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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その7 原油価格の下落について

2015年02月14日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  国際収支についての続きです。

  直近の12月貿易収支の赤字額はピークよりは少なくなっています。原油価格の低下に大きな影響を受けているためです。その原油価格も40ドル台とそろそろいいところにきているので、さらに低下していくことは考えづらい。需給関係をみているとアメリカのシェールオイルのリグ(掘削機)の稼働数が減少し、産油国でも在庫とにらめっこをしながら産出量を実質的に削減しているようです。このため原油価格もいずれは反転してそこそこのレベルに落ち着くと思われます。

  しかし価格が落ち着く時期だとかレベルについての予測は私にはとても無理です。願わくは安い原油価格がすこしでも長く続くことを祈っています。理由は個人的にはガソリン価格が安い方が助かるからです。

  私の車はスキーにいくために4輪駆動でガソリンを喰うため、家内からは早くハイブリッド車にしろと言われているのですが、どこも故障がないので買い替えは当分するつもりはありません。3月には丸10年になりますが、走行距離は12万km。月に丁度1千kmぴったりです。私の車の乗り方はスキー、ゴルフがメインで、あと一週間に一度程度葉山にある家内の実家を訪問します。私は世田谷区の用賀インターのそばに住んでいるため、走行は8割方高速道路です。そして運転の仕方は極めて省エネで、一定の速度で走り続けます。ということは実はブレーキを踏まないし、エンジンブレーキもあまり使いません。街中でも赤字信号に向かってはギアをニュートラルにして惰性で走りますし、ETCゲートでも1kmくらい手前からスピードを緩めはじめて、最後の500mくらいは惰性です。その上渋滞中でも一定のスピードで走るトラック走行で、ブレーキを使わないのです。ということは、実はハイブリッドの特徴である回生ブレーキによるエネルギーの補充はほとんどありませんので、ハイブリッドにしてもリッター当たりの走行距離はほとんど伸びないと思うのです。世界の全運転手がこうした走り方をすれば、ガソリン消費量は10-20%はセーブできると思います。そして高速道路の渋滞はブレーキランプを点灯させないので、かなり緩和されるはずです。

  車の話のせいかだいぶ横道に逸れました(笑)。

  原油価格のことに戻します。

  1月22日の日経新聞にレオナルド・マウジェリというハーバードで教える先生の分析が出ていました。私は実証と数字で説得されるたちなので、12年の原油価格の大崩壊を当てたこの先生の分析はかなり信用できると思っています。その記事を要約します。

要約

今回の原油価格の暴落は明らかにOPECの盟主サウジの政治的意図を反映している。サウジの目標は二つ

  • 核開発をするイランとその後ろ盾のロシアの力を弱めるため
  • アメリカのシェールオイル産業をくじくため

特に大きいのは対シェールで、サウジは2つのシナリオを検討した。一つは1バーレル60ドル。これだとサウジは自国の外貨準備9千億ドルを使わずに済む。もう一つは45ドル。これだと年に1,200億ドルの取り崩しが必要だが、数年なら耐えられる。

シェール大手の優良な油井は採算ラインが30-40ドルで、うち大きな割合を占める頁岩層では8割が42ドル以下で、28ドルの油井も3割ある。今倒産し始めたのは中小だが、開発会社は15年の生産量の半分を90ドル程度でヘッジしているため、減産していない。(このヘッジの話は先月私が引用したブルームバーグの分析記事と符合します)。50ドルが2-3年続いてもシェールの生産はそう減らない。40ドルを割ればさすがにサウジも価格の維持に動くだろう。ただサウジにとって収入のドルの購買力が上がっているので、45ドルの価格の耐久力は増した。

 要約終わり


  彼の分析はいつも大量のデータの集積を使った実証的分析のため、かなり信頼性が高いと思われます。12年の時もそうでした。彼は下値の目途とサウジの時間的耐久力に言及していますので、それを重要情報として頭に留めておきましょう。ただここでは述べられていませんが、サウジ以外の産油国にさほどの耐久力はありませんので、サウジの思惑だけでは事は進まないと思います。

  ここまで原油価格の暴落と今後をどう見るかについて書いてきました。日本は圧倒的な原油輸入国ですから、こうした価格の下落は経済全体に大きなメリットになります。原油輸入額の減少は経常収支にはよい影響を与えますが、物価上昇を目論む日銀には強い逆風です。「2・2・2」の日銀クロちゃんの公約はどうするつもりでしょう。絶対にしてはならないのは、日銀がトチ狂ってさらなる無茶を始めることです。

  日本企業の生産活動がどんどん国内に回帰することなどなく、貿易収支が劇的に改善、あるいは反転し黒字が定着することはないと思われます。

  では今後の日本の経常収支はどうなるのか、まずここまでをまとめ、今後を私なりに見通しますと、

1. 生産の海外移転は円高対策でもあるが、むしろ需要のある地区で生産することが合理的だから。為替に振られる状況から脱出するためなので、大きく回帰することはない

2.貿易収支は短期的に大きく変動するが、海外投資からの収益は振れの少ないコンスタントな数字で、今後も増加を続ける。経常収支の黒字を支える主役が輸出から海外投資収益に交代し、今後の日本の生命線になる

3.原油価格下落は市場に政治問題がからみ、サウジとシェールの我慢比べが続く。日本にとって価格低下は大きなメリットで、貿易収支の悪化を防いでいる

   しかし将来的に原油価格が落ち着くと、貿易赤字は再び拡大する可能性が強く、経常収支が赤字に向かうことになりそうです。

   それにプラスして重要なことがあります。それは日本の法人・個人の投資行動です。

次回はそれを見ることにします。

   なお私は明日からニセコに4日間スキーにでかけますので、しばしお休みさせていただきます。

コメント (5)
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