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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その6 経常収支の変調

2015年02月12日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  戦後70年を経た日本に大きな変化をもたらしつつあるもう一つの要素が経常収支の変調です。2014年の日本の国際収支が財務省から発表されました。結果のサマリーは、

・14年の経常収支は2.6兆円の黒字

・貿易・サービス収支が過去最大の13.5兆円の赤字

・経常黒字額は前年比マイナス19%

・黒字額は統計の始まった1985年以来最小

  そして様々な報道やエコノミストから様々なコメントが付けられています。その代表的な項目を上げますと、

・経常黒字の主役が輸出から海外投資収益に交代した

・輸出が前年比でプラス9.3%と上向き始めた

・円安により海外生産が日本に戻りつつある

・旅行収支は黒字が近づく

  こうしたコメントを受けると為替相場は円高に振れてしかるべきなのですが、このニュース直後は1円以上の円安に振れています。もちろん為替はその他の要素に影響されますので、経常収支だけに影響されることはないと思いますが、1円以上の円安に振れる決定的ニュースがありませんでした。ということはやはり経常黒字が最小値に終わったことに素直に反応したとみるべきなのでしょう。

  今後のドル円相場に影響のありそうなニュースですので、私なりに上のコメントに解説を付けてみます。

 私は11年の秋から12年にかけて、つまり3年ほど前になりますが、このブログで「円高デフレのトラップに嵌まり込む日本」というシリーズを掲載しました。その中で、およそ以下のようなことを書いています。

1. 生産の海外移転は着実に進展しつつある。これは円高対策でもあるが、むしろ需要のある地区で生産することが合理的だからで、為替に振られる状況から脱出するためである。

  この推論が正しいとすれば、為替変動により現地生産と日本からの輸出をいったりきたりすることは考えづらいことになります。アベチャンは昨年末、ホンダが一部生産を国内に戻したことを「ベノミクスの成果だ」誇らしげに語っていました。しかしホンダが海外でも生産を増やしていることは黙殺し、いかにも大本営らしいお上手な発表でした(笑)。

  自動車産業で言えばアメリカのGMやフォードが数十年にわたりドル安が続いたからといって海外生産をやめてアメリカで生産を増やし、デトロイトが復活したなんていうことはありませんでした。フォルクスワーゲンやメルセデスもユーロの上下変動で海外生産と本国生産をいったりきたりすることなどありません。今後そんなことはどの自動車会社もしないでしょう。日本の自動車生産も同じです。生産拠点を移すことは簡単ではないし、円高反転にも備えるためには、国内に戻すのは非合理的だからです。それでなくとも日本は人手不足が深刻なため、生産を増したくても大きな増加は望めません。

2.貿易収支は短期的に大きく変動するが、海外投資の収益は振れの少ないコンスタントな数字で、今後も増加を続ける

  どうやらこの予想は正しかったようです。これが「主役が輸出から海外投資収益に交代」したと言われる原因になりました。海外からの収益は外貨建てですから、外貨建ての収入がコンスタントに増えるとともに、為替の変動でも収入額が増幅しています。これは今後の日本の経常収支の生命線になります。

  旅行収支については以前のシリーズでは特に触れていませんでした。一つには数字が小さいためです。それとここまでの急速な円安を予想していなかったし、海外旅行客が為替相場にこれだけ鋭く反応するとは予想できなかったからです。特に中国人旅行客のブランド品爆買いは、本当に驚かされます。先週銀座を歩いたのですが、彼らはまずカバン屋さんでキャスター付きのバッグを買って、それが一杯になるまでブランド品を買いまくっていました。必ずしもバーゲンハンターではありません。バーゲンなどしていないデパートも海外旅行客でいっぱいです。何故なら円安だけで実質大バーゲンになっているからです。長期の不況にあえいでいた小売業にとっても救世主ですね。

  私は個人的にも海外から日本への投資や旅行客はいつも大歓迎です。いくら不動産を買われたからといって持って帰ることなどできないし、経営がヤバくなっている地方のスキー場やその他の観光地の救世主だからです。東京の銀座や浅草ばかりではありません。

  そして面白いのは宿泊業です。東京には超高級ブランドの外資系ホテルがどんどん進出していますが、一番活性化しているのは古くからある旅館やユースホステル程度の安宿です。理由は単純。欧米からの旅行客は古い日本の伝統や庶民のオモテナシに触れたがるからで、世界のどこに行っても同じである豪華なホテルより、日本独特のシェアーハウスのような安宿を好むのです。もちろん彼らの滞在日数がスキーの話でも触れたように2週間、3週間と長いことにもよります。それでコストを抑えることとオモテナシの一挙両得を狙っているからです。

  話が横道に逸れました。

  では今後この経常収支はどうなっていくのでしょうか。次回はそれについて書きます。

コメント (7)
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