晩秋の良く晴れた日
我が地方では「建て前」、と呼ばれる、上棟が行われていた。
4,5人ほどの大工さんがクレーンで吊り上げられた材木を、手際よく組み立てている。
大工さんのほかには人影がないから、家人も学校や職場に出かけたのだろう。
つい、20年ほど前の「建て前」は、地域にとっても、お祭り騒ぎ。
親類、親戚・・の、男衆は金槌持参で手伝いに集まり、その家の主人が手拭いを渡して「怪我の無いようにお手伝いを願います。」
貰った手拭いで鉢巻を締めて、大工さんの手伝い。
手数のかかる、裏板と呼ばれる、屋根下地の釘打ち作業の手伝いが中心、女性たちは白割烹着姿で勝手の手伝い。
午後の早い時間に、真新しい屋根に、大きな矢車や、五色の吹き流しが飾られて、近所の子供たちが集まり始める。
手伝いや大工さんの中から、両親が健在の数人が選ばれて、餅を搗く。
搗きあがった餅は「すみ餅」と呼ばれて、4個に丸められる。
盛装したその家の主人夫婦が出て神事が始まる。
外では集まった、いっぱいの大人や子供がガヤガヤ、今や遅しと餅まきを待っている。
神事終わって、若い大工さん4人が新しい家の、屋根の四隅から大きな、「すみ餅」を、掛け声とともに、中央に向かって投げ入れると、縁起が良いとされる、4個の「すみ餅」を拾おうと、集まった人たちは走り回る。
大人も本気になるから「すみ餅」だけは、子供には中々拾えない。
「すみ餅」が納まった頃から、今度は大量の紅白の餅や、袋菓子が屋根からバラバラと撒かれて、大人も子供も一緒になって餅拾い。
餅まき終わって、新しい家の座敷部分には仮の板が敷かれ、周囲は紅白の幕が張られて祝宴が始まる。
大工さんには、手間賃とは別に「ご祝儀」が配られる。
祝い事には欠かせない「御祝い」が詠われて、大工さん方は引き上げる。
この後、大工さんたちは、「矢送り」と称して棟梁の家に押しかける。
棟梁の家でも、上棟した家でも祝宴は続く・・・・
上棟の頃から、集落の各家から、お手伝いが届く。
現在では数千円から1、2万円だが、昔、萱葺の家を建てるには、大量の萱が必要な事からお互いに萱を出し合った名残だと思う。
萱も必要のない現在は、その手伝いの習慣も薄れてきている。
今日、静かに上棟した家は、本格的な雪の前に入居するんだろう。
大きな家だ。
明日、我が家でも「お手伝い」を届けようと思う。