「老後資金2000万円不足」のニュースを見て、皆さんはどう思われましたか。文字通りに受け取り不安を感じた方、年金で足りる生活すればいいじゃないかという現実的な方、平均像と自分は違うと感じた方、計算になにかトリックを感じた方、金融庁という大本営の意図を勘ぐった方など、様々だと思います。
喜んだのは証券会社でしょう。「待ってました、この一言!」。資産運用の必要性のお墨付きをもらったからにはセールスで大攻勢を掛けよう!
ではこのニュースの概要を振り返ります。まず6月3日の日経ニュースから引用します。
金融庁は3日、人生100年時代を見据えた資産形成を促す報告書をまとめた。長寿化によって会社を定年退職した後の人生が延びるため、95歳まで生きるには夫婦で約2千万円の金融資産の取り崩しが必要になるとの試算を示した。公的年金制度に頼った生活設計だけでは資金不足に陥る可能性に触れ、長期・分散型の資産運用の重要性を強調した。金融審議会で報告書をまとめ、高齢社会の資産形成や管理、それに対応した金融サービスのあり方などを盛り込んだ。
平均的な収入・支出の状況から年代ごとの金融資産の変化を推計。男性が65歳以上、女性が60歳以上の夫婦では、年金収入に頼った生活設計だと毎月約5万円の赤字が出るとはじいた。これから20年生きると1300万円、30年だと2千万円が不足するとした。
長寿化が進む日本では現在60歳の人の25%は95歳まで生きるとの推計もある。報告書では現役時代から長期積立型で国内外の商品に分散投資することを推奨。定年を迎えたら退職金も有効活用して老後の人生に備えるよう求めた。
引用終わり
この報告書に批判が殺到し、麻生金融大臣が釈明をしています。6月7日の時事通信を引用します。
麻生太郎金融相は7日の閣議後記者会見で、金融庁の報告書で定年後に夫婦で95歳まで生きるには約2千万円の金融資産が必要との試算を示したことについて「あたかも赤字になるような表現は不適切だった」と釈明した。公的年金については「老後の生活設計の柱で、持続可能な制度をつくっている」と強調した。
金融庁が3日に発表した報告書は、長寿社会を見据えた資産づくりや金融サービスのあり方についてまとめている。このなかで、夫婦世帯では老後の20~30年間で1300万~2千万円の備えが必要との試算を盛り込んだ。麻生金融相は「一定の前提で単純な試算を示しただけ。別にそうではない人も多くいる」と指摘した。
今回の報告書は公的年金に加えて、現役期から長期の積み立て投資などによる自助の取り組みを促す趣旨でまとめた。麻生金融相は「さらに豊かな老後をおくるために状況に応じて上手に資産形成に取り組むことを申し上げてきた」と説明した。報告書を巡っては、年金制度の不備を示唆したものだとして野党が金融庁や厚生労働省からヒアリングを実施するなど追及の姿勢をみせている。
引用終わり
こうした報道などに対する私の最初の反応は、「ちょっと待てよ、なんで金融庁がこんな報告書を出すんだ」です。年金問題の所轄は厚労省で、いわゆる「年金100年安心プラン」も厚労省作です。
というわけで、株式相場が一向に盛り上がらない中テコ入れを狙ったのでは、と勘繰るのももっともだと思います。そして様々な反論があるなかで、説得力を持つと感じたのは、「4割近い非正規雇用の人たちは年金保険料を払うことすらままならない人が多いため、年金をもらえること自体が夢のような話だ」というものです。そうした人たちに「資産運用しろ」などといったところで、「元手をくれよ」と言われるのが落ちでしょう。
ニュースでは町の人たち反応を聞いていましたが、回答した多くの人たちが言っていたのは「損するかもしれない投資なんかいまさらできない」というものでした。ごもっともだし、正しい反応だと思います。
政府と日銀は相も変わらず何の効果ももたらさない異次元緩和を続け、金利をゼロからマイナスに押し下げています。本来多くの国で年金資金の一番のそして最も安全な投資対象であるはずの国債への投資は、日本ではすればするほど損をするというおかしな状況になっています。そのため年金資金は、株式相場のリスクをめいっぱい取らざるを得ないところに追い込まれています。それをサポートする意味でも、一般の人たちを株式投資というギャンブルに誘い込み、株価を吊り上げざるを得ない。
そこで政権は厚労省ではなく、株式相場に支えられた安倍政権がもっとも頼りにできる麻生財政・金融相に頼った。その結果「金融審議会に年金問題に踏み込ませ、答申を思い通りに捻じ曲げて高齢化社会への不安を煽り、資金運用へ誘った」。そんなところが今回の金融審議会によるおかしな報告書の真相だと推測します。
もっとも、あまりの批判の多さにびっくりした麻生金融相は、いつもの苦虫をかみつぶした顔で「あたかも赤字になるような表現は不適切だった」。公的年金については「老後の生活設計の柱で、持続可能な制度をつくっている」と逃げざるをえなかった。しかしこの釈明も私に言わせれば、厚労省のテリトリーに踏み込むといういつもの失言癖が出た。
そしてもう一つ最後にもっとうがった見方を付け加えれば、
「年金破綻を見据えて自分でしっかり運用しろ」
これが政権の本音中の本音かもしれません。
次回は2,000万円の作り方について、を予定します。
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