天気だけはどうやらおだやかなクリスマスですね。
先週の東京はずいぶん暖かくて、クリスマス気分とは程遠いものがありましたが、週末になってどうやら冬らしくなってきました。気候変動の激しさはとどまるところを知らず、今年も毎週のようにどこかで記録的暑さだ寒さだ豪雨だと言われ続けた一年でした。年に何度も50年に一度の異常気象があるので、今やそう言われても「ふーん」という感じです。
さて金融市場はクリスマス休戦中ですが、トランプはツイッター爆弾を落とし続けるので、相場にかかわっている方々はおちおちしていられませんね。年末年始の短いアメリカは、来週からトランプ爆弾とともに稼働し始めます。そして爆弾は今後数年落ち続けます。
もっとも相場関係者だけでなく、トランプ陣営の首脳たちも右往左往しています。彼の核戦力強化発言がプーチンを刺激し核軍拡競争になりかねないため、必死に「真意は違う」と言い訳をしています。ドゥテルテが発言するたびに火消しをしなければならないフィリピン政府並みのことが、アメリカでも起こっています。就任前からこの調子だと、陣営がいつまで彼のツイッター使用を許すのかが見ものです。トランプとしては大嫌いな記者会見をせずに一方的発言で言いたい放題ができるため、きっとこの武器を捨てようとはしないでしょう。
今回は「トランプのアメリカに投資して大丈夫か」の本丸、長期展望です。
当選後世界中の株価が上昇した当初は「何故?」という声もありましたが、最近はそもそも彼の政策がプロビジネス一色であることの理解が進んだので違和感がなくなり、トランプ礼賛の声が優勢になっています。そしてトランプ政権の閣僚の布陣を見ると、こんなにも投資家寄り、つまりは金持ち寄りでいいのか、と思わせるほどです。
この布陣、実はオリガルヒを重用するプーチン政権と似ていることを指摘しておきます。オリガルヒとは、寡占=オリゴポリーをしている人々、日本流にいえば政商による寡頭政治です。ロシアの重要産業のほとんどを友人たちにまかせることで、その統領であるプーチンは絶対的安泰を保持しています。
ゴールドマン出身者を多用したトランプ流オリガルヒ体制は、まさにプーチンの写しといえます。
日本はもとより、洋の東西を問わず政権を奪取する際の政治家の謳い文句は、「経済復興」です。打ち上げ花火を上げて票を集め、実際には実現するものが期待以下なので、時間が経つにつれてしぼんでいくというパターンを描きます。
特に近年は政治課題の多くが経済問題で占められているため、政治が金融市場を動かしたり、反対に相場で政治が動いてしまう度合いが大きくなっています。それを、相場の材料に飢えた市場関係アナリストや投資家がはやしたて、増幅させています。
「政策期待によるボラティリティが、経済実態によるボラティリティ以上になっている」
というのが最近の市場の私なりの見立てです。
アベノミクスがそうであったように、トランプも市場の政策期待を実に巧妙に利用しています。アメリカがすでに力強く回復しているところに、彼が追加策を実行するため、今後も短期から中期的にアメリカ経済は楽観論が支配していくでしょう。前回申し上げたようにラリーは長く続かないとしても、その後もしばらくは弱気に転換することはないと思われます。時間軸で言えば、彼の再選のあるなしが問われ始める頃まで、と申し上げておきます。
しかしより長期で見ると懸念すべき材料がたくさんあります。
1.アメリカ・ファースト=貿易制限による近隣窮乏化。いずれは己にはね返ってくる。
2.新興諸国からアメリカへの資金シフト=すでに新興国市場での債券発行が著しく困難となり、投資減退、消費減退につながる。これも己にはね返る。
3.長期の財政赤字拡大懸念=減税とインフラへの投資による財政赤字拡大、インフレ懸念から米国金利が上昇し、政府の金利負担が増加。
なかでもみなさんの懸念は、長期で見たアメリカの財政と国債市場の動向でしょう。
法人税も個人の所得税も減税一色ですから、歳入が不足します。景気が上向けば、そして物価が上昇すれば、そのうちの何割かは取り戻せる可能性がありますが、それは皮算用に終わる可能性もあります。なぜならアメリカの景気はすでに6年にわたり順調で、循環論から言えばそろそろ小休止してもよい時期だからです。
それでもきっとトランプは自分が大統領であるうちは、政策を総動員して景気を持たせようともがくにちがいありません。利上げに動くFRBを人事で脅し、景気の維持拡大を目指すでしょう。
初の「女性」議長であるイエレンと女性蔑視のトランプ大統領の確執が見ものです。この勝負、あとを気にする必要のない「イエレンは決して負けない」とトランプ占いをしておきます(笑)。
イエレン議長はそもそもハト派、つまり利上げに積極的ではありません。その議長が利上げをしているくらいですから、アメリカ経済は順調そのものです。しかしトランプと言う人間は、自分の言う通りに動かない人間をことごとく取り除こうとする。プーチンのやり口と同じです。
我々は、いずれトランプ政策に限界が見え景気が後退を始めた時、何が起こるかをしっかりと見ておく必要があります。
トランプラリーが始まったとき、「グレートローテーション」という言葉が使われました。「債券よさようなら、株式よこんにちは」の流れをさしていました。端的にはそれが逆転すると見れば間違いありません。
最初は株式の暴落です。現在すでに十分に高いところにいる株価が、今後さらに上昇していた場合、山高ければ谷深し。相当な暴落を覚悟する必要があるでしょう。アメリカの株式の時価総額は巨額のため、トランプが吠えようがPKOを発動しようが、容赦なく暴落します。そのころには底値拾いの上手なバフェット爺さんもいないかもしれませんが、アメリカは逆張り投資家だらけなので、その先は心配いりません。
株式暴落の次に起こるのはリバース・ローテーション、つまり「株式よさようなら、債券よこんにちは」です。
私の教科書、「米国債を買え」の141-2ページをご覧ください。10年ほどの間にあった、米国債買い=フライト・トゥー・クオリティの状況をグラフで示してあります。金利が谷を作った、つまり債券が大きく買われた局面が見て取れます。
その1.9・11のテロ後の株式大暴落
その2.ブッシュのイラク進攻による株式暴落
その3.リーマンショックの株式大暴落
いずれも激震が世界中に伝搬するほどでしたが、教科書通りにアメリカ国債にカネが集まり、金利が大幅低下しました。
マグニチュードで言いますと、トランプの経済政策ごときはリーマンショックなどに比べればモノノカズではありません。この際、日本を含め、過去のバブル崩壊規模を数字で見ておきましょう。ドル円換算レートはいずれも当時のレートです。
日本のバブル崩壊による不良債権規模;110兆円(金融機関の累計処理総額)=GDP比で2割
リーマンショック時サブプライムローン;全額で130兆円=GDP比1割
しかもサブプライムローンは全額が不良債権になったわけではないし、アメリカ国内の保有は半分くらいだったので、私が一貫して「大したことはない」と言っていた訳がわかると思います。
トランプ政策のツケ見込み;米国政府予算規模450兆円、うちトランプが左右できる政策余地は1割もないが、あったとして、そのうち2割がツケとなったとしても、年9兆円。4年で36兆円にすぎない。対GDP比ではわずか1.8%。8年やったところで4%弱。
こうして数字を比較して見れば、たかがトランプで騒ぐほどアメリカはヤワじゃないというのが、よく理解できると思います。騒ぎ立てるエコノミストがいたら、上の数字を見せてあげましょう(笑)。
そして、トランプ暴落と同時に起こるのは「フライト・トゥー・クオリティ」=米国債ラリーに決まっているのです。
つづく
次回はトランプによって不確実性が増す地政学上のリスクを見ておきましょう。私が前回の講演会の趣旨として掲げた「同時多発ポピュリズム現象」のリスクです。