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ECBとFRBの決定をどうみるか

2012年09月15日 | ニュース・コメント
このところ相次いで国際金融市場に関わる大きなニュースがながれました。項目を順にならべますと、

11日 Moody’sの米国債に対する警告
12日 ECB(欧州中銀)の無制限国債買入れ
13日 FRB(米連銀)のQE3

3つのニュースに対してまずNY株式市場の反応ですが、いずれも上昇して引けました。数字は以下のとおりです。

11日 Moody’sの米国債に対する警告     ← +70
12日 ECB(欧州中銀)の無制限国債買入れ  ← +10
13日 FRB(米連銀)のQE3            ← +206

  まず11日のMoody’sの警告ですが内容は、米国が「財政の崖」に近付きつつある中でも、『来年度の財政赤字のGDP比率を落としていく具体的政策がとられない場合、ダウングレードするぞ。しかし逆に中期的に赤字比率を下げる政策を打ち出せれば、現在「弱含み」としている見通しを「中立」に戻す』という内容です。

  昨年の8月のことを覚えていらっしゃる方も多いと思います。私の著書「米国債を買え」が9月に出版される寸前に、S&Pが米国債の格付けを1段階引き下げました。理由は、「財政赤字が大きくなり、政治が赤字をコントロールできていない」でした。同時期にMoody’sも格付けの将来見通しを「弱含み」にしています。

  私のその時点のコメントは、「財政を巡る政治的混乱で、もし瞬間的にデフォルトしてもそれはスリップダウンだ。株式相場が暴落しても米国債相場はビクともしないだろう」というものでした。実際の市場もその見通しに沿った動きをしました。

 では今回の警告とその後の動きをどう見るかです。

  その前に最近よく使われる用語「財政の崖」について説明します。今年末(12月)になると、ブッシュ政権以来の個人所得減税などが期限切れとなる一方、来年初めには政府歳出の強制削減が始まるということで、財政による経済のテコ入れが崖っぷち立たされていることを指しています。

  断崖から落ちないように積極財政政策を打ち出すと、赤字が膨らみ格下げになる可能性が高い。どうしてよいかわからないように見えます。

  13日のFRBによる量的緩和QE3(住宅ローン債券などの買入れ)の発動は、断崖からの落下を金融面から支える動きなのです。しかも今後毎月買入れるが、購入量やいつまでという期限を付けない無制限ともいえる大胆な決定でした。それを好感してNYダウは200ドルも上昇しました。

では私の見方です。

  これら一連の動きの根本にあるのは、「米国は雇用のみが回復していない」ということに尽きます。先月の失業率は0.2ポイント回復して8.1%となりました。もしそれがあと0.2ポイント低下して7%台になっていると、オバマの再選も確実なものとなり、FRBも市場の声に押されたQE3の発動など不要だったでしょう。

  私は相変わらず実は米国経済は言われるほど悪くないと見ています。08年の奈落の底からたった1年半で金融セクターは回復し、政府から借りた金は返し終わった。製造業もリーマン以前よりも回復し、自動車は売れまくっていますし、シェールガスの開発に沸いている。それが証拠にNYダウはリーマンショック以前の高値を抜いて、いつ史上最高値を更新するかという段階になっています。日本のように失われた10年・20年など来ません。

  その中で、雇用だけが十分に回復していません。このカギを握るのが、住宅建設です。全米の住宅価格はすでに今年の初めに回復を始めていますが、新規着工はまだまだレベルが低い。それをFRBの住宅ローン証券買入れで金融面から補おうとしています。住宅産業は雇用の吸収力が抜群に高いので、雇用テコ入れにはもってこいなのです。

  こうした動きが重要なのは、世界のリード役をもう一度アメリカに担ってもらう必要があるからではないでしょうか。欧州ダメ、中国ダメ、アジアもそのとばっちりを受けている。世界3位の経済大国日本は話題にも上らない。アメリカは資源大国としても見直されつつあり、結局は頼らざるを得ない存在なのです。イスラム問題など起こしている場合じゃありませんよ。

  そうだ、ECBのことを忘れていました。ECBは南欧諸国の国債を無制限に買うという政策を発表し、ユーロ問題も一山越えた感があります。欧州はこれまでも指摘したとおり、決定的破綻はしませんが大きなリカバリーも望みにくい。統合ではしゃいだツケを払い終わるのに時間がかかります。それが終わると、各国がバラバラだった時代より少しはましな状態に戻るのではないでしょうか。しかししょせん弱者連合をドイツだけが引っ張る図式は変わらないと思います。

以上が3つのニュースの解説でした。

コメント、質問、歓迎です。

コメント (2)
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