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プーチン、旗色悪し

2022年10月12日 | ロシアのウクライナ侵攻

  クリミア大橋の爆破が大きな余波を拡げています。プーチンはウクライナ全土に仕返しとしてミサイルを撃ち込み、子どもを含む多数の死傷者が出ています。ウクライナ側をテロリストと呼んでいますが、世界は民間人を殺害するプーチンこそテロリストだとして、戦争犯罪だと糾弾しています。なんというひどいことをするのでしょう。しかし原爆でなくてよかったと思います。

  ロシアの中立系レバダセンターによる9月の世論調査では、プーチンの支持率が8割を切り6ポイント低下し78%に、不支持率は6ポイント上がって21%になっています。果たしてこの無差別攻撃により今後どうなるか、注目されます。

 

  私は9月16日の投稿、タイトル「ロシア国内での反乱勃発」で、日本のマスコミがオリンピック賄賂疑惑と統一教会問題一色であることを批判して、ロシア国内のあり得ないほどの反プーチンの動きをお知らせしました。それからやっと一月近くたって日本でも多くのマスコミがロシア国内での反乱の状況を報道するようになりました。9月16日の私の投稿をサマリー引用します。

サマリー引用

  ウクライナが東部ハルキウ州で大攻勢をかけて奪還し、ロシア軍が撤退している中、小さなコラムで見逃せない大きなニュースが流れました。それはロシア国内で反プーチンののろしが各地で上がっているというとんでもない大ニュースです。何故とんでもないのか。それは政府や軍部への批判をすると、それだけで懲役15年に処されるという法律が春先に成立しているからで、そのリスクを取る勇敢な議員たちが出てきたというのです。

以下、朝日新聞記事とニューズウィークを引用。

モスクワやサンクトペテルブルクの18カ所の区議会議員がプーチン氏に辞任を求める要請書を公表した。要請書では侵攻を念頭に「プーチン氏の行動は時代遅れで、ロシアと市民の発展を妨げている」と指摘した。ある議員はツイッターでロシア兵の犠牲や経済低迷を問題視し、プーチン氏の弾劾を求めた。

モスクワなど複数の主要都市の区議グループも要請書に署名している。

要請書は「我々ロシア地方議会の区議グループは、ウラジーミル・プーチン大統領の行動がロシアと市民の未来に害を及ぼすと確信している」と述べ、さらにこう続けている。「プーチンがロシア連邦の大統領の座を退くことを要求する!」

スモルニンスコエ地区の議会は9月上旬にも、プーチンを反逆罪で弾劾することを提案していた。同議会のニキータ・ユレフェフ区議は、ウクライナに対する特別軍事作戦がロシア軍の兵士たちを死なせ、経済に打撃をもたらし、NATOの拡大を招いていると批判した。

  「プーチンを反逆罪で弾劾する」とは、本当なのかと思わせるくらいの大ニュースですが、日本では特に大きな報道がなされていません。35人の議員たちだけでなく、ウクライナ侵攻の開始当初、モスクワでデモを繰り広げた数万の若者は、もちろん拍手喝采しているでしょう。この動きがもっと拡大し、悪魔皇帝プーチンがハチの巣になる日を待っています。

サマリー引用終わり

 

  このところやっと日本の新聞・TVもロシア国内の反プーチン運動をきちんと報道するようになりました。予備役の強引な招集やクリミア大橋が爆破されたことから、プーチンの核使用が現実性を帯びた結果でしょう。そうした中から私が特に注目したロシア国内の発言を取り上げます。ロシア国会下院の国防委員長の発言です。

「国営テレビでの戦況報告でウソをつくのはやめるべきで、正確な戦況を伝えるべきだ」と国防省に要求しました。議会重鎮の国防委員長発言ですから、国防省も無視はできないでしょう。

  そして連日予備役の招集や、予備役の条件に該当しない一般の人々までが誰かれ構わず招集事務所に連行され、拉致同然で訓練所に送られ、2・3日で前線に投入されるというお粗末な様子も報道で明らかになりつつあります。それに対して国外脱出の長蛇の列が報道されています。ロシア脱出の動きは止まらないでしょうし、反プーチンの動きも止まらないでしょう。

 

  このところやっとプーチンの旗色が悪くなっていますが、「ウクライナ人は負けない」と、すでに2月24日の侵攻直後に予想した賢人がいました。イスラエルの歴史学者ユバール・ノア・ハラリ氏です。彼の著書「サピエンス全史」は世界中でベストセラーになっています。

 ハラリ氏は2月24日に侵略が開始された直後、28日に以下の文章を英ガーディアン紙に投稿していました。長いですが、そのまま再掲します。

 

引用

タイトル:「プーチンは負けた」  

開戦からまだ1週間にもならないが、ウラジーミル・プーチンが歴史的敗北に向かって突き進んでいる可能性がしだいに高まっているように見える。彼はすべての戦闘で勝っても、依然としてこの戦争で負けうる。ロシア帝国を再建するというプーチンの夢は、これまで常に噓を拠り所としてきた。「ウクライナは真の国家ではない、ウクライナ人は真の民族ではない、キエフやハリコフやリヴィウの住民はロシアの支配を切望している」、とプーチンは言う。だが、それは真っ赤な噓で、ウクライナは1000年以上の歴史を持つ国家であり、キエフはモスクワがまだ小さな村でさえなかったときに、すでに主要都市だった。ところが、ロシアの独裁者プーチンは、この噓を何度となく口にするうちに、自らそれを信じるようになったらしい。

 プーチンはウクライナ侵攻を計画していたとき、既知の事実の数々を当てにしていた。彼は、ロシアが武力でウクライナよりも圧倒的優位に立っていることを知っていた。北大西洋条約機構(NATO)がウクライナに援軍を派遣しないだろうことを承知していた。ヨーロッパ諸国はロシアの石油と天然ガスに依存しているので、ドイツなどの国々が厳しい制裁を科すのを躊躇するだろうこともわかっていた。彼はこれらの既知の事実に基づき、ウクライナを急襲して政府を倒し、キエフに傀儡政権を打ち立て、西側の制裁を乗り切る腹だった。

 しかし、この計画には大きな未知数が一つあった。アメリカがイラクで、旧ソ連がアフガニスタンでそれぞれ学んだとおり、一国を征服するのは簡単でも、支配し続けるのははるかに難しいのだ。自分にはウクライナを征服する力があることを、プーチンは知っていた。だが、ウクライナの人々が、ロシアの傀儡政権をあっさり受け容れるだろうか? プーチンは、受け容れるほうに賭けた。なにしろ、聞く気のある人になら誰にでも執拗に繰り返したとおり、ウクライナは真の国家ではなく、ウクライナ人は真の民族ではないというのが、彼の言い分なのだから。2014年、クリミアの人々はロシアからの侵入者にほとんど抵抗しなかった。それなら、2022年にもそうならない道理など、どうしてありえようか?

 ところが、日が経つにつれて、プーチンの賭けが裏目に出たことがますます明らかになってきている。ウクライナの人々は渾身の力を振り絞って抵抗しており、全世界の称賛を勝ち取るとともに、この戦争にも勝利しつつある。この先、長らく、暗い日々が待ち受けている。ロシアがウクライナ全土を征服することは、依然としてありうる。だが、戦争に勝つためには、ロシアはウクライナを支配下に置き続けなければならないだろう。それは、ウクライナの人々が許さないかぎり現実にはならない。そして、その可能性は日に日に小さくなっているように見える。

 ロシアの戦車が1台破壊され、ロシア兵が1人倒されるごとに、ウクライナの人々は勇気づけられ、抵抗する意欲が高まる。そして、ウクライナ人が1人殺害されるたびに、侵略者に対する彼らの憎しみが増す。憎しみほど醜い感情はない。だが、虐げられている国々にとって、憎しみは秘宝のようなものだ。心の奥底にしまい込まれたこの宝は、何世代にもわたって抵抗の火を燃やし続けることができる。プーチンがロシア帝国を再建するためには、あまり流血を見ずに勝利し、あまり憎しみを招かないような占領につなげる必要がある。それなのにプーチンは、ますます多くのウクライナ人の血を流すことによって、自分の夢が実現する可能性を自ら確実に消し去っている。ロシア帝国の死亡診断書に死因として記される名前は、「ミハイル・ゴルバチョフ」ではないだろう。それは「ウラジーミル・プーチン」となるはずだ。ゴルバチョフはロシア人とウクライナ人が兄弟のように感じられる状況にして舞台を去った。プーチンは逆に、両者を敵同士に変え、今後ウクライナが自国をロシアと敵対する存在として認識することを確実にしたのだ。

 突き詰めれば、国家はみな物語の上に築かれている。ウクライナの人々が、この先の暗い日々だけではなく、今後何十年も何世代も語り続けることになる物語が、日を追って積み重なっている。首都を逃れることを拒絶し、自分は脱出の便宜ではなく武器弾薬を必要としているとアメリカに訴える大統領。黒海に浮かぶズミイヌイ島で降伏を勧告するロシアの軍艦に向かって「くたばれ」と叫んだ兵士たち。ロシアの戦車隊の進路に座り込んで止めようとした民間人たち。これこそが国家を形作るものだ。長い目で見れば、こうした物語のほうが戦車よりも大きな価値を持つ。

 ロシアの独裁者プーチンは、誰よりもよくそれを知っていてしかるべきだ。彼は子供の頃、レニングラード(現サンクトペテルブルク)包囲戦におけるドイツ人の残虐行為とロシア人の勇敢さについての物語をたっぷり聞かされながら育った。今や彼はそれに類する物語を生み出しているが、その中で自らをヒトラー役に配しているわけだ。

 ウクライナ人の勇敢さにまつわる物語は、ウクライナ人だけではなく世界中の人に決意を固めさせる。ヨーロッパ各国の政府やアメリカの政権に、さらには迫害されているロシアの国民にさえ、勇気を与える。ウクライナの人々が大胆にも素手で戦車を止めようとしているのだから、ドイツ政府は思い切って彼らに対戦車ミサイルを供給し、アメリカ政府はあえてロシアを国際銀行間通信協会(SWIFT)から切り離し、ロシア国民もためらわずにこの愚かな戦争に反対する姿勢をはっきりと打ち出すことができるはずだ。

 私たちの誰もがそれを意気に感じ、腹をくくって手を打つことができるだろう。寄付をすることであれ、避難民を歓迎することであれ、オンラインでの奮闘を支援することであれ、何でもいい。ウクライナでの戦争は、世界全体の未来を左右するだろう。もし圧政と侵略が勝利するのを許したら、誰もがその報いを受けることになる。ただ傍観しているだけでは意味がない。今や立ち上がり、行動を起こす時なのだ。

 あいにく、この戦争は長引きそうだ。さまざまに形を変えながら、おそらく何年も続くだろう。だが、最も重要な問題にはすでに決着がついている。ウクライナが正真正銘の国家であり、ウクライナ人が正真正銘の民族であり、彼らが新しいロシア帝国の下で暮らすのを断じて望んでいないことを、この数日の展開が全世界に立証した。残された大きな疑問は、ウクライナからのこのメッセージがクレムリンの分厚い壁を貫くのに、あとどれだけかかるか、だろう。

引用終わり

 

  ハラリ氏は戦闘が長く続くことをキーウ攻撃開始の直後から予想し、プーチン自らが、かつてロシアへ侵攻したヒトラー役を演じていることを見事に喝破しています。ロシアの侵攻直後、わずか4日後のことでした。

 

  そして今ロシア国内では人々が反プーチンを声高に叫び、弾圧をものともせずに反プーチンデモが繰り広げられ、政府の要人までもがプーチンを表立って非難するところに至っています。今回のプーチンの無差別テロ攻撃は世界の人々を一層反プーチン側に寄らせるだけでなく、ロシア国内も反プーチンに大きく旋回するに違いないと私は思っています。

 

 

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