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日本の年金を取り戻せ 2

2014年07月02日 | 2014年の資産運用

 みなさんのプロフィール登録の結果でとても目立ったのが、「年金に不安を感じる」方の人数が多いことでした。その後のコメント欄でも日本という国の危うさを指摘するコメントを多くいただきました。そこで今回は再度、年金に関して私なりの考えをみなさんにお知らせすることにします。

 日本の年金は5年ごとに見直し検証が行われますが、今年がちょうど見直しの年で、6月3日に検証結果が公表されました。政府の公式資料;
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf

 「年金100年安心プラン」という名の政府の見直し結果が公表されたのが10年前ですが、今回の見直しではすでにそれが反故にされています。その原因はもちろん「見通しが甘い」ということに尽きます。今回はアベノミクスに酔いしれる中での検証ですから、いつもの通り大甘の見通しが作られているというのが、大方の専門家の意見です。

 そして5年後に「それ見たことか」と言われないために、なんとケースを5つにも分けて公表し、保険をかけたつもりでいます。ケース1から5はいずれもアベノミクス成功が前提の試算です。それに加えてあくまで<参考>と銘打たれたアベノミクス失敗ケースが3通り加えられました。

 それぞれのケースは経済想定や運用利回り想定で差がつけられていますが、運用利回りの想定は最高で年率5.4%、最低でも4.2%と非常に高率で、とても実現できそうにもない想定です。アベノミクス失敗の<参考>ケースでも4.0%から最低2.3%になっているのが笑えます。私の計算によれば、失敗ケースでは国債投資に莫大な損失が出て、年金は壊滅的打撃を受けます。

 この高率運用を実現するための仕掛けがGPIFと呼ばれる「年金積立金管理運用独立行政法人」による128兆円の資産運用です。

 アベチャンはGPIFのこれまでの運用政策が気にくわなかったため、最近になって委員長をはじめ運用委員の頭のすげ替えをしています。その目的はもちろんアベノミクスの柱である株価の維持・上昇で、とにかくもっと日本株のポーションを上げろと大合唱の上、頭をすげ替えました。

 従来の運用の基本ポートフォリオは以下の通りです。

 国内債券;60%・・・ほとんどが国債です
 国内株式;12%・・・政治家はこれを20%に上げろと合唱しています
 外国債券;11%
 外国株式;12%
 短期資産;5%


 日本以外の構成比は全体の4分の1だけです。これまでの運用方針は、私の言う「金利は為替に勝てる」という実証数値を知らなかったためか、円高のリスクに怯えていたのですが、今後も日本リスクの取り方に変更はないようです。

 著書で私が冒頭に掲げたのは、「日本人は日本国のリスクをとり過ぎている」ということでした。自分のもらえる年金を資産に換算すればそれ自体が莫大な円資産です。しかもその6割が国債に投資され、リスクを2重に取らされています。

このブログでは、以下のことも述べています。

「自分の会社の株を持ち株会で買うのは、最悪のリスクの取り方だ」

 会社が倒産すれば職を失った上に、同時に資産の持ち株もゼロになるからです。JALは倒産時に社員の3分の1を退職させ、株式価値もゼロになるという最悪の事態になりました。自分の置かれているリスクがいったい何なのかを認識できないと、こういうことになる好例です。

 GPIFの運用資産の4分の3が日本に偏っているということは、実はこれと同じことです。年金受給者から見れば日本国というリスクを2重取りさせられているのが今のGPIFによる運用です。

 私は年金の専門家ではありませんので、海外の事情にも詳しくありません。そこでそうしたことに詳しい専門家のコメントを引用しますと「カナダと世界で最も優秀と言われるノルウェーの年金運用は、自国の資産はゼロ」だそうです。

 昨年の今頃北欧を訪れてこのブログでも紹介しましたが、ノルウェーの人は年金の積み立てをせずに年金を受け取ることができます。石油のおかげでとても豊かで、しかも枯渇しても困らないよう資金を蓄積し、それをしっかりと海外資産でヘッジ運用しています。

 それに比べ国民の大切な年金資産を、危ういバクチのような政策の支援に使う首相をいただいたこの国の国民はなんと不幸なのでしょうか。

  日銀のやり口が気にくわないと頭をすげ替えて政策を変更させる。GPIFの運用方針が気にくわないと頭をすげかえる。内閣法制局のやり口が気にくわないと頭をすげ替える。

  中央銀行は独立運営され、財政ファイナンスをしないのが本分だし、年金運用は政治利用すべきでない。そして憲法は政府の独裁を防ぐのが本分です。

  こうしたことの恐ろしさを感じるのは、私だけでなないと信じます。

コメント (7)
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