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日本人の窮乏化 ― 8月の実質賃金、5か月連続のマイナス

2023年09月08日 | 日本経済コメント

 実質賃金とは、賃金の上昇率から物価上昇率を引いたもので、マイナスとは物価上昇に負けている、ということです。

 私は今年の1月11日に「物価上昇4%だって、冗談じゃない!」という投稿をしました。実感の物価と公式発表の物価が大きく違うからです。その原因の一つは帰属家賃というなじみのない仮想家賃を計上し、それが上昇率を薄めていることによると説明しました。二つ目は物価水準の議論をする政府や経済の専門家は、「コア指数」というこれまた実感とはなんの関係もない指数を金科玉条のごとく使用しているからです。コア指数とは主に食品と電気・ガス・ガソリンなどのエネルギーを除いた仮想数値です。

 今消費者が一番困っているのは食品とエネルギー価格の上昇です。ものによっては10%~20%は当たり前。にもかかわらず何故そのような無意味な数値を大事にするのか。理由は、食糧・エネルギーとも価格変動が大きいので、それを加味すると長期のトレンドを見誤るからというもの。我々一般人が困るか否かなど眼中にないのです。

 そしてこれだけ物価上昇が続くと、一番の問題点は物価上昇が賃上げを上回り、実質賃金が目減りしている、つまりは窮乏化することです。9月7日のロイター電をみてみましょう。

引用

 厚生労働省が7日公表した8月の毎月勤労統計(速報)によると、実質賃金は前年比1.7%低下となり5カ月連続の減少となった。マイナス幅は7月の1.8%から小幅縮小した。所定内給与などの現金給与総額は前年比が7月より拡大しており、消費者物価指数の上昇がそれを上回った格好だ。

引用終わり

 しかしちょっと待てよ、今年の春闘の結果はベースアップと定昇を入れて3.58%だったのに。日経新聞ニュースを見ましょう。

「連合が5日発表した2023年春闘の最終集計結果(3日時点)によると、基本給を底上げするベースアップ(ベア)に定期昇給を合わせた平均賃上げ率は3.58%(1万560円)と、3.90%だった1993年以来、30年ぶりの高水準を記録した。」

 であれば物価が3%上昇しても実質はプラスになるのでは?

 マイナスの理由は、連合に参加している企業の従業員数は全労働者の2割を切っているからです。8割の労働者にとって賃上げ3.58%など夢のまた夢。私を含む年金受給者も全く無関係です。今一度申し上げますが、7月の物価上昇率は3.1%でしたが、同月の労働者全体の給与はそれを1.7%も下回っていたのです。これが物価上昇率を差し引いた実質賃金がマイナスとなってしまうカラクリです。

 ついでに1月の投稿で私は年金受給額についてもこう述べました。

「これだけ物価が上がっている中で 日本の厚労省は年金支給額を減らす老人いじめもしています。老齢年金満額支給の月額は令和 2 年度の 65,171 円に対して今年度は 65,075 円。わずかですがマイナスで、「マクロスライド」という訳の分からない政府のごまかし政策により減らされているのです。一方私自身は、金額は少ないですがアメリカ合衆国から年金をもらっています。 毎年12月に翌年の年金額のお知らせが来るのですが、今年はなんとプラス 8.7% です。アメリカの物価上昇率をきっちりと反映してくれますので、納得の数字です。」

 ちなみに日本の年金受給者は一昨年度で6,700万人にもなっていて、日本の半数の人々は、賃上げなど全く関係ないという状態にまでなっているのです。

 最近よく「賃上げでも消費が伸びない」と言われていますが、消費には消極的にならざるを得ない年金受給者への手当をよほどしっかりとしなければ、全体の消費など伸びるはずがないのです。

 もう一つ話題にすべきことがあります。それは、

 家計はこのように厳しいのに、原油価格は一昨日のサウジの減産継続の発表によりまた跳ね上がりました。ロシアも減産を続けているため、原油価格の高止まりは続きそうです。それに加えて日本の場合は、政府・日銀の政策的円安も加担しているため、ガソリン価格はさらに高騰が見込まれます。

 日本政府は補助金政策によりガソリン価格を抑えにかかるとのこと。価格が抑えられることは歓迎ですが、長期的に見た場合正しい判断かはかなり疑問です。73年の第一次オイルショック時の物価はこんな生易しい上昇ではなく、1973年は11.7%、74年にはなんと23.2%まで急伸しました。政府も打つ手がないほどで、GDP成長率も74年にはマイナス0.5%にまで陥ったのです。

 そのため企業は必死に自助努力して克服。それがその後日本が原油価格に左右されない発展の礎になりました。逆にバブル崩壊以降、政府による莫大な公共投資や補助金漬けは企業や消費者をナマケモノにしたきらいがあると私は思っています。

 現在の政府の政策はどうか。23年度の労働白書の案ではつぎのようなアイデアが示されています。9月3日の日経ニュースを引用します。

「全労働者の賃金を1%あげるとおよそ2.2兆円の経済効果があると試算した。他国に比べて給与が伸びていない状況を踏まえ、離職率低下など企業側のメリットを前面に出し、賃上げを促す。賃上げ分は主に小売りなどの商業や不動産業で消費されるとみる。新たな需要に対応するため、雇用は16万人分増える。」

 計算はそうでしょうが、実現性は皆無。日本の全労働者の賃金を1%上げるなど、役人の幻想にすぎません。

 では1%で10兆円の効果を上げられる策を私が伝授しましょう。それはほんの数人の決断で可能です。日銀がいまの政策金利をマイナスからプラスにして銀行預金の金利を1%に上げるだけで可能なのです。なにせ家計の金融資産は2千兆円、うち現預金だけでも1千兆円あるので、預金金利たった1%で家計は10兆円の金利収入を得ることができます。

 というより、いままでクロちゃんの愚かな政策により「家計は10年で100兆円も損失をこうむった」というのが正解でしょう。そして実は残りの金融資産も、例えば保険資産や債券などの資産でも政策金利が上がれば、10年で数十兆円のプラスは見込めます。

 しかしそれらはすでに逸失利益。それを取り戻すには10年物米国債で年に4%もらうのが一番です。

 今後もし本当に金利が上昇すれば、日銀を始め日本中はひっくりかえるほどインパクトを受けざるを得ません。それへの保険にもなる米国債投資こそが決定打なのです。

 

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1 コメント

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Unknown (まーくん)
2023-09-15 08:04:59
今年の賃上げは数字の読み方を専門家も含めて間違えちゃいましたね。定昇のない企業も多いので3.58%という数字が独り歩きし、ならば実質賃金の低下も終わり、消費も上向くはずだと期待しちゃいました。実は先生が引用された日経の記事には続きがありまして、「ベアと定昇を明確に区別できる3186組合で見ると、ベアの引き上げ率は2.12%だった」とあります。今の時代に定昇とベアが明確に区別できる職場って世間では勝ち組に分類される大企業製造業(プラス公務員)位ですから、そこが2.12%のベアではどうにもならないですね。
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