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パッティングの科学 新ルール版

2019年04月18日 | ゴルフ

  今年のマスターズトーナメントは11年ぶりに43歳のタイガー・ウッズが勝利して終わりました。1980年代にはジャック・ニクラウスが46歳で最年長勝利をおさめ、その時はJack is back! と言われ、世界のゴルフファンが称賛しました。今回のタイガーのカムバックも同じかそれ以上の称賛を受けています。私も手に汗握り、テレビにかじりついて観戦しました。

   今年のゴルフシーンには非常に大きな変化がありました。それはパッティングのルール変更で、グリーン上でのパッティングの際、ピンフラッグを差したままでカップインしてもかまわなくなったというルール変更です。昨年までは禁止され、そのままカップインするとペナルティーを科されていたのが、ペナルティーがなくなりました。この改定の趣旨は時間短縮とルールの簡素化です。今年に入ってからプロもアマもこぞってピンを差したままプレーをし、時間短縮に貢献しています。

   私の場合冬はゴルフをせずスキー専門なので、今年は3月末に初めてコースに出たのですが、ピンを立てたままでのパッティングには大きな違和感を持ちました。ところが年中プレーをしている仲間たちはすでに全員がピンを抜かずにパットしていましたので、これは慣れなければと思い、私も抜かずにプレーしてみました。慣れればすぐに違和感は解消できました。面倒なピンの抜き差しから解放され、時間セーブに貢献できたと思っています。

  どうせ時間短縮を目指すなら、グリーン上でボールをマークするのもやめたほうがいいと以前から私は思っています。例えばバンカーからショットしてグリーンに上がると、他のプレーヤーのラインを踏まないよう歩くために、目を凝らして小さなマーカーを3つ探さなくてはいけません。時間の無駄です。パッティングの邪魔にならない限り、マークはせずにボール置いておくほうが時間短縮になります。

   ではいったいカップインする確率は、ピンを差しておいたほうが高いのか、抜いたほうが高いのか、探究してみましょう。

   直感的にはピンは立てておくべしと思います。カップの上を通り過ぎるほど強いボールも、ピンに当たればカップインするからです。でも少しでも真ん中を逸れて当たった場合はどうでしょう。はじかれて逸れるかインするかわかりません。私はゴルフヲタクだしゴルフは科学的に考えるほうですから、どちらがカップインの確率が高いかについて科学的・実験的解を求めたくなりました。

  そこで実証実験はないのか、早速ネットで調べてみると、私をはるかに超えるゴルフヲタクによる実験動画を探し当てました。アマチュアの方ですが、アルミの細めの雨どいのようなものを買ってきて、グリーン上にかなりの傾斜角度で設置。その上にボールをころがすのですが、その樋のどこからボールを転がすと、ボールがカップの横を通り過ぎて何センチ転がるか目安を付けます。およそ転がる距離が30㎝おきくらいになるよう、樋に目盛りを刻んでおき、そこから順に転がすのです。カップを過ぎてころがる距離は1.7mオーバーから7.3mオーバーまでセットしてありました。

  ちなみにカップの大きさはルールで決まっていて10.8㎝、108㎜で、ボールは4.27㎝、約43㎜、ピンの太さは標準で直径13㎜程度です。ということはピンを差したままボールがカップインすると、ボールとカップの隙間は以下の引き算により4.5㎜と計算されます。割と狭いです。

 カップ半分54㎜-ボール1個43㎜-ピン半分6.5㎜=4.5㎜

  次にその転がし装置をカップの近くに設置してカップの真ん中を狙って転がしカップインの検証をします。まずピンを差さないでカップの真ん中を狙う実験です。いったいボールはカップを何メートルオーバーする強さまでならカップインすると思われますか?私は経験的に2mくらいまでだろうと思っていたのですが、実際にはとんでもない、3mまでは問題なく入っていて、3.7mを超えるとはじかれる様子が写っていました。つまり限界は私の勘より倍近い、およそ3.4mくらいまでのオーバーなら入るとなります。もちろんこれは水平なグリーンでの実験です。

   それがピンを立てたままだとどうなるか。ピンにまっすぐに当たると、なんと7mくらいオーバーするボールでもカップインしていました。それ以上の映像はありませんでした。たしかに我々もグリーンの外からすごく強く打ってしまってもピンに正面切って当たればカップインしたという経験を持っています。実用性から考えれば、グリーン上のパッティングで7m以上オーバーして打つことはないので、十分な検証結果だと言えます。

   では次にカップの中心からボール一個弱、約3㎝くらいはずして転がすとどうなるか。その場合ピンを抜いていると、2.5mオーバーの強さまでは入り、2.9mは入っていませんでした。では果たしてピンがあるとどうなるか、一番興味ある実験です。結果は2.9mでもカップインしていました。もちろん大雑把な実験ですから厳密ではありませんが、同じ2.9mで結果は正反対になっています。そこでほぼ確実に言えることは、「ピンのあるなしにかかわらず、2.9mオーバーくらいまでなら、ボールが中心からずれていても入る」。つまりピンは邪魔しません。

   ここまでを強引にまとめますと私の総合評価は、「ボールがピンの真ん中に向かって当たっても、すこしずれて当たるくらいでも、ピンがあるほうがカップインの確率は高い」となります。なので、今後もピンを差したままパッティングをすることにします。

   ところでプロゴルファーはどうしているのでしょう。トーナメントを見ていると、ピンを差したままにする選手の数が、抜く選手を若干上回っているように思えます。現在現役の選手で最も科学的探究心の強いプレーヤーとして知られているのが、アメリカの若手、松山英樹と同世代のデシャンボー選手です。多くの方は彼をご存じないと思います、すでにPGAトーナメントで3勝しています。彼は一昨年あたりから有名になったのですが、理由はアイアンクラブの長さをすべて7番アイアンにそろえているという非常に特殊なセッティングによります。自分がもっとも打ちやすい長さにそろえる。合理的理由は認められます。そんなプレーヤーは彼以外には歴史的にもいないと思われます。通常は短い距離を打つアイアンのシャフトは短く、長い距離を打つアイアンは長く、階段状にセッティングしてあります。

   その彼がやはり「ピンを立てておいたほうが確率は高い」と言って、今年初めから立てたままでプレーして勝利に結びつけていました。もっとも超ヲタクの彼は、「ピンの素材にもよって結果は異なる」と、素材差まで分析しているそうです。ピンは主にグラスファイバー製ですが、たまに金属製があり、当たった時の反発力に差があるためです。多くの選手が右へならいしています。

 しかしマスターズ・チャンピオンに返り咲いたタイガー・ウッズは抜く派です。彼はほとんどの場合、ピンを抜いてプレーしています。理由はよくわかりませんが、彼は過去そうしてマスターズに4回優勝しましたし、今年も5回目の優勝を遂げました。多分、抜くことに「慣れているから」が一番の理由でしょう。

   ちなみにユニクロのロゴマークを付けているオーストラリアの元マスターズ・チャンピオン、アダム・スコットは「ピンを立てておいたほうが、ターゲットをイメージしやすく、集中できて結果もよい」と言っています。私はさらに「ショートパットを強く打っても当たれば大きくオーバーしづらいため、カップイン確率は上がりそう」と付け加えたいと思います。

   最後に注意事項です。それはボールがカップに完全に入りきらないで、止まってしまうことについてです。先ほどカップの淵とピンに間の隙間はわずか4.5㎜しかないことを計算でお示ししました。先日のラウンドの最中、18ホールで4人がほぼ1回ずつですが、ボールがカップとピンに挟まれてカップの下まで落ちないというケースがありました。今年のルール改正ではボールの一部でもカップの淵より下に入ればカップインとみなされますので、スコア上心配はいりません。ボールが完全に入らないで止まる原因はピンがまっすぐに立っていなかったためで、カップの切り方が垂直でなかったり、強風が吹いていたりするとピンが傾き、4.5㎜の幅より狭くなることで起こります。このようなピンの差し方だと、当然入る確率は低くなるので、見るからにピンが傾いている状態のときには、ピンをはずしてプレーしたほうが安全だということを付け加えておきます。

参考;さきほどの実験映像、「ピンを差すか抜くか」はこちらのサイトにあります。

https://www.youtube.com/watch?v=0924L1RX3Ig

  以上、ゴルフヲタクの「パッティングの科学、改訂版」でした。

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