goo blog サービス終了のお知らせ 

ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

遅きに失したWHO

2020年07月12日 | コロナショック

  WHOがこれまでの見解を大きく変えました。「空気感染の可能性あり」との見解を示しました。7月10日の時事通信を引用します。

 

引用

世界保健機関(WHO)は9日、新型コロナウイルスの感染経路についての報告書を発表した。それによると、空気中の微粒子を介して感染者からある程度離れていても発生する「空気感染」について、屋内の混雑したレストランなどで起きる可能性は「排除できない」との見解を明らかにした。

WHOはこれまで、気管切開など特定の医療行為中に医療従事者が空気感染する可能性を指摘していたが、それ以外の状況については明言していなかった。
WHOによると、これまでに医療機関以外での空気感染が疑われるケースとして、コーラス練習やレストラン、フィットネス教室での感染例があった。特に混雑し、換気が十分でない屋内で長時間感染者と一緒にいれば、空気感染が発生する可能性は排除できないという。

引用終わり

 

  私は4月1日に「宇宙船地球号をコロナから救え」という記事を書いています。記事ではしろうとの私が状況証拠から見て空気感染の可能性を指摘し、用心するようにと警鐘を鳴らしていました。その記事をそのまま再度引用します。繰り返し部分は削っています。

引用

  どうやらコロナウイルス感染に関しては、日本でも世界でも全く新しいステージ入ったと見るほうがよさそうですね。その第1は感染力と感染方法です。そして第2は今後の対処についてですが、政府の非常事態宣言など待たず、国民が一致団結して感染を防ぐ国家総動員体制のステージに移行する必要があるとみるべきです。

 

  当初中国で流行が始まった時さんざん言われたのは、

・感染力は弱い

・空気感染はしない

・致死率は低い

これら3点でした。そして各国に感染が拡がった段階でも、日本を含め同じようなことが広く言われていました。

しかしこれまでの実態からみれば、

  • 感染力は強烈
  • 空気感染する
  • 致死率も高い

と見るべきでしょう。

    私のスキー&ゴルフ仲間の一人は、ご夫婦でダイヤモンド・プリンセスに10回くらい乗船しているヘビーユーザーなのですが、彼が船内感染の状況を見ながら2月初から何度も言っていたのは、

「あれほどの感染拡大は、空気感染しなければありえない。換気口を通じた感染や食事中の会話での空気感染以外考えられない」でした。

「客室はかなり厳重な仕切りとドアがあるし、食事も2人だけのテーブルで、お互いに距離を保てるゆったりとした配置なので、客同士の接触はほとんどないし、知らない日本人客同士がハグしたりしない。ましてや外人とは。空気中のウイルスで感染する以外ありえない。特に感染者が認められた後も続々と新たな感染者が増加したのは、空気感染したからだ。」というのが彼の結論でした。納得できる説です。

  大阪のライブハウスの大クラスター感染もしかり。みんなが手をつないだわけでもなし、ハグしたりはしていないのに大人数が一度に感染しています。クシャミの飛沫が部屋全体に拡がるなんて、考えられません。屋形船もしかり、葬儀でのクラスターもしかり。

  我々の「つもり」としては、『コロナは空気感染しまっせ』、と思っていないといけないでしょう。それらが厳密には空気でなく飛沫感染だと定義されても、飛沫は限りなく空気に近いと考えるべきなのです。

  NHKのクシャミの実験映像でも飛沫には100分の1ミリ程度のマイクロ飛沫がある。それらは空気中からなかなか落ちず、20分程度は漂っているとのこと。普通の飛沫がクシャミ後すぐに落下するのとは大違いだと警鐘を鳴らしていました。イタリアの病院での医療従事者の感染のひどさも、空気感染なければとても起こりえないことだと思います。

ということで、私の勝手なコロナ大災害の解釈は

  • 感染力は強烈
  • 空気感染する
  • 致死率も高い

と考えて、この新しいステージでは「可能な限り他人との接触を避けるべき」です。

 それが間違っていようがいまいが、そんなことは知ったことじゃない。今は自分の身を徹底的に守ることが他人を守ることにつながると信じます。

そして国家間も同様に、自国を徹底的に守ることが、他国を守ることにつながる。アホな独裁者たちが勝手な動きをしてもそんなことには目もくれず、世界の人々はコロナウイルス撲滅に向けて一致団結することで、宇宙船地球号に住む人類を守りましょう。

 引用終わり

 

  ここへきてのWHOの見解発表、遅きに失しています。そして東京都の感染者数拡大は4月当初の感染爆発の時とほぼ同じ急上昇のカーブを描いているにもかかわらず、積極的抑制策を採用していません。私に何度も「小池都知事はいったいなにをちゅうちょしているのか」などと言わせないようにして欲しい。

  もしこのままこの状態を強い規制をかけずに放置すれば、再度「緊急事態宣言」を発せざるを得ません。その場合、経済損失は前回を大きく上回ることが見込まれます。その理由は、今度こそ根治するまで戦うことにならさざるを得ないからです。今はそうならないための措置をとる瀬戸際であることを、東京都も政府も認識すべきです。

 そして私たちは自分にできる最大限の防衛策を取るようにしましょう。

  我々人類はかげがいのない宇宙船地球号の乗組員です。「世界は一つ、人類はみな兄弟」ではありませんが、東京都でも日本一国の問題でもありません。海外で感染が拡がっていく限り、JALやANAだけでなく、世界の観光業界が未曽有の落ち込みから脱出できることはありえません。それは世界経済全体でも同じです。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

航空需要の枯渇と航空会社の先行き

2020年07月10日 | コロナショック

  元JALの私としては、JALだけでなくすべての航空会社の存続が危ぶまれる現状をとても憂慮しています。コロナショックは様々な産業分野に幅広く影響していますが、旅行業界ほどひどい影響を受けている業界はないのではないでしょうか。

  航空需要は武漢でコロナウイス感染が爆発的に広がってからわずか一か月余りで、ほぼ枯渇してしまうほどになって、その後現在に至るまで回復の兆しはありません。もちろん航空会社とともに、ホテル業界、旅行代理店業界も同様な状況が継続しています。

  世界の航空会社の8割、が加盟するIATAという国際的組織のまとめた報告書を6月9日の日経ニュースから見てみましょう。原文ではドル額ですが、107円で円建てに直しています。

 

引用

国際航空運送協会(IATA)は9日、新型コロナウイルスの影響で2020年の世界の航空会社の最終損益が約9兆円の赤字になるとの見通しを発表した。売上高が19年の半分に落ち込むのに対し、費用の減少が追いつかないためだ。21年は改善するものの、1兆7千億円の赤字が残る見通しだ。

20年の旅客需要は19年比半減の22億5千万人と06年並みの水準になるとみており、売上高は448兆円になる。燃料費などのコストは減るが乗客1人あたりの費用は増え、全体では35%しか減らない。固定費に加え、航空券の払戻費用も重なり4~6月期だけで65兆円の資金が消失する。

危機を乗り切るため航空各社はこれまでに各国政府の支援で132兆円を手当てした。だが、このうちの半分以上は返済する必要がある。民間からの借り入れなどを合わせた負債額は20年末で558兆円を見込む。積み上がる負債が航空会社の経営を圧迫するおそれもある。

IATAのアレクサンドル・ド・ジュニアック事務総長は声明で「20年は航空史上で最悪の年だ。1日に246億円ずつ損失が膨らんでいる」と述べた。一方で「(新型コロナ感染の)第2の波が来ないという前提で、需要落ち込みの最悪期は脱した」と今後の回復に期待を示した。

 

引用終わり

 

  数字が大きすぎて実感をともないませんね。では簡単に要約しますと、全世界で航空需要が半減するのにコストは全体で35%しか減らないので、20年の赤字は9兆円にもなる。21年になってもまだ1.8兆円の赤字が残るだろうという見通しです。しかし最後の「最悪期は脱した」は楽観的過ぎると思います。世界の感染はアメリカがしっかりとリードして、ますます増加するに違いないからです。特に発展途上国のように医療体制が整っていない国の感染拡大はこれからです。

  日本の航空会社では4月以降、国際線の旅客数は約9割、国内線でも6割近く減少しています。海外からの観光客は99%減ですから、さもありなんです。両社は便数もそれに合わせて同様に減らしていますが、なにせ機材・設備・人件費などの固定費が重く、毎月数百億円の赤字を出し続けています。

  それに対し政府も支援策を打ち出していますが、個別企業への直接的援助は難しいため、金融機関を通じた資金供給などを行っています。しかし供給された資金はいずれも返済する必要があるため、今後も長い長いトンネルが続くことになりそうです。

  では今後長い目で見た航空需要はどうなのでしょうか。先ほども指摘しましたが、コロナの本格感染はまだまだこれからです。私もこの記事を書くタイミングをピークが見えたらと思っていたのですが、それは全く見えないため、見切り発車しています。比較的うまくコロナの影響を抑えていたとみられていた日本ですら、昨日は東京が4月の最ピークの感染者数を超えてしまいました。1週間前7月3日、私は「小池都知事はいったいなにをためらっているのか」と言う指摘を私的なサイバーサロンで行いました。その指摘が当たってしまうという望まない結果になりつつあります。

  ブラジルではボルソナロがトランプと文字通り愚かさを競い自身もコロナに感染し、感染者数は予定通り世界ランクで2位に浮上。1位のアメリカをうかがうところに至っています。いくらトランプやボルソナロが経済優先を叫ぼうが、賢い人々はそれに踊らされるようなことはなく、遊びの旅行需要などとても回復は見込めません。しかもウィズコロナの時代ではリモートワークが普及し、仕事での出張者は増えるわけもない。

うちの家内のキャットシッターの仕事は飼い主が旅行や出張の留守中、ネコちゃんの世話をするのですが、3・4・5月はゼロ件と如実に数字に表れています。解除後の6月末にわずかな件数がありましたが、7月も超スローな状態が続いています。

  欧米の航空会社では大量の一時解雇者が増加し、ユナイテッド航空は昨日従業員の4割にあたる3.6万人を10月から削減する可能性に言及しています。航空会社が本当に苦しくなるのはこれからでしょうから、私としてはとても心配です。いつまで航空会社がもつのか、全く見通しなど持てません。

  以下に7月3日に私がサイバーサロンに投稿した内容を、みなさんにも見ていただくことにします。

 

緊急投稿;小池都知事はいったい何をためらっているのか

  東京の感染者数は2日続けて100人を超え、一桁だった先月に比べると明らかに急な上昇カーブを描いています。国全体の感染者数の約半数を東京が占め、埼玉・神奈川・千葉を含めた一都三県としてみると、全国の6-7割を占めています。そして東京の感染者の約7割を30歳以下の若者が占め、ホストクラブやキャバクラなど夜の街が主な感染源になっています。

  この時点でも東京都は独自の緊急事態宣言どころか休業要請や営業自粛の要請も行っていません。何も夜の街全部とはいいません。ホストクラブとキャバクラだけでも狙い撃ちにしたらどうでしょう。

  大阪では3月にライブハウスでクラスターが発生して、ライブハウスやスポーツジムを限定的ターゲットにした休業要請を実施し、抑え込みに成功しました。

  小池都知事はいったいなにをちゅうちょしているのでしょうか。まさか選挙をにらんでの我慢じゃないでしょうね。もし今週末の選挙が終わって月曜日になって要請が出るようだと疑わざるを得ません。

  小池知事は本日7月3日の会見で、「休業要請は感染者数の推移と経済的ダメージの双方を考慮にいれる必要がある。再度の休業要請は国の緊急事態宣言があったら。」と発言していますが、遅すぎです。これまでの経験を無視しているとしか思えません。

  北海道の様に独自の緊急事態宣言は出せるし、飲食業全体ではなく大阪のようにクラスターの発生業態に限定することもできるはずです。そうすれば国に依存する必要もないし、経済的ダメージもかなり限定できるはずです。

  せっかく感染者数も死亡者数も低いのですから、このまま中途半端に緩んだままにせず、是非限定的休業要請を早急にすべきだと思います。

林 敬一

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オレ様独裁者たちのたそがれ

2020年06月11日 | コロナショック

   トランプの支持率対不支持率の差が節目の10ポイントを越えました。支持42%対不支持55%とその差約13ポイントと大きく拡がったのです。私が見ている統計はいつものとおりReal Clear Politicsというアメリカのサイトで、全米をカバーする世論調査と、その2週間分の平均値が算出されています。これはトランプの差別的発言に対する反対運動が、単に人種問題のデモにとどまらず、反トランプ運動に変質しつつあることを示しています。ついでに大統領選挙での支持率も、およそトランプ40対バイデン50とかなりバイデンがリードを拡げています。

 

  死亡した黒人フロイド氏に対するトランプ大統領のツイッター攻撃内容があまりにひどく、さすがに岩盤支持にひび割れが生じてきたようです。それに加えて警官によるデモ参加者への突き飛ばし行為に対しても、トランプが余計なことをツイートし、墓穴を掘っています。

  ひび割れは岩盤支持層だけでなく、共和党内にも生じています。ブッシュ・ジュニア大統領時代に国務長官だった保守党の重鎮コリン・パウエル氏「トランプは嘘ばかりつき、憲法をないがしろにし、国を混乱に陥れている」と最大限の非難声明を出しました。またトランプ政権の元国防長官であったマティス氏も、「トランプは私が出会った大統領で初めて国を分断しようとした大統領だ。大統領は国をまとめるのが仕事なのに」と語っています。

  本当はトランプ当選からずっと苦々しく思っていた共和党員が全米のデモに乗じ、遂に耐えかねて本音を語り始めたのでしょう。今後は現役の共和党議員にも同様の動きが拡がる可能性があると私は見ています。つまり大統領選と同時に行われる下院・上院の選挙でトランプ支持を表明すると落選の憂き目に遭うので、トランプ支持の意思表示をしなくなる。そこまで行くと、一気に雪崩を打つ可能性すらありそうです。

 

  人種差別反対の動きはデモ隊や政治家などにとどまらず、セレブの間でも起こっていて、自分のツイッターなどを真っ黒にする「ブラックアウト・チューズデー」運動が起こりました。最初はアメリカの音楽業界の大企業がこぞって参加したのですが、その動きに同調したハイテク業界や、個人では歌手、俳優、スポーツ選手などが参加しています。アメリカで活躍する日本人選手でも、八村塁、大谷翔平、大阪なおみ、錦織圭、ダルビッシュなども参加し、みずからのツイッターなどのアカウントを真っ黒にしました。

 

  私は前回の投稿で、オレ様独裁者に率いられている国であればあるほど経済優先のためコロナ感染者は多くなる傾向があると指摘しました。オレ様たちはみんな「コロナなんて恐くない。インフルエンザと同じだ。マスクなんかするもんか」と同じ強がりを言っていて、その結果感染者数はオレ様独裁者のいない国が収まりつつあるのに、いぜん拡大しています。感染者数世界一のアメリカに、遂にボルソナロのブラジルが追い付いてきました。そしてロシアも追随してきています。

 

  どのオレ様たちも高い支持率を誇っていたのですが、コロナに負けたのかここにきて異変が起きています。トランプと限らずどのオレ様も支持率を落としていて、反政府デモが渦巻くようになっているのです。ロシアのように言論封殺がひどい国でも、反プーチンデモが起こっています。もちろんその矛先はコロナ制圧の失敗だけではなく、プーチンを終身皇帝ともいえる大統領にしようとするインチキな憲法改正にも向けられています。反ボルソナロのデモは最大都市サンパウロを中心に行われ、市長が大統領に反旗を翻し、市民がそれを支持しています。自分の地位安定のために経済を優先するボルソナロの姿勢に対し、命の危険を感じている市民が立ち上がっています。

 

 「オレ様独裁者たちが跋扈し始めた世界をコロナが変えた!」と言える日が近づいているのかもしれません。  

 

  ひるがえって日本はどうか。コロナ感染者数が少ないにもかかわらず、感染対策や経済支援の遅れ、黒川問題などから安倍政権がやはり大きくつまずいています。世論調査の支持率はおおむね3割台に下がり、調査によっては3割を切るところまで出てきました。5月26日の時事通信ニュースを引用します。

「毎日新聞の23日の調査によると、支持率は前回から13ポイント急落して27%。朝日新聞の23、24両日の調査は29%で、第2次安倍政権発足以来最低を記録した。安倍首相は25日の記者会見で「日々の支持率に一喜一憂することなく、与えられた使命に全力を尽くしていきたい」と述べるにとどめた。
 自民党の閣僚経験者は「黒川氏問題が響いた。想定外だ」とため息を漏らす。10万円の一律給付をめぐる迷走などが相次ぎ、党内からは「政権運営の歯車が狂いだしたのではないか」(ベテラン)との声も出ている。」

 

  ついに世界のオレ様独裁者たちにたそがれが来たと見ておくべきでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ダイヤモンドプリンセス号の真実」 by 岩田健太郎

2020年05月23日 | コロナショック

  先日NHKのドキュメンタリー番組で、「ダイヤモンドプリンセス号内で何が起こっていたか」が放映されました。ご覧になった方も多かったと思います。トイレの便器や風呂の床など意外なところからウイルスが発見され、感染が拡がったということが報道されていました。その番組ではあまり詳しく報道されなかったのですが、大混乱の中実際に船に乗り込んだものの2時間でたたき出されてしまったのが感染症の現場の専門家岩田健太郎です。氏の著書、「新型コロナウイルスの真実」を読みましたので紹介をさせていただきます。今回の私のタイトルは著書のタイトルとは変えて、「ダイヤモンドプリンセス号の真実」としています。そのほうが本の趣旨に合うとみているからです。

 

  岩田健太郎氏を覚えている方は、あまりいらっしゃらないかもしれません。あのダイヤモンドプリンセス号に入って行って、わずか2時間で放り出された感染症の専門家です。彼はニューヨークでは炭疽菌テロ、SARSの時には北京に、エボラの時にはアフリカにと、それぞれ現地での治療や感染予防に当たっている現場第一主義の神戸大学病院教授です。

 

  彼のように非常にシビアな現場で場数を踏んでいる専門家は日本には非常に少ないのに、ダイヤモンドプリンセス号では入ってすぐに放り出されたのです。その後もマスコミなどが彼を取り上げもしましたが、非難にもさらされました。その彼が放り出された直後に書いた本を読んでみました。日本政府の感染対策の稚拙さがよく理解できました。

 

  もっとも印象に残った言葉は、彼自身の言葉ではなく中で引用されていた東大教授安富歩氏の、「東大話法」という言葉でした。本の114ページからその部分を引用します。

 

「厚労省は少しずつ巧みに言葉をずらして、『自分たちは常に正しい』という話にもっていこうとする。それを安富さんが『東大話法』と名付けています」

 

  この本が書かれたのはダイヤモンドプリンセス号直後の2月、出版は3月です。加藤厚労大臣が巧みに言葉を変えて「誤解だ」と言い張り、日本中から顰蹙を買った最近の話ではありません。

 

  では本の中身のハイライトであるダイヤモンドプリンセス号(DP)内部の実態を部分ダイジェストします。ここではあえて「笑い話」としますが、本当に笑えるほどひどいからです。彼が指摘する笑い話の第一は、「政府はDP乗船者の救済にDMATを派遣した」という部分です。DMATとは災害派遣医療チームで台風や大地震の時に緊急派遣されますが、怪我人の出血や骨折の手当はできても、感染症の専門家は皆無なのです。その人たちには気の毒ですが、感染症対処の基本知識がないため、自分たちが感染してしまったのです。

 

  笑い話その2、彼が船内に入った時、清潔ゾーンと不潔ゾーンの区分はあっても不潔ゾーンから医療用ガウン(PPE)をまとって出てきたチームの人が背広を着てうろうろする厚労省派遣者と一緒に行動したため、両方に感染者が出てしまった。PPEの脱ぎ方の基礎知識がない人が着ていて、その危険性の認識のない役人がうろうろしていたためです。PPEは脱ぎ着の訓練を何十回もしないと感染防止はできない、難しいガウンなのです。

 

  笑い話その3、厚労省から派遣されていた検疫官が乗客・船員など感染者がいるかもしれない3千人を対象にPCR検査をする際、全員に紙の同意書を書かせた。規則上同意書なしに検査はできないというのが理由で、おかげでペンや紙から検疫官も検査される側も感染者が出てしまった。

 

  笑い話その4、DMATの他に精神科のチームDPATが派遣された。精神的ストレスを緩和するケアの専門チームですが、そのチームは感染症の専門家ではないため、直接患者乗客と面談をしてしまい感染。そのチームの感染者が乗客への2次感染も起こした。DP船上ではそもそも緩和ケアの必要はなく、下船してからでもよい。もし必要があってもスマホのテレビ電話でできたはず。

 

  ついでに笑い話その5は、そもそも彼を派遣した厚労省は彼を災害派遣医療チームDMATの一員として送り込んだのです。そのため彼は感染症の何たるかを知らないDMAT指揮官に従い、そのDMATも厚労省の役人指揮下に入った。

  

  彼は船内のメチャメチャな状況に危機感を抱き、ゾーニングの大切さや感染専門家として積極的に改善すべ事項などその場で意見を述べたところ、厚労省の現場指揮官から対策チームの和を乱したとして即刻たたき出されてしまった。厚労省のやることはいつでも間違いはなく、無謬性こそが日本の役人の寄って立つところだからです。そして間違ったことがわかっても「東大話法」で交してしまう。絵にかいたような日本のお役所仕事です。

 

  すべて決められたマニュアルどおりにしかやらない役人たちがマニュアル通りに動いていたが、彼にいわせればそもそも役人たちは感染症の蔓延している現場などの経験者はほとんどいない。役人たちが普段やっている仕事は、全国の保健所などから上がってくる感染者などの統計を集計し、対処方針を決めるのが仕事。感染者の多数出ている現場の仕事を経験してもいない、感染防止の仕方すら知らない役人が派遣部隊全体の指揮をとり、笑い話にあるような感染の拡大に貢献してしまった。

 

  彼への非難のネットニュースも見ておきましょう。

 

「船内は適切な感染対策をしていたのに、わずか2時間程度で一部しか見てない部外者が不安をあおるようなことを言うな。いわく、仮に感染対策が不完全だったとしても、不安や疑念が交錯するときだからこそ一致団結していかなければいけないんだから、スタンドプレーで船内に潜り込んで一方的な批判だけするのはいかがなものか」。

 

  こうしたお役所の普段からの集団行動様式がせっかく派遣されてきた専門家をたたき出すことになり、結局ダイヤモンドプリンセス号の乗船者合計3711人中712人もの感染者が出て、うち13人が死亡してしまいました。私が犠牲者の家族だったら、厚労省を告訴します。

 

  以上を告発した岩田氏は今後も厚労省からは忌み嫌われるでしょうし、彼の意見を決して聞こうとはしないでしょう。

 

 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

景気の先行きはV字、U字、L字、それともスウォッシュ型

2020年05月19日 | コロナショック

  昨日、日本の1-3月期のGDPが2期連続でマイナスになったと発表されました。10月から消費税が引き上げられたため前の期は△7.1%でしたが、それに続いて△3.4%で2期連続マイナスのため、景気は後退期に入ったと認定されます。しかし問題はもちろん次の4-6月期です。すでに大方のエコノミストの予想は△20%前後となっていて、リーマンショックをはるかに超えそうです。アメリカでは失業率も20%超が予想され、不況の程度は大恐慌以来というような声まで聞こえます。

  世界経済の将来を巡っては様々な見方が議論されています。その中にあって一昨日アメリカのFRB議長パウエル氏がCBSのインタビューに答え、かなり慎重な見方を示しました。そのニュースをNHKニュースから引用します。5月18日のNHKニュースから引用します。

引用

FRBのパウエル議長は17日CBSのインタビューに答え、新型コロナウイルスの感染拡大で悪化した景気の先行きについて「回復にはしばらく時間がかかるだろう。来年の終わりまでかかる可能性もある」と述べた。
そのうえで「景気が完全に回復するためには、人々が確信を持つ必要があり、ワクチンの開発を待たなければならないかもしれない」と述べ、ワクチン開発の状況が景気回復にも影響する可能性があると指摘した。

さらに失業率について、1930年代の世界恐慌の時と同じ水準の25%まで悪化するおそれがあるのかという質問に対し、「さまざまな見方があるが、ピークでそれくらいではないか」と述べ、先月14.7%となった失業率が、さらに悪化する可能性もあるという厳しい見方を示した。
アメリカの多くの州では、感染拡大のピークは過ぎたとして経済活動を再開させる動きが始まり、経済や雇用の回復への期待が出ているが、FRBとしては感染の第2波への警戒もあり、慎重な見方を示した。

引用終わり

 

  さて、こうした大きな激震があった後の回復過程を表す言葉には、V字回復とか、U字回復、そして回復なんか当分望めないという意味でL字型と言うような表現がよく使われます。

  一方、最近アメリカではやっている回復イメージは「スウォッシュ型」です。英語ではSWOOSHと書きますので、音としてはスウッシュに近そうですが、とりあえずよく使われるスウォッシュでいきます。

  これが何の意味だかご存知の方は、かなりの経済通です。これは実はナイキのマークです。と聞くと、なるほどと思われるでしょう。ドカンと落ちた後に、底這いに近いもののL字ではなく先行き徐々に回復するイメージです。

  では突然ですがここで質問です。ナイキは何故このスウォッシュマークをロゴとしたのでしょうか。

  むかしよくNIKEをニケと読んで笑われたという話がありました。しかしこれは笑い話ではなく、そもそもナイキは勝利の女神「ニケ」をイメージに使ったのだそうです。ニケとは神話に出てくる勝利の女神で、有名な「サマトラケのニケ」とは、エーゲ海のサマトラケ島で見つかってルーブルが収蔵している、首がなく翼の生えた大理石の女神像です。ご覧になった方も多いでしょう。私はあの像を見るたびに、首は落ちたのに大きく広がった翼はよく落ちなかったものだ、と思います。

  それが何故あのスウォッシュマークになったかというと、ニケの翼のイメージを模したのだそうです。そういわれてみると確かに翼を切った断面は、あのロゴのような形状をしています。いわゆる浮力を得るための形状です。昨日、空飛ぶマイケル・ジョーダンがプロ入り初期に履いたシューズ、エア・ジョーダン1がオークションに出され、6千万円で落札というニュースもありました。85年のあの大ヒットが今日のニケじゃなくて、ナイキの隆盛を作り出しました。

 

  話を景気に戻します。FRBのパウエル議長の言うような来年末の回復となると、たしかに回復イメージは長く伸びたスウォッシュマークのようになるかもしれません。かなり慎重な見方ですが、一つにはトランプ政権の前のめりな経済活動再開に向けた姿勢をけん制したのだと思われます。もちろん先行きはコロナウイルスの感染状況によるのでしょうが、オレ様独裁者たちが跋扈している世界を見ていると、そうした慎重な見方をしておくのが間違いなさそうに思えるので、コロナ感染の先行きが見えない中ではありますが、私もま延びしたスウォッシュ型を支持します。

  11月の選挙しか考えていないトランプは、すべてを中国のせいにしてコロナの大爆発から責任逃れをして、経済回復に賭けています。150万人の感染はトランプの責任以外、誰のせいでもありません。このため自分に対して諌言を吐く側近はことごとく首にし続け、「そして誰もいなくなった劇場」がいまだ続いています。しかし事は彼の思惑通りには進みそうもありません。トランプ支持者が多く大統領選でも選挙人の数が多い重要州テキサスでは、コロナ感染者数が4月には大きく低下して5月1日に規制緩和宣言をしたのですが、このところ感染者数はまた力強く急上昇し始めました(笑)。

  現時点での世界各国の感染者数順位は以下のように、オレ様独裁者たちの愚かさ加減どおりの順位になっています。そしてこのところ頭角を現している大バカ者ボルソナロは、やがてプーチンや感染経験者ジョンソンを抜いて2位の栄冠に輝くに違いありません。気の毒なのはブラジル国民です。すでに病院すらないアマゾンの奥地まで感染が拡がっていますが、彼は依然「コロナなんかインフルエンザと同じだ」というスタンスを変えずまともな経済封鎖をしようとせず、国民から見放されつつあります。

世界の感染者数順位5月17日

1位 トランプのアメリカ  147万7815人
2位 プーチンのロシア   28万1752人
3位 ジョンソンのイギリス 24万4603人
4位 ボルソナロのブラジル 23万3648人

  日本がこの中に入っていないのが、せめてもの救いです。ちなみに現在15位ですが、順位は下がりつつあります。

  安倍政権はこのところの支持率低下に仰天し、検察庁法案を引っ込めました。この一両日に行われた朝日新聞の世論調査では支持率わずか33%、不支持率47%と大逆転。モリカケ問題が沸騰した18年春の31%につぐ低さでした。三権分立無視では同列の安保法案で強行採決に及んだものの、さすがにコロナ感染下では強行採決できなかったのでしょう。おかげで私自身は多少留飲を下げることができました。マスクをしないトランプに比べ、極小マスクをしているだけ多少マシなのでしょう(笑)。

  でもあのビキニマスク、要注意です。洗いすぎるとTマスクになるそうですので(爆)。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする