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トランプでアメリカは大丈夫か15 貿易戦争5

2018年07月09日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

     ついに戦闘開始ですね。トランプはいつもの高めの直球を、ボール球のつもりで投げたら相手の中国がそれを本気で打ち返してしまったのか、それとも最初からトランプも本気で戦おうとして戦争を起こしたのでしょうか。

  貿易赤字は本当にいけないのか、そもそも貿易とは何かについて単なる交易から解きほぐしてみます。

  トランプの頭の中には企業収支も貿易収支も赤字はいかん。黒字でないといかんという原理原則が染みついていて、赤字は損だと少しの疑いもなく信じています。

  多くの方も貿易は赤字より黒字がいいに決まっていると思われているでしょう。その考え方、必ずしも正しくはありません。意外に思われるでしょう。ちょっと面倒ですが、大事なことなのでなるべく簡単に説明を試みます。

  まずそもそも交易とは何かを考えます。こういう文章をあることろで拝見しましました。

>「取引」とはアップサイドを自分のものにしてダウンサイドを他人に押し付けることです。

  そうでしょうか。私は違うと思います。そもそも太古の昔から行われていた物々交換も現代の交易や海外との貿易も、双方ともに交換したほうが得だから交換するのです。一方が得で一方が損なら、誰も交換などしません。

  このことは今も昔も同じで、現代では物々交換しないのはおカネが代替してくれるからです。例えば、1万円のバッグを買うときに、買う人は自分の保有する1万円札を差出してバッグを買うほうが得だ。売る人は自分の作ったバッグを保有するより、それを差し出して1万円をもらったほうが得だと思うから売買が成立するのです。

  このことは、一つ一つの商品の売買の積み上げである国対国の貿易でも全く同じで、双方が得をするから貿易をするのであって、片方が得でもう片方が損することなどありえません。そのような取引は誰もしません。

  ここまでの議論、多くの方には釈迦に説法で申しわけありませんが、トランプには馬の耳に念仏なので困ります。

  しかし国と国の貿易では国際収支として赤字黒字の数字が出てきます。個々の交易は双方とも得をするのに、国際収支になると赤字と黒字という言葉を使用するため、あたかも会社の収支と同じに思えるので損だの得だのという議論になってしまう。会社の赤字はもちろんいけません。赤字では会社の持続性がなくなるからです。一国の収支も同様で、持続性を考えるなら赤字続きというわけにはいきません。

  ここまではまずご理解いただけますでしょうか。

  では国際収支ですが、世界全体を一国として見るとどうなるか。もちろん世界中を合算すれば赤字と黒字は同額なので、収支トントンになります。

  収支トントンだと世界レベルでは損得なしでしょうか。いいえ、違います。ここが大事なのですが、最初に申し上げた通り、もちろん全員が得します。双方得だから貿易したのですから。

  国際収支の差はそのままにはできません。それをどのように埋める、あるいは決済するのでしょう。基本的にはハードカレンシーで支払う、特にハードの中でも基軸通貨であるドルで決済します。もし赤字国が十分に決済通貨を持っていなかったら、双方合意のもと貸し借りを計上し、後払いも可能です。

  こうして世界は貿易によりみんなが得をして幸せになり、発展することができるのです。

  では赤字国はいつまでも借金生活を続けられるでしょうか。もちろん持続性はありません。相手がこの国はヤバイと思ったら、ツケでは買えなくなります。するとIMFに駆け込むか、買うのを我慢し、通貨価値を切り下げ、競争力を増して黒字を目指すことになります。

  ところが、アメリカは万年赤字ですが、ヤバイということはなく、IMFの支援を必要とするところまで行ったことがありません。80年代にラジカセや自動車を打ち壊して騒いだ時代から赤字続きですが、一度もヤバくないのです。何故か。

  それは言うまでもなく、基軸通貨ドルが自国通貨だからです。いくらでもドルを発行し、相手はいまのところドルを信用して持ちたがるので全く心配いりません。アメリカとの貿易で黒字を積み上げた日本や中国のような国はドルを大量保有しています。それを遊ばせず、アメリカ国の借金である米国債を買ってドルをアメリカに還流させたり、赤字の発展途上国に貸し付けたりして、バランスを取っています。

  ここで「アメリカがドルを発行する」というのは、必ずしも実物貨幣の発行とは限りません。帳簿上の借金でいいのです。日本国の外為勘定で米国債を買うのは現ナマによらず、ただ単に二国間で帳簿上の付け替えをしているだけです。

  日米に限らず、世界中の国々は世界中の国々とこうして決済、あるいは貸借関係を結びます。それによりモノやサービスが活発に国境を越えて世界の経済は活性化するのです。

  そしてアメリカはこの何十年、赤字ばかりですが、それで困ることはありません。先ほど申し上げた通り、基軸通貨のドルを赤字という手段で世界に供給し、それがあることで世界の交易が成立しているのです。

   逆に基軸通貨の国が黒字だと、世界は流動性不足に陥り、交易がスムーズにできなくなるのです。自国通貨のドルは世界中に欲しがる国があるので、赤字でも問題はありません。赤字=損と思っているおバカなトランプちゃんは、このことを理解できず、赤字イコール悪という企業経営の世界しか理解できません。

  なん度も言います。赤字を作り出す交易も、損得でいえば双方が得するから実行されるのです。アメリカ国民は他国から買うことで満足するので買うのであって、損なのに買っているのではありません。

  ここまでの議論をおさらいします。

1.  交易はいつでも双方が得だと思うから実行される

2.一国単位では黒字国赤字国はあるが、世界全体の国際収支は常にバランスしている

3.黒字国は赤字国をファイナンスすることで世界のバランスが取れている

4. 一国にとって赤字より黒字のほうが持続性があるのでよいのだが、アメリカは例外。基軸通貨国は赤字でないと世界に流動性を大量に供給できない

5.世界はドルが潤沢にないと交易するのに支障が出る


  わかりづらい話になりましたので、こよいはこころらで・・・

コメント (5)
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