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トランプでアメリカは大丈夫か16 最終回

2018年07月20日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

トランプでアメリカは大丈夫か?

  答えはもちろん「ダメ」です。

  昨日は保護政策の本命である自動車関税を2.5%から20%に上げる政策に関して、米商務省の公聴会が開かれました。その席上全米自動車工業会が、

 「国内価格が年間で830億ドルも上昇してしまい、数十万人の雇用が失われる」と証言し、以前同様トランプの顔に張り手をくらわしました。自動車産業のためにやっているつもりが、公聴会では当事者を含むすべての証言者が反対意見を述べたのです。反対の効果を産むといわれてもなお実行しようとするので、トランプでは、アメリカは間違いなくダメになります。

  トランプのこれまでの政策でほとんど唯一評価されているのは減税です。減税すれば企業は利益がかさ上げされるし、個人は得して喜びます。しかも個人減税はトランプ自身を含む高額所得者優先です。

  でもそれは将来への付け回しの可能性が大きい政策で、特に企業減税は貿易戦争と同じで、海外の競争相手国が対抗して下げに回ると効果が薄れ、もうひとつの戦争の開始にもつながります。その上今回の減税は恒久減税のため財政に借金をどんどん上積みするので、将来世代が苦労します。

  株価は利益のかさ上げで今も上昇していますが、これはワンタイムの効果でしかありません。今年例えば20%の減税で10%の利益上昇になったとします。来年も同じ税率なら利益の押上はゼロだから、株価上昇への貢献はなし。つまり同じ減税率で何回続けても、収益上昇効果は1回限りで、財政負担の累増するのです。株価は前年対比でしか評価しないのです。

  これに関して一昨日、トランプのお気に入りラリー・クドローNEC(国家経済会議)委員長が、無責任かつおバカなことを発言しています。

「減税は必要なら第2弾、第3弾、第4弾があってもよい」

  株式相場は大喜びでした。この男、経済評論家でテレビコメンテーターだったのですが、辞任したコミー委員長の後をうけ今年の3月に就任しています。しかし、過去に日本に対しとんでもない発言をして大ヒンシュクを買った前科の持ち主です。ウィキペディアを引用します。

「東日本大震災発生直後のマーケット情報を伝える生放送でクドロー氏は『経済へのダメージよりも、日本の大震災の犠牲者の数のほうが、はるかにひどいことになっているようで、これについては、ありがたいとしか言いようがないわけですね。』と発言し批判を浴びた」

  なんというタワケもの。なのでトランプとの相性は抜群でしょう。

  また別件で、きのうのアメリカではトランプ批判が大爆発しています。メディアはもちろん、民主党、共和党を問わす、トランプのタワケぶりに大批判を浴びせました。内容はプーチンとの会談が終わり共同記者会見でのこと。彼はロシアによる大統領選挙介入疑惑に関して、次の発言でアメリカをロシアに売ったといわれました。

  「ロシアが選挙に加入する理由なんかない」

と発言し、プーチンを喜ばせたのです。ところがアメリカでは司法省がロシア人12人を介入疑惑で訴追したばかりで、かなり確度の高い証拠を突き付けています。その司法省と特別検察官モラー氏を、トランプは自分の疑惑を振り払うためにロシアに売り渡した、と批判されたのです。

  そのトランプ発言に味方であるはずの共和党下院議長のポールライアンまでが批判声明を出しました。批判の嵐に対しトランプの怒りが会談後の帰りの機内で爆発したのですが、国内のあまりの批判に耐えかね、帰国後すぐに釈明会見を行いました。しかしそれがまた火に油を注ぎました。釈明は、

  「オレ様はロシアが選挙に介入する理由はある、と言うつもりだったけど、ないと言ってしまった」というお粗末なものです。

  まるで子供が苦しいバレバレのウソをついているという、低レベルの言い訳だったのです。何度も言いますが、「かわゆいトランプちゃん」の本性が出てしまったお粗末なウソツキ会見でした。

  これには共和党の重鎮ですらアメリカを売るとは絶対に許せないとして、プーチンとの二人だけの会談で実際にトランプが何を言ったのか、通訳に証言させようというところにまで来ています。さすがアメリカ、そういうところまで行くとは驚きです。司法取引が当たり前の国ですから、免罪符を渡して証言させるかもしれません。

  この「子供じみたウソツキ大統領でアメリカがまともにやっていけるはずはない」、というのが今回のシリーズの結論です。

  じゃ、いったいこの先アメリカはどうなるのか。米国債に投資されている方、これから投資をしようという方は不安ですよね。これも実に簡単な結論ですが、

  「トランプがホワイトハウスを去れば、すぐにまともになる。」

  トランプでなきゃ、誰でもいい。経済は彼の政策で壊れるまでは行っていないので、大丈夫です。彼ほどのひどい人間がこの先また出現することはありません。その理由は、アメリカの大統領、議会、ともにひどい政治運営がなされると、すぐに激しい反動が生じ、揺り戻しがあるからです。たとえ彼が8年やったとしても大丈夫。次は反トランプでまとまるのです。

  それに加え、トランプの保護主義戦争がさらに激しくなったとしても、経済への実害の規模はさほど大きくありません。何故ならアメリカは貿易立国ではないからで、貿易立国である中国・日本・EUこそ被害を受けます。

  冷静に直接的影響のみで数字をたぐれば、貿易戦争で例えばアメリカの赤字が減少したとしましょう。するとその減少分、アメリカのGDPはかさ上げされ、アメリカにはプラスと出ます。現在の経常赤字はGDPの2-3%程度ですが、それがゼロになればGDPはその分プラスになります。反分ならプラスの影響も半分です。それがGDPの統計なのです。ついでに言えば、だからドル高に振れているのです。その後の波及効果までは見ていません。米国への輸出が大きい国はその反対で、アメリカのプラス分、GDPはみんなでマイナスの負担を分け合うことになります。分け合うということは、少し分散されるため、日本だけを見ると、さほど巨大リスクではないということになります。もちろん例えばトヨタのような巨大輸出企業にとっては、とてつもない大ごとですが。でも、

  トランプのアメリカはダメですが、米国債はびくともしません。

  定年退職さんのご質問に私が答えたように、米中が貿易戦争から実際の戦争にまでなったとしても、米国債は買われるだけ。乱暴な結論のようですが、それが『質への逃避』の唯一の対象になりうる資産、米国債なのです。


  以上が今回のシリーズのまとめですが、こうした楽観論に対して、次のような議論を展開する人がいます。

「アメリカのトランプ、イギリスのBREXIT、イタリア、オーストリアなど、反グローバリゼーションを掲げるポピュリズム政党・政治家が、今後も資本主義・民主主義世界を揺るがすことになる」というこわい議論です。

  この議論をリードするのは、世界的人口動態歴史学者であるエマニュエル・トッド氏などですが、次回からは今後を占う意味で、こうした議論を私なりに検証したいと思います。

コメント
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