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初歩の投資教室 23 アメリカの401K、つづき

2012年10月29日 | お知らせ

  前回は彷徨さんのご質問に答える形で、日米のパフォーマンスの差について、広い視野から日米バブルの大きさの違いを含めて説明しました。
  
  今回はアメリカの401Kのパフォーマンスのよさを市場環境や商品性を含めて分析してみます。ついでにみなさんの参考になるかと思いアメリカの401Kについて、友人の例から簡単に見てみます。

  まず401Kに参加して年金運用をする場合の心得篇です。会社から来ている書類を見ますと、『投資の心得』が書いてあります。

  投資の心得の要点は、「投資は分散を旨とすべし。どんなに素晴らしい会社でも1つの会社に全資産の20%を超える投資をしてはいけない。また一つの産業セクターにも20%を超える投資をしてはいけない」と書かれています。これは株式だけでなく、社債についても同様です。

  運用に当たっては、お薦め投資対象として、様々なファンドがリストアップされています。その数は全部で30種類くらいです。
 各ファンドのパフォーマンスについて、1年、3年、5年、10年もしくは設定以来、の成績表が一覧になっています。またそのファンドに該当するベンチマーク(日本株投信ならTOPIXがベンチマーク)が比較対象として期間を合わせて示されており、ファンド選択のヒントになっています。さらに各々のファンドの維持費用が示され、常にコストを意識しろと書かれています。

  かなり懇切丁寧に社員のことを考えアドバイスをしていますが、実際にはアドバイスは会社が行っているのではなく、会社が指定したプロの投資アドバイザーが行っていて、社員はそのアドバイザーにいつでも問い合わせを入れることができます。

  日本でも401Kはかなりポピュラーになりつつありますが、どうもシステムに胡散臭さが残ります。何故かと申しますと、企業の401Kの仕組み作りとオペレーションは金融機関が当たることになっていて、従業員個人が選択するファンドなどの商品のお薦めは、その金融機関の作った商品が多いのです。

  その点、アメリカの場合はそうした利益誘導、かつ利益相反的なものは排除されますから、アドバイスは公正かつ透明度が高いように思えるのです。

  具体的に説明しますと、日本方式では401Kのオペレーション担当の金融機関は自社グループのファンドに誘導し、かつ手数料は高い方が金融機関にとって都合がよいのでそうしたファンドに誘導しがちになる。

  一方アメリカ方式では独立したアドバイザーが中立の立場からアドバイスするので信用できる。また、手数料の妥当性もチェックしながらアドバイスしている。


  要は投資というものに対するリテラシーの高さがアメリカにはあるということです。

  またちょっと横道に逸れたので戻します。

  アメリカの401Kに特別な秘密があるわけではありません。日米のパフォーマンスの違いは、

1. アメリカの年金資産の運用では、リスク資産である株式に対するポーションを大きく取って、それが功を奏することが多いので、全体のパフォーマンスがよくなる。日本ではリスクを取ると、そのまま単なる損失リスクになってしまうため成績が悪い。その根底は経済成長力の差である。

早い話、平均株価の差がそのまま運用成績の差になって現れるということです。

2.債券ファンドでも成績がよいのは、80年代初頭以降は金利が徐々に低下していて、金利プラスキャピタルゲインをコンスタントに得られた。

3.アドバイザーとファンドマネージャーの能力に、日米では大きな差がある。友人の選択している株式ファンドと債券ファンドは、いずれもベンチマークをコンスタントに上回る成績をあげています。これは、アドバイザーがよいファンドを選択する能力を持つとともに、ファンドマネージャーの運用もうまいということです。

  しかも個人の401Kポートフォリオはアドバイザーが一度投資対象を決めたらそのまま維持するというものではなく、株と債券の投資比率などをかなり細かくチュー二ングにしている様子が見て取れます。新しいファンドへの乗り換えではないので、初期コストはかかりません。

  何回か前の解説で、アメリカの投資アドバイザーの一番の仕事は、株・債券・現金の比率をアドバイスすることだ、と申し上げました。それを地でいっているのです。アドバイザーが中立で自由な立場にいるからできることかもしれません。


さらに付け加えますと、

4.日本人は私の言う『円高トラップに嵌まり込む』からです。これは例えばアメリカの友人の投資対象と同じものを日本人が買えば、実は為替リスクなど跳ね返して高いリターンを得られるのに、日本人は円高のトラップに嵌まり込み、そこから抜け出ようとはしない。外貨建ては為替で負けるものだと思い込んでいるからです。

こうしたことが日米の差の原因にあげられると思います。

  もっとも注意していただきたいのは、友人のアドバイザーがたまたま高い能力を持ち、選択が適切であった可能性もあるという点です。もちろん市場全体がよければ何をやっても成功確率は自然に高くなるでしょう。


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