受けている。地価の上昇局面は転機を迎えたようだ。
地価LOOKリポートで銀座4丁目交差点を中心とする銀座中央地区の地価は横ばいから下落に転じた(東京・銀座)。
地価の変調を浮き彫りにしたのは国交省の「地価LOOKリポート」だ。全国の主要都市を対象に、駅前の商業地や駅周辺の住宅地など100地区の3カ月間の地価変動率を年4回公表する。
下落した地区は前回4地区だったが、今回は9倍超の38地区と全体の4割近くに達した。上昇した地区は前回の73から1に激減した。下落地区の数が上昇地区を上回るのは12年4~7月以来、8年ぶり。横ばいの地区も23から61に急増した。
引用終わり
やはり地価は都市を中心に急激な下落に転じていましたね。今後の価格推移も大いに懸念されます。以前は年に一度の公示地価などの統計を見ていましたが、最近は四半期ごとにこの地価LOOKリポートが公表され、便利になりました。
ではDCF(収益還元法)による価格評価方法の説明です。厳密な説明をするには面倒な数式を使う必要がありますのでそれは避け、なるべく平易に概念の説明をします。
そもそもDCF収益還元法とはすべての投資にかかわる評価方法で、実は大本は債券計算に使われていた方法です。それを株式価格の評価や不動産価格の評価に応用しているのです。その説明にはどうしても「割引現在価値」という考え方を説明しなければなりません。ちょっと面倒ですが、分かりやすくを目指します。
商売をされている人は「手形割引」をご存じだと思います。例えばある商品を作るメーカーが商品を100万円で問屋に卸したとします。ふつう取引は現金決済ではなく、例えば3か月後決済の約束手形、あるいは小切手で払われます。しかしメーカーは次の製品の原材料を仕入れる必要から、すぐに現金が欲しい。そこで手形を銀行に持っていきますと銀行は3か月の金利分を差し引いて現金をくれます。その割引率が銀行にしてみれば儲け分の金利です。一方メーカーにとってはその分銀行からローンを借りたのと同じ金利を取られます。
割引率は通常年率で表されますが、それが4%だとしましょう。すると、面倒なので単利で行くと、3か月分はその4分の1なので1%です。メーカーは銀行に手形を持っていくと100万円から1%相当の金額を差し引かれ99万円もらえます。銀行はそれを3か月後まで保有しその後問屋と決済すれば100万円もらえます。
これは多くのみなさんが投資している米国債のゼロクーポン債投資と同じ原理です。その金利が4%だとすれば、3か月後満期のゼロクーポン債の価格は99万円で、3か月後に100万円で償還されます。3か月後に100万円になる年利4%のゼロクーポン債の「割引現在価値」は99万円だということです。
では投資するか否かはどう判断されるのでしょうか。上の例を10年債とすれば、10年後の償還時に100万円もらえる利回り4%のゼロクーポン債の複利計算による割引現在価値は675,564円です。その投資判断をする際、67.5万が妥当か否かということではなく、年利4%は投資に値するか否かで判断しますよね。つまり割引委率とは、実はリターンの率なのです。
手形割引のケースでは、年利4%の3か月分を銀行は得ます。それが銀行にとって投資のリターンです。そしてメーカーにとっては借入金利と同じで、金利というコストを払って現金化しています。
ではその応用で、不動産に投資する場合のことを考えます。不動産価格の妥当性は、バブル時代は将来それを売ったらナンボになるということだけを考えていました。3年後に2倍になるかもしれないから買いだという具合です。ですので土地の価値を計算するのに、その土地の産み出す収益は度外視していたのです。
しかし現在はそうではありません。例えばREITがあるオフィスビルに投資するか否かの判断は、利回りで判断します。たとえば100億円のビルに投資し、毎年賃貸料を4億円もらえれば単純計算で利回りが4%です。だったら投資しよう、でも2%ならやめておこうという具合に利回りで判断します。私たちの米国債投資と同じような判断をしています。つまり将来得られる収益を考え、価格の妥当性を判断する。だとすると土地のようにそのままでは収益を生まない投資対象はどう判断するか。それはその土地に例えばオフィスビルを建て、それを貸し出すと得られる収益を想定し、投資額全体に対するリターンを計算します。
土地ころがしでナンボ儲かりそうなどというおバカな投資判断は昔話です。将来の収益を割引率で現在価値に還元することで妥当な価格を導き出すのが、収益還元法という投資判断です。ここまで、原理はぼんやりとでもおわかりいただけましたでしょうか。
これは株式投資も同じです。市場価格がある上場株であればすでに価格があるので高いか安いかの判断がつきやすいのですが、非上場企業をM&Aで買う場合は価格をどう決めるのでしょうか。今はほとんどのケースで、その企業が将来産み出すリターンを割引率で割り引いて現在価値を計算します。この場合リターンとは厳密には会社の産み出す純利益ですが、営業利益を使ったりもします。上場株への投資でも、市場価格の妥当性を収益還元法で判断したりします。DCFを使って自分の計算した想定価格を市場価格が下回っていれば投資しようとなりますし、上回っているとやめておこうとなります。
では割引率はどう決めるのでしょうか。割引率とはリターンの率ですが、なんパーセントだと決まっているものではありません。自分は4%あれば満足という人もいれば、いや5%は欲しいという人もいるでしょう。M&Aなどでは、株式市場での業界平均的リターンを参考にしながら決めたりしますし、目標リターンを決めて交渉するような場合もあります。
割引率と価格は反比例します。例えば将来の収益を5%で割り引くと、4%で割り引いた価格より現在価値は安くなります。
それをゼロクーポン債で考えますと、最後に100万円で償還される10年物債券の現在価値は、利回りが4%であればさきほど675,564円であると示しました。では5%だとどうか。答えは613,913円で、4%のケースより安くなります。
この計算、単純な四則演算ではできません。もしそれを計算してみたい方は、以下のサイトに行くと、数字を入れるだけで簡単に計算してくれます。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1248923562
ここではいくつかの種類の計算が可能です。例えば100万円を投資して、複利で10年運用するといくらになるかは、このページの右端にある「関連ライブラリー」の欄で、「複利元利合計」に行って計算して下さい。逆に満期時に100万円になる利率4%の割引現在価値はいくらかを計算したい場合、同じ右の欄の「現在価値の計算」に行くと、計算してくれます。
ここまでの話を要約しますと、
「現在の投資理論で使われる最も大事な価格計算のモデルはDCF=収益還元法である。」
そしてその方法はもともと債券計算で使われていた方法で、その他の投資にもそれが応用されるようになった、ということです。
以上、DCFの説明でしたが、実に面倒で理解に時間がかかりますよね。
参考にしてみてください。