ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

2013年からの資産運用 特別編 ステップアップ債について

2013年04月11日 | 2013年からの資産運用
  折角ですので、かんながらさんの質問をお借りして、ステップアップ債の基礎知識をみなさんにお知らせしておきます。

  ステップアップ債は、将来の金利アップを甘味剤として発行しますが、通常は期限前償還条項付です。まずは一般例から。

例えば発行条件は
・5年債
・ただし毎年、発行体の裁量で期限前償還可能
・クーポンは当初1%(5年債の市場金利も1%と仮定)、毎年0.1%ずつステップアップする。金利合計は1+1.01+1.02+1.03+1.04=5.10%   
平均金利は5.10÷5=1.02%
・発行価格100


  見た目は途中償還されないと、他の債券より確実に儲かるように見えます。他の5年債はずっと1%なのですから。また途中償還されても、損することはないようにも見えます。

  買い手にとっては当初の金利にプラスされるステップアップが魅力的に設定されているので買いやすい。ところが金利が低くなった時には償還されてしまい、再投資に困るということが起きます。

  ゴールドマン・サックスのような発行体は期限前償還の権利の価値(オプション・バリュー)をオカネで計算できますが、投資家にはそんな技はありません。実は本当の計算上のバリューより債券の価値は割高なのです。それが発行体のメリット、つまり買い手のデメリットです。といってもオプションの原理がわからないと、この説明だけではわかりませんよね。

  ですので私はすべての仕組債を「絶対に買ってはいけないリスト」に入れています。仕組み債、仕組み預金というものは、すべて実はこうした割高商品で、その割高感は決してシロウトの方にはわからないよう巧妙にできています。

  しかし今回のGSの債券は期限前償還条件付ではないので、単純なオプション上のデメリットはありませんね。

  次に発行価格についてです。発行価格はなるべく100ちょう度にしたいのですが、金利が丁度の金利よりちょっと高い場合、例えば2%のクーポンにしたいけど、発行日の市場は2.02%が妥当で、2%では低すぎて買い手がつかない。このような場合、クーポンを2.02%にするとあとが面倒なので、価格を100より安い例えば99.8にして調整するのです。市場金利が1.98%だったら逆に価格を100.2にするような具合に微調整します。毎週新規発行されている日本国債の新発債も100ちょう度というのはめったにありません。


さて、かんながらさんの保有するGS債券に入ります。
発行条件は以下のとおりです。
・発行体名  ゴールドマン・サックス
・格付  A-
・発行通貨と償還通貨ー円建て
・クーポン利率  ステップアップの仕組み債、当初の中央値は1.9%で毎年0.1%ずつステップアップ
・購入価格 100
・償還日  2017年
・劣後性の有無  劣後債ではない
・最新の単価は106.5


  まずリスクとリターンをどう考えるか。GSは世界有数のインベストメントバンクで、サブプライムのバブルにもまみれず、かといって他のバンクを救済合併したりもせず、今も相変わらず堅実な経営をしているし、不祥事もとても少ないバンクです。発行体の安全性は高いと思いますし、A-の格付も妥当だと思います。そしてGSがベースとしているアメリカは盤石です。
 
  「当初の中央値が1.9%」というのがちょっとわかりませんが、それを除くと劣後性のない債券でリターンの1.9%プラスαは好条件だと思います。

  次に金利動向についてです。今後の円債の金利動向は、当面上昇は非常に考えづらいです。黒田日銀のプット(債券買い)が金利上昇を何としても防ぐでしょう。

  従ってGS債の価格が上昇している今、この債券を売却してキャピタルゲインを得ても、再投資する債券は低い金利しかもらえません。GSの安全性と金利動向だけを考えると、乗り換えるのはあまり良い選択とは思えません。普通なら継続をお薦めするところです。

  しかし、かんながらさんのご懸念は「官製バブルの崩壊」ですよね。それが生じるとどうなるか。

  これまで説明してきましたとおり、円安が進行しインフレが昂進する危険性があります。

  といってもそれがいつくるか、確実な予想はできません。17年は私の言う15年プラス2年のレンジ内ですね。もしかんながらさんが17年の償還までにその日が来そうだと思われるのであれば、今売却して他の資産、それも外貨資産に乗り換えるのがよいでしょう。為替も当面は黒田プットで簡単に円高には転換しないと思われます。

  もちろん、かんながらさんの全体の資産構成を見ないとアドバイスには限界があります。

以上、少しでも参考になればよいのですが・・・

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2013年からの資産運用 その2... | トップ | 2013年からの資産運用 その2... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
かんながらさんへ (林 敬一)
2013-04-14 08:34:51
どういたしまして。

また何かご質問があれば、遠慮なくどうぞ。
返信する
林様 (かんながら)
2013-04-12 21:44:57
丁寧なご説明ほんとうに有難うございます。発行価格の設定方法については今回初めて知りました。そういえば過去に100を切ってスタートしたものもありましたのに、うかつでした。仕組み債については対面で何度説明を受けてもさっぱりわからないような複雑怪奇なものについては敬遠してきましたが、ステップアップ債はシンプルな感じがしてうっかり油断致しました(笑)。

今回の債権については、もう少し市場が落ち着くのを見計らって、よいところで外債にシフトするのもありかなと考えるに到りました。今現在も外貨資産はある程度保有しておりますが、比率についても適宜見直してみたいと思います。林様のアドバイスに感謝致します。

最後に我が家の資産運用も大事ではありますが、それ以上に今回のインタゲ政策が成功して、これからの日本が若者にとって希望の持てるような社会に変貌してくれることを切に願ってやみません。

これからもブログを通じて引き続き勉強させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します!

返信する

コメントを投稿

2013年からの資産運用」カテゴリの最新記事