このところ日米ともに長期国債の金利が上昇しています。その結果、両国ともにそれぞれの国債は安全か否かの議論が行われています。その議論を数字を基にしっかりと検証しておきましょう。
まず私は著書の中で、以下のような指摘をしていました。
引用
「日本国債は海外投資家の保有が少なく国内投資家がほとんどなので、いざという時でも売り込まれることはない」と言う安全神話がある。しかし事実は「日本の財政状況は非常に深刻で、危険なのに利回りがほぼないような債券に、海外投資家は手を出さないのだ」。
引用終わり
6月5日、日本国債30年債の入札が不調だったという報道がありました。30年債の金利はその原因をブルームバーグとロイターの報道をもとにまとめます。
1.長期金利の上昇と価格変動リスクの増大
日銀が2024年にマイナス金利政策を終了し、国債買い入れ額を段階的に減額したことで、長期金利が上昇傾向にあります。特に30年債のような超長期債は、金利変動に対する価格感応度が高く、金利上昇局面では価格下落リスクが大きくなります。このため、投資家は超長期債への投資を控える傾向が強まっています。
2.財政赤字拡大への懸念
日本の政府債務残高はGDP比で約248%に達しており、主要先進国の中でもダントツに高い水準です。政府の財政拡大政策や、将来的な増税・インフレリスクへの懸念から、超長期債の保有リスクが高まっていると市場は見ています。これが投資家の需要減退につながっています。
3.日銀の国債買い入れ減額と市場の需給悪化
日銀は2024年8月から国債買い入れ額を段階的に減額しており、2026年初頭には月額約3兆円まで縮小する計画です。この政策変更により、国債市場の需給バランスが悪化し、特に超長期債の需要が減少しています。これが入札不調の一因となっています。
4.投資家層の慎重姿勢
生命保険会社などの主要な超長期債投資家は、金利のボラティリティ上昇や将来の金利上昇リスクを懸念し、超長期債の購入に慎重になっています。また、海外投資家も日本の財政状況や市場の不透明感から、超長期債への投資を控える傾向が見られます。
以上
ということで、従来からの最大の投資家である日本の生保が後ろをむいてしまっています。ちなみに5年前に発行された30年債金利0.6%の価格どうなっているか。市場金利が2.9%程度に上昇した結果100円だった価格が70円台前半と、とてつもない暴落になっています。これは莫大な債券投資をしている生保や農林中金、ゆうちょ銀行などにとって莫大なマイナスインパクトになっています。それが先日の入札の不調にもつながったのです。
現状における日米国債の海外勢保有比率はおよそ以下のとおりです。
日本国債海外勢保有比率;6%
参考;米国債海外勢保有比率;30%
米国債は安全なのに金利が高いので海外投資家が買うのです。
両国の国債はリーマンショック後に中央銀行が買い入れて支えました。ではそれぞれの中央銀行の現状の保有比率はどうか?
日本国債の日銀保有比率;47%
米国債のFRB保有比率;10%
日本国債は海外勢に買ってもらえないので、相変わらず日銀が大量保有しているイビツな自給自足状態にあります。
そして相変わらず財政赤字が続いている国債発行残高の対GDP比率はどうなっているか、アメリカと比較します。
日本国債の発行残高の対GDP比率;263%
米国債の発行残高の対GDP比率;123%
GDPの2.6倍も中央銀行が保有し、さらに買い進めている状況が持続可能であるとはとても思えません。では先を見通すために、日米経済の過去10年のGDP平均成長率はどうだったか?
過去10年
日本のGDP平均成長率;0.8%
米国のGDP平均成長率;2.6%
今後10年の成長率見通しをIMFなど国際機関などから引用すると
日本;0.5%~0.7%
米国;1.7%~2.0%
長期的に日米成長率格差は拡大の一途をたどりそうです。
国債の安全性は政府の返済能力にかかっていますが、その裏付けはどの程度経済成長するか否かです。成長すれば税収が上がり、返済能力が増すからです。
ここまでをまとめますと、日米の国債に関する安全性問題は、長期的視野にたって検証すれば、とてつもない差があり、今後差は開く一方で、縮まる要素など一つもありません。
トランプがどうしようと、しょせんあと3年半。
さー、あなたはご自分の大切な資産を円に置いておきますか?ドルに置いておきますか?
>米ドルの日本円に対する優位は理解できます。しかし今は、ドル自体の不安が言われております。そこはいかがでしょうか。ドルもインフレで価値が落ちてるかと思います。
優位は理解できるが、今はドル自体の不安が言われているということの意味がよく理解できません。
短期で見ると、ドル安いうことですか?
昨年の7月にドルは160円台でそれに比べるとドル安です。
しかし5年ほど前、20年12月にドルは104円。
14年ほど前11年11月には77円でした。
かなりのドル高です。
「ドル不安」とはフィーリングの問題のように思えます。数字で議論したいですね。
私が吉田さんの質問の>ドル自体の不安が言われております。・・・というところを読んで考えたのは、日本の財務状況から考えて円を保有し続けることにリスクがあるならば、米ドルそのものにも同じようなリスクが出てきているのではないか?という点です。もう少し突っ込んで言えば、米ドルよりスイスフランとかオーストラリアドルとか「日本円でもなければ米ドルでもない他の通貨」への投資と比べて、やはり米国債投資には優位性・将来性が今現在もあるのかという点についてどうお考えでしょうか?
>日本の財務状況から考えて円を保有し続けることにリスクがあるならば、米ドルそのものにも同じようなリスクが出てきているのではないか?
日米のGDP対比の債務比率が2倍も差があり、成長力も大きく異なる日米のリスクが、同じようだとは全く思えません。
同じリスクがある根拠は何でしょうか?
>米ドルよりスイスフランとかオーストラリアドルとか「日本円でもなければ米ドルでもない他の通貨」への投資と比べて、やはり米国債投資には優位性・将来性が今現在もあるのかという点についてどうお考えでしょうか?
スイスと言う国の債務比率はGDPの3割台しかないので実に安全な国です。債務があまりないので、債券で買えるものもほとんどないと思います。証券会社のサイトでみたことありますか?
AIで調べてみると、以下のものが発行はされているとのこと。
引用
スイス連邦政府はCHF建て国債を定期的に発行しており、中央銀行のスイス国立銀行(SNB)が入札を実施していますたとえば、2025年4月9日に以下のような新規・再オープン債が発行されました:
• クーポン0.25%、満期2035年6月23日
• クーポン0.875%、満期2047年5月22日
(発行総額311.27百万CHF)
引用終わり
リターンは10年物で0.25%、22年物で0.875%しかありませんが、買いますか?もちろん流動性も日米の国債に比べれば、ないもの同然ですが。
オーストラリアは私の一冊目の著書では代替候補として挙げています。債務比率もスイス同様30%台くらいで超安全です。当時、10年もの金利はアメリカ3.1%、オーストラリア5.2%。それなら為替のリスクを取るに値しそうです。
しかし2冊目では代替として取り上げませんでした。それは為替のリスクと金利レベルの比較で米ドルが優位だったためです。10年物金利は現在4.2%とアメリカより低い。
工業製品では優位性はほとんどなく、1次産品に頼っているため、資源・農産物価格に豪ドルが大きく左右されれます。為替リスクを取ってまで投資するに値しなくなりました。
>ドル円に限らず、昨今、通貨自体の価値の減少が言われてます。
通貨の価値はあくまで相対価値です。日本に暮らしている人は円ベースでドルやその他通貨を比較します。円を含め、その他の通貨全部が安くなることはありませんよ。全部が安くなったら為替レートは変化しません。
円だけが高くなると予想するなら、外貨建て投資はやめるべきです。
先生、お返事ありがとうございます。
ドルと円といいますか、いずれの価値もどうなのかなとの思いからのコメントでした。金やビットコインなどの現物、コモディティの価格がドルに対して上昇し続けていること。先の4月の株価調整のときに米国債の買いがかつてほど入らず、米ドルの信任は、と言われたことなどが根拠です。円はともかく、今後も米国債は大丈夫だと思いますが、超長期などはまた時代が変わるかもと思った次第でした。駄文失礼しました。
オーストラリアに関しては、「1次産品の取引価格にAUDが大きく左右される」という観点がすっぽり抜けておりました。
スイスフラン・オーストラリアドルとの比較においても米国債投資は依然として有望であることがよく理解できました。(先生の1冊目の著書に出会以来、忠実に米国債投資を続けていますし、結果にも満足しているのですが、ずーーと同じような投資を続けていると他の投資はどうなんだとたまに浮気したくなる癖が自分にはあるようです・・・。)