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日本国債のダウングレード

2015年09月23日 | ニュース・コメント

   連休中の天気はとても安定していましたね。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。私は両親の墓参りと家内の実家を訪問したくらいで、あとはいつもどおりですがたくさん運動をしました。この時期、自転車での遠出は最高です。世田谷区を縦断して流れる野川のサイクリングコースを、深大寺まで遡るコースで往復2時間弱。快適なサイクリングでした。

   アベチャンに対して9月7日に私は、

It’s the Economy, Stupid!

とコメントしました。国会が大荒れの最中、16日にアメリカの格付け機関S&Pが日本国債を静かに格下げしています。かつてのトリプルAからダブルAを経て、遂にシングルA格まで落ちました。韓国や中国よりも下になりました。まずロイターの記事を引用します。

  「格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)は、日本のソブリン格付けを「AA─/A─1+」から「A+/A─1」に引き下げると発表した。S&Pでは引き下げの理由について、日本経済がソブリンの信用力を支える効果が過去3、4年間低下しており、この傾向を今後2、3年で好転させる可能性は低い、としている。

  S&Pは、日本の強い 対外ポジションと金融政策決定が、ソブリンの信用力のファンダメンタルズを支えているが、日本の財政状況が極めて脆弱であることは、信用指標における重大な弱みだと指摘。さらに、日銀の国債購入が政府の資金調達費用を低く抑えているが、が金融政策を正常化すれば、金利が上昇する可能性があり、日本の債務の借り換え率(短期債務を含む)は世界で最も高い水準に達することになるとしている。」

引用終わり

  この格下げに対して国債市場の反応はなしでした。その理由は私がかねてから指摘しているように日銀が日本という患者の金利という体温計を壊してしまったからです。いくら格下げしようが日銀が国債を買いまくって金利上昇を阻んでいるのです。そのため患者は予想もできない突然死に襲われる可能性が高まります。なお、ムーディーズは昨年末、安倍政権の消費増税先延ばしをもってすでに日本国債をダブルA格からシングルA格にすでに下げています。

  繰り返しですがS&Pは「日本経済がソブリンの信用力を支える効果が過去3、4年間低下しており、この傾向を今後2、3年で好転させる可能性は低い」と言っています。これは過去3年のアベノミクスは全く効果を及ぼさず、今後2-3年もダメ」と言っているのと同じです。

   とまあ、この程度のことはみなさんもニュースなどでご承知のことと思います。私は債券の専門家なので、そこから一歩踏み込み警鐘を鳴らします。

   ソブリン・シーリングという言葉をご存知の方もいらっしゃるでしょう。一般に信用格付けは国(ソブリン)が一番高く、その国の企業などは国よりも上位には格付けられないということを指します。つまり、主に日本で事業をしていれば、国が信用力を下げると企業なども影響を受け下げられるのです。

   国債の格下げの翌日、S&Pは日本の金融機関の格付けを下げました。ブルームバーグを引用します。

「米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは17日夕、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループとそれぞれ傘下銀行のほか、三井住友信託銀行、農林中央金庫などの格付けを引き下げたと発表した。格下げは1段階。S&Pによる前日の日本国債の格下げを受けたもの。

みずほFG、三井住友Fはそれぞれ「A」から「A-」に引き下げた。格付見通 しは「安定的」とした。S&Pでは三菱UFJフィナンシャル・グループについて、国債の格下げに伴う直接の影響はないとしている。

全国銀行協会の佐藤康博会長(みずほフィナンシャルグループ社長)は17日の会見で、みずほを含む日本の金融機関のS&Pによる格下げについて、「国債とリンクしてオートマチックに下がるもの。慌てることなく冷静に受け止めている」と述べた。 」

引用終わり

   みずほ会長の言うとおり、慌てる必要は本当にないのでしょうか。

   さて、金融ではなくインダストリーの代表選手であるトヨタ自動車の格付けはどうなっているでしょう。実は日本国債がムーディーズ、S&PともにシングルA格になっているにも関わらず、ダブルA格を保っています(Aa3、AA-)。銀行との差はどこから来るかと申しますと、邦銀のビジネスの大半は国内に頼っているのに対して、トヨタは国際展開を十分にしているため、国内市場のインパクトが相対的に小さいからです。つまりソブリン・シーリングと言っても最近は一概に全企業が影響を受けるのではなく、実質的影響度を計って格付けをしているということです。

   では金融機関の格下げの意味を考えます。金融機関はもし金融危機が起こると、アメリカがそうだったように政府に支援を仰ぐ可能性が大です。みなさんの預金も預金保険機構による実質政府保証がありますが、銀行界全体も金融システムとして考えると明示的にはなっていませんが、実質政府保証です。その政府の信用力が落ちれば、当然金融機関の信用力もその分落ちます。

  もっと見たいけど、今回はここまで。さらに大事な分析は次回をお楽しみにー(笑)。

つづく

コメント (1)
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