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バブルの足音 その1

2015年09月16日 | M&A

  FRBはどう動くのでしょうか。外野の騒々しさは近年にないほどになっています。コンセンサスを作り過ぎると、裏を掻かれますので要注意です。株式投資をされている方は大変そうですね。私はのんびりと外野のフェンスの外で眺めているような風情ですが、今回利上げがなくてもいずれは上げるでしょうから、いつ上げても大差はないように思うからです。一つだけ気になるのは、IMFが昨日も本気で「やめてくれ!」と言っていることです。理由は一つ、彼らは新興国の破綻による自分達の負担が生じるのを面倒くさがっているためです。

  さて、今日の話題はバブルの足音です。

  私の手元に、1冊のパンフレットがあります。ページ数16ページほどの小ぶりの冊子です。そこに驚愕の数字が載っていました。冊子はゴルフクラブのシャフトメーカーのセブンドリーマーズ・ラボラトリーズのパンフレットです。そのシャフト1本の価格、最高級の「プレミアム」がなんと1,200万円です。1万2千ではなく、12万でもなく、120万でもなく、1,200万円です!もちろん数10万円台のものもあるので、アイキャッチな価格としてつけたとは思いますが、最高クラスでなくとも普通の10倍ー30倍くらいはします。

  宣伝に顔を出している有名人は2人、ゴルフ好きのプロ野球解説者古田敦也氏、日本女子プロゴルフ協会元会長樋口久子氏、顔も名前も出ていませんがそのご主人、もちろんプロゴルファー松井功氏です。樋口氏がインタビューに応え、このシャフトを使用た主人の飛距離が20ヤードも延びたと言っています。古田氏は「飛んで曲がらない」と言っていますが、具体的数字は出ていません。

  私はこうした宣伝文句には騙されないたちなので、あまりクラブをとっかえひっかえしません。それでもキャリア30年以上の間にドライバーは3-4年に一度程度、つまり10回は替えています。その度に聞く謳い文句は何故か「10ヤード飛ぶ」。さすがに20ヤード飛ぶと言う話は聞いたことはありません。ボールも同様で、私はボールにはまったくこだわらないので拾ったボールで十分なのですが、友人ゴルファー達は1-2年に1回は「飛んで曲がらない新製品」に変更しています。そして謳い文句はクラブと同様です。それらを単純に累積すると私のドライバーの飛距離はとっくにプロにも勝る350ヤードを超えているはずですが、実際の伸びは悲しいことにわずか30年以上かかって20~30ヤード程度です。

  最近はさすがにクラブもボールも技術の限界を迎えたため、具体的に「10ヤード伸びる」という数字を表示しなくなりました。良心がとがめるのか、誇大広告との認定を避けるのか、さだかではありません。

  ところがこのシャフト、いろいろ技術の御託はならべていますが、長さわずか1mちょっと、50g-70gのシャフトが1,200万円。それだけカネを払えば「20ヤード伸びる」と言っているのです。いや、言わせているのです。それも本人ではなく、夫が飛距離を伸ばしたのをこの目で見た、と書いてあります。

  誇大か否かは今回の議論の的ではなく、1,200万円というシャフトの価格のバブリー具合です。最近ちょくちょく、おやバブっているな、と思わせるようなことに出会います。超豪華列車の旅、超豪華ホテルや旅館での宿泊、超豪華タワーマンションなどです。一般庶民とは別世界、一部の人達の話ですから私はこれをもってバブルが再来するとは思っていません。せいぜいこうした一時のあだ花に乗ると、ろくなことはないという警鐘だけならしておきます。

  長くなりましたが、ここまでは前置きです。本題は実は日本の企業や銀行によるM&Aバブルです。私は最近のM&A指向の強さを、流行りモノに手を出すバブルだと見ています。以下に今年になって突然目立ち始めた日本の保険会社の買収例だけを挙げます。直近の例からさかのぼりますと、

9月 三井住友海上⇒英損保 アムリン6,420億円

8月 日本生命⇒三井生命 3,300億円

8月 住友生命⇒米生保 シメトラファイナンシャル 4,666億円

7月 明治安田生命⇒米生保 スタンコープ 6,250億円

6月 東京海上⇒米損保HCCインシュアランスHD 9,400億円

2月 第一生命⇒米生保 プロテクティブ 5,750億円

  まずなんといってもこの華々しい横並びにあきれます。そして価格も数千億円台にそろっていますし、ニッセイを除くと海外の保険会社ばかりです。かつてのバブル時代にも、およそ横並びで投資をしたものについては後で一斉に火傷を負ったのに、全く懲りていないとしか思えません。各社は「人口減少の日本では成長機会に乏しい」という同じ理屈をつけ、「でもうちのM&Aだけは違う」とへ理屈をこねているのでしょう。しかし実は「競合他社も検討していますよ」と投資銀行に焚きつけられ手を出しているに違いありません。人口減少など30年前にわかっていたはずです。

  買収タイミングはどうかというと、円がこれでもかと安くなってからだし、アメリカ・イギリスの株価は直近の値下がりを加味しても高値圏にいます。どう見ても割高な買収で、これはもう横並び意識による買収以外の何物でもないのです。

つづく

コメント (5)
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