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ハンコは文化だって? 私のハンコ物語

2020年10月13日 | ニュース・コメント

  ハンコはいったいどうなるのか。押印を省略しようという動きが本格化しています。何を今さらと思わざるを得ません。行政改革の目玉の一つになりつつありますが、それが本当に目玉だったら、がっかりですね。「大山鳴動、ハンコ一ヶ」に終わらないことを祈ります。しかしハンコを巡って議員連盟があるとは、驚きですね。

  ハンコって、意外にも好きな人がけっこういますよね。趣味のように多くのハンコを持つ人を知っています。その一人は私の義父です。20個ちかく持っていて、家内を含む子供たちの悩みは、どのハンコがどの銀行などに使用していたか、一向にわからないこと。ご本人はすでに90歳になるので、もちろん忘却のかなたです。老人ホームに入っているため、銀行や証券会社の手続きは我々が代行しますが、すべてのハンコを持参して、担当者と一緒に探すのは手間暇がかかります。

  しかしハンコがあれば本人がいなくとも手続きができてしまうのは、どう考えても不合理です。なので私はハンコが嫌いです。便利なのか危険なのか。私にはハンコは危険物としか見えません。ハンコを巡る犯罪はあとを絶ちません。なのに使われ続けるハンコ、みなさんはどう思われているのでしょうか。

 

  ハンコについて考えたのは社会人になって早々の仕事がきっかけでした。それらを含め、ハンコにまつわるエピソードを紹介します。

エピソード1

  私の社会人はJALでスタートを切りました。霞ヶ関にあった国際線の航空券を発行するカウンターの係員でした。昔の航空券を覚えている方もいらっしゃると思いますが、国際線の航空券は例えば発券会社であるJALが、パンナムであろうがルフトハンザであろうが発行できます。例えば世界一周の航空券であれば非常に高額のものですが、4枚つづりのカーボンコピーでできていて、4つの区間までは1冊の航空券で発行します。NRT-SFOはJL、SFO-JFKはUA、JFK-CDGはAF、CDG-NRTはAFという具合です。航空会社の2桁のコードはもとより、地点空港の3桁のコード、100か所くらいはいまでも覚えています。

  航空会社は責任上、いったいどこの誰がその券を発行したのか後々でも判明できるようにするため、発行航空会社・支店・日付の入ったヴァリデーション・スタンプを押し、さらに券面を書いた人のイニシャルサインを書き入れて完成します。

  その時に、「そうか国際的にはサインが通用するんだ」。それがハンコ不要論のきっかけだったようです。

 

エピソード2

  その次は、アメリカ駐在時代に毎日のように必要だった小切手での支払いです。アメリカでは電気料金の自動引き落としなどという怪しいシステムを信用する人はほとんどいませんでした。銀行を信用していないのです。そのため公共料金から買い物での支払いまで、クレジットカード、もしくは小切手で行い、いずれにしろサインが必要で、それが日常的支払い行為でした。

 

エピソード3

  そして決定打となった象徴的出来事は、日本の銀行口座をサインで作ったことです。アメリカの駐在中に投資銀行に転職を決めて東京に帰ってきたのですが、今でもメガバンクとして存在している都市銀行で給与振込口座を作る時に、「ハンコは盗難のおそれがあるので嫌だ、サインにしてくれ」と主張しました。

 

理由の第一は、同じ支店で口座を持つ同僚のアメリカ人たちは全員サインで口座を作っていること。そして第2の理由、これが実に大事で決定的な理由なのですが、偽造ハンコで口座から多額の現金を引き下ろされ、それを違法だと訴えた口座所有者が、裁判で負けたという事実です。

  昔の通帳にはハンコの印影がありましたが、それを基に犯人が偽造ハンコを作って、盗んだ通帳と一緒に現金の払い出しに成功。被害者は銀行に損害賠償を求めましたが、なんと敗訴したのです。何故偽造とわかったのか。被害者はハンコは通帳と別にいつも自分で所持していたからです。

  この事件、かなりの衝撃をもって報道されましたが、私はその新聞記事を持参し、「おたくは偽造ハンコで通用するので、ハンコは嫌だ」と主張。するとやっと支店長代理が出てきて、「サインでけっこうです」となりました。

 

  私自身はこのメガバンクを含め外資系銀行と別の邦銀にもサインだけの口座を持っていました。外資系は日本から撤退したので、現在は邦銀2行だけです。

  ハンコが嫌いでもハンコしか通用しない役所の書類などはしかたなく印鑑を使いますが、でもまずは「すみません、ハンコ忘れましたので、サインか拇印でいいですか」とダメもとで聞いてみます。役所以外だと、2回に1回程度は通用します。

 

エピソード4

  ハンコで一番ひどいと思っているのは、大事な契約書などの捨て印です。「ここに捨て印をお願いします」と言われると、私は即座に「嫌です」と言います。勝手に訂正されてたまるもんか、というわけです。「訂正が必要なら、何度でもハンコを持って訂正しに来ます」というと、それが通用しなかったことは一度もありません。

 

  捨て印などという悪しき習慣、みなさんもお気をつけくだされ。

 

  ハンコは文化だという方もいらっしゃるとは思いますが、そうした方々もハンコによる犯罪に巻き込まれないよう注意しましょう。

 

  

コメント (4)
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