語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】「2・6・2の法則」という組織の力学

2018年01月03日 | ●佐藤優
 <組織にはどうしてもヒエラルキーができるものです。「2・6・2の法則」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。組織にはバリバリ仕事をして組織を引っ張っていく2割の人と、それに続く標準的な能力の6割の人、組織の足を引っ張り、ときに組織からはみ出すような2割の人がいるというものです。
 優秀な2割だけで組織をつくればさぞかし素晴らしい組織になると思いきや、今度はその中で「2・6・2の法則」が成立します。
 イヤな話ですが、最下層の2割がいることでほかのメンバーは優越感を持ち、安心して仕事ができる。組織がうまく回るには下の2割がぜひとも必要なのです。絶対的な能力で振り分けられているのではなく、組織というものがもともとこの仕分けを必要としているのです。
 この法則は人間だけでなく、動物の社会にも当てはまるのだそうです。アリの社会にも、普段仕事をせず力を発揮しないアリが2割います。
 ところが、普段働かない2割が、いざというときに力を発揮します。
 たとえば自然現象で巣が危機に瀬しているときなどには、働いていなかった2割が俄然活躍するのだそうです。
 つまり、一番下の2割は組織の潜在力でもあるのです。普段から全員が100%の力を発揮していたら、いざというときに対応する力が残っていません。そう考えると、一番下の2割の社員を大切にする会社こそ、危機に強い会社だといえそうです。
 ただし、現実的には実績を残せない社員は肩身がとても狭くなる時代です。自分がどんな立場にいて、どう生きていくか? 戦略的に動く必要があります。>

□佐藤優『僕ならこう読む 「今」と「自分」がわかる12冊の本』(青春出版社、2017)の「第4章 組織の怖さと残酷さについて」の「ストレスのはけ口は弱い人間に向けられる」から引用
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 【参考】
【佐藤優】ストレスのはけ口は弱い人間に向けられる
【佐藤優】ブラックな組織で生き延びる方法

【佐藤優】ストレスのはけ口は弱い人間に向けられる

2018年01月03日 | ●佐藤優
 <組織中で生き抜くにも厳しいことの多い時代です。経済が停滞して会社の業績も上がらないと、どうしても組織全体がギスギスしてくる。上の人間が仕事がうまくいかないストレスを部下にぶつけると、その人はさらにその部下にあたる・・・・。
 この立場の弱い人間に抑圧が移っていくことを丸山眞男は「抑圧移譲」と呼びましたが、立場の弱い人とは、必ずしも地位や肩書の上下だけではありません。
 組織で軽く見られている人やバカにされている人に抑圧が移転していく。イヤな話ですが、現実社会ではありがちな光景です。
 こうなると、組織で自分が抑圧移譲の対象にならないようにしなければなりません。
 一番いいのは仕事の成績を上げること。会社であれば営業成績を上げる、学校であればテストでいい成績をとる。周囲は成果を上げている人物には一目を置いた対応をするので、簡単に軽んじられることはないでしょう。
 なかなか成績を上げられないという人はどうしたらいいか? 後ろ向きのように聞こえますが、目立たないようにすることです。特に最近は社会全体に組織化、管理化が進み、少しでもはみ出した行動をとると周囲から目をつけられがちです。
 気配を消すという言葉がありますが、不要な自己主張をせず、組織の流れと空気をある程度読んで行動することです。どうも窮屈な話で気分が滅入りそうですが、現実的に対応する必要があります。
 自分を主張するのは、相応の実力と成果を上げてから。そうでないうちに力んでも、空回りして逆効果になることが多いのです。特に右肩下がりで会社にも組織にも余裕のない今の時代では、なおさら敏感にならざるを得ません。>

□佐藤優『僕ならこう読む 「今」と「自分」がわかる12冊の本』(青春出版社、2017)の「第4章 組織の怖さと残酷さについて」の「ストレスのはけ口は弱い人間に向けられる」から引用
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 【参考】
【佐藤優】ブラックな組織で生き延びる方法


【佐藤優】ブラックな組織で生き延びる方法

2018年01月03日 | ●佐藤優
 <では、閉塞した組織で生き抜くにはどうすればいいか。実は小説【引用者注:野間宏『真空地帯』】に登場する會田とい人物がヒントになります。彼は木谷に興味を持ち、その力になりたいと考えるのですが、班の中では一目置かれた存在です。
 特に地位が高いわけでもないのに、なぜ彼は周囲から一目置かれているのか。それは情報をたくさん持っているからです。人事部門で働く會田は、ほかの兵士がどこに配属されるか、前線に送り込まれるのは誰かをいち早く知る立場です。會田自身に決定権はないのですが、先輩兵でさえ彼に媚びる。有益な情報を握っている人物こそ、組織では一目置かれます。
 これは今のビジネス社会でもそのまま当てはまるでしょう。自分はそんな中心的な部署にはいないという人でも、組織で最も情報を握っている人を見極め、うまく関係を持つことはできるはずです。
 情報を持つということは、いつの時代でも大きな力になります。多少せちがらくはあっても、戦略的に意識して動くことが必要なのです。>

□佐藤優『僕ならこう読む 「今」と「自分」がわかる12冊の本』(青春出版社、2017)の「第4章 組織の怖さと残酷さについて」の「ブラックな組織で生き延びる方法」から引用
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 【参考】
【佐藤優】トランプ大統領とロシアなら取引は可能だ ~ロシア~
【佐藤優】金正恩はなぜ金正男を殺したのか? ~その「内在論理」~
【佐藤優】盤石な北朝鮮の権力基盤を弱める ~金正男暗殺~
【佐藤優】沖縄報道の植民地主義的な認識 ~朝日新聞~
【佐藤優】マティス国防長官来日/尖閣は安保適用の範囲/北方領土との整合性は
【佐藤優】露外交官の追放問題に見るトランプ氏の能力
【佐藤優】北方領土交渉に必要な反日ロビー活動の封印
【佐藤優】沖縄に対する構造的差別 ~「土人」発言~
【佐藤優】尖閣諸島から米国が手を引く可能性 ~北方領土交渉と日米安保~
【佐藤優】ウズベキスタンにIS流入の危険 ~カリモフ大統領死去~
【佐藤優】国後島で日本人通訳拘束/首脳会談への影響は ~実践ニュース塾~
【佐藤優】モサド長官から学んだインテリジェンスの技術
【佐藤優】ロシア大統領府長官にワイノ氏就任の意味 ~北方領土交渉~
【佐藤優】西郷と大久保はなぜ決裂したのか ~征韓論争~
【佐藤優】開発独裁とは違う明治維新 ~目的は複数、リーダーも複数~
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【佐藤優】スコットランドの動静と沖縄の日本離れの加速
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【佐藤優】ナチスドイツ・ロシア・中国・北朝鮮 ~世界の独裁者~
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【佐藤優】殺しあいを生む「格差」と「貧困」 ~「殺しあう」世界の読み方~
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【佐藤優】分析力の鍛錬、事例、実践例 ~知の教室・抄(3)~
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『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
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【佐藤優】サハリン・樺太史、酸素魚雷と潜水艦・伊400型、飼い猫の数
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【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
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【佐藤優】同志社大学神学部 私はいかに学び、考え、議論したか」「【佐藤優】プーチンのメッセージ
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【佐藤優】×池上彰「新・教育論」
【佐藤優】沖縄・日本から分離か、安倍「改憲」を撃つ、親日派のいた英国となぜ開戦
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【佐藤優】現実の問題を解決する能力 ~知を磨く読書~
【佐藤優】琉球独立宣言、よみがえる民族主義に備えよ、ウクライナ日記
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】ネット右翼の終わり、解釈改憲のからくり、ナチスの戦争
【佐藤優】「学力」の経済学、統計と予言、数学と戦略思考
【佐藤優】聖地で起きた「大事故」 ~イランが怒る理由~
【佐藤優】テロ対策、特高の現実 ~知を磨く読書~
【佐藤優】フランスにイスラム教の政権が生まれたら恐怖 ~『服従』~
【佐藤優】ロシアを怒らせた安倍政権の「外交スタンス」
【佐藤優】コネ社会ロシアに関する備忘録 ~知を磨く読書~
【佐藤優】ロシア、日本との約束を反故 ~対日関係悪化~
【佐藤優】ロシアと提携して中国を索制するカードを失った
【佐藤優】中国政府の「神話」に敗れた日本
【佐藤優】日本外交の無力さが露呈 ~ロシア首相の北方領土訪問~
【佐藤優】「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~北方領土問題~
【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
【佐藤優】ロシアが警戒する日本とウクライナの「接近」 ~あれかこれか~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
【佐藤優】米国をとるかロシアをとるか ~日本の「曖昧戦術」~
【佐藤優】エジプトで「死刑の嵐」が吹き荒れている
【佐藤優】エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】バチカンの果たす「役割」 ~米国・キューバ関係~
【佐藤優】日米安保(2) ~改訂のない適用範囲拡大は無理筋~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】外相の認識を問う ~プーチンからの「シグナル」~
【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」
【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

【本】スウェーデンの高福祉で高競争力、両立の秘密 ~『政治経済の生態学』~

2018年01月03日 | 批評・思想
★スヴェン・スタインモ(山崎由希子・訳)『政治経済の生態学 スウェーデン・日本・米国の進化と適応』(岩波書店 4,104円

 (1)グローバル化で福祉国家の維持は困難になるとされてきた。
 だが、この仮説は現実には妥当しないと本書は結論づける。スウェーデンは、その典型だ。
 この国の政府支出の対GDP比は50%を超える(日本は約37%)。まさに「高福祉・高負担」だ。しかし経済成長率、財政健全性、世界競争力ランキング、女性の就業率、平等度、どれをとっても先進国トップクラス、日本ははるか後塵を拝する。

 (2)その秘密はどこにあるのか。本書は、それを日米両国との対比で解き明かそうとする。
 スウェーデンの長所は、変化への高い適応能力だ。産業構造のサービス化・知識集約型への転換は不可避と見るや、それを支える人的資本への投資(教育支出)に大きく舵を切る。移民より社会分断が少ないという考慮から政府は、女性の労働市場参加を一貫して支持し、両性間平等を徹底させた。これを、充実した家族支援政策が支え、大きな政府部門が女性にポストを大量供給した。
 しかもスウェーデンは、近年、すっかり移民の国へと変貌を遂げている。現在、人口の12%は外国生まれ、将来的には4分の1が非北欧系になるとの推計もあるという。これらが、労働力の確保や社会保障の危機緩和に大きく貢献している。

 (3)対する米国は、驚異的な経済活力、富の蓄積の一方で、社会的格差はますます拡大、反転の兆しが見えないことが、その将来に影を落とす。
 日本は、問題の所在が明確にもかかわらず、女性、移民、いずれをとっても適応への社会的合意ができず、衰退国家に足を踏み入れている。かつて、石油ショックを一体となって乗り切ったあの社会的団結力はどこへ行ったのか。
 現在の日本にとって苦しいのは、経済問題を純粋に経済問題としてのみ処理できない点にある。女性や移民をめぐる日本人の保守的心性、これが必要な変化を遅らせ、結果的に経済の足かせになっていると著者は鋭く指摘するのだ。

□諸富徹(京都大学教授・経済学)「高福祉で高競争力、両立の秘密/(書評)『政治経済の生態学 スウェーデン・日本・米国の進化と適応』 スヴェン・スタインモ〈著〉」(朝日新聞デジタル 2017年11月5日)
高福祉で高競争力、両立の秘密/(書評)『政治経済の生態学 スウェーデン・日本・米国の進化と適応』 スヴェン・スタインモ〈著〉
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 【参考】
【本】ネット時代のテロリズムはどこから生まれてくるのか ~『グローバル・ジハードのパラダイム: パリを
【本】1920年代の経済報道に学ぶ ~『経済失政はなぜ繰り返すのか メディアが伝えた昭和恐慌』~
【本】朝日新聞・書評委員が選ぶ「今年の3点」(抄)
【本】著者の知的誠実さに打たれる日韓問題を深く理解できる書 ~『「地政心理」で語る半島と列島』~
【本】人の判断はなぜ歪むのか/2人の研究者の友情物語 ~『かくて行動経済学は生まれり』~ 
【本】エネルギーの本質を学ぶ ~『エネルギーを選びなおす』~
【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
【本】日本語特殊論に与せず ~『英語にも主語はなかった』~
【本】小国の視点で歴史を学ぶ ~『石油に浮かぶ国/クウェートの歴史と現実』~
【本】日本における婚姻を考える ~『婚姻の話』~
【本】元財務官僚のエコノミストが日本経済復活の処方箋を説く ~『日本を救う最強の経済論』~
【本】歴史を知らずに大人になる不幸 ~『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』~
【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~
【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~
【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~
【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』

【本】ネット時代のテロリズムはどこから生まれてくるのか ~『グローバル・ジハードのパラダイム: パリを

2018年01月03日 | 批評・思想
★ジル・ケペル、アントワーヌ・ジャルダン(義江真木子・訳)『グローバル・ジハードのパラダイム: パリを襲ったテロの起源』(新評論 3,600円)

 (1)西欧では、2016年に30件以上ものテロ事件が起き、150人以上の死者を出した。世界中で新左翼テロの嵐が吹き荒れた1970年代と比べればまだ少ないが、未遂事件なども含めれば潜在的なテロ発生の確率は高いままだ。当局の必死の対策にも係(かかわ)らず、テロはなぜやまないのか--。本書はその謎を理解する手掛かりを与えてくれる。

 (2)現在のイスラム過激派によるテロは、アフガン戦争のような局地戦でも、0年の米同時多発テロのようなピラミッド型組織によるものでもなく、先進国が中東の紛争地の「飛び地」となって噴出していることに特徴があるという。
 これは、アラブ世界で宗教原理主義が台頭してグローバルな聖戦(ジハード)が唱えられる一方で、先進国が若い移民系市民の社会的包摂に失敗したことが共鳴して起きていることによる。このテロの形態は「第3期のジハーディズム」と名付けられる。本書の表現を借りれば、「フランスのジハードはシリアへ、シリアのジハードはフランスへと延長していくこと」になったのであり、グローバル化とインターネットの発達によって先進国社会と紛争地は地続きになった。この図式は、フランスに留(とど)まらない。

 (3)著者は、一貫してイスラム教を社会科学的観点から分析してきた、世界的に知られる研究者だ。専門家は、往々にしてイスラムの見方を一方的に代弁しがちである。だが、ケペルは反対に、ネット上やSNSに流れるイスラム国の言説を含め、アラビア語特有のニュアンスを読み解きつつ、関係者への聞き取りなどのフィールドワークを通じて事実を積み重ねる手法を取る。その中途で、フランス社会の反ムスリム感情を論難するエマニュエル・トッドの言説の無根拠さなども俎上に載せられているのも痛快だ。訳者の丁寧な注釈も文脈を理解するための手助けとなる。

 (4)フランスにおけるイスラム系団体の投票行動が詳述されているのも興味深い。移民系の票は、多文化主義支持の観点から左派リベラル政党に有利に働くが、同性婚などの争点では反リベラルに接近する。争点によっては反ユダヤ主義を掲げる極右や反帝国主義の極左と共闘する局面もあり、問題の根深さがうかがえる。

 (5)本書では、人口わずか2万5千人の南仏の都市にある捨てられた司祭館がシリア難民の収容所になるとともに、その街の数十人の若者がジハーディストとしてシリアに飛び立っていったというエピソードが紹介されている。世界がグローバル化すれば、テロもグローバル化する。テロとの共存を余儀なくされる所以である。

□吉田徹(北海道大学大学院法学研究科教授)「ネット時代のテロリズムはどこから生まれてくるのか  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2017年12月30日/2018年1月6日号)
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【本】エネルギーの本質を学ぶ ~『エネルギーを選びなおす』~
【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
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【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
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【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
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【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
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【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
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【英国】生産性向上に向けて大幅に投資を増額した2018年度予算

2018年01月03日 | 社会
 (1)11月22日、英国政府は2018年度(18年4月~19年3月)の予算書である「秋季予算案」を発表した。英国では従来、毎年11月ごろに来年度の税制・財政政策の方針を示す「秋季財政報告」が発表され、翌年3月に正式な予算書である「春季予算案」が出されていたが、今年からは秋に予算書が発表されることになった。議会の予算審議に十分な時間を確保することや、税制改正の内容をより早く公表することが変更の理由である。

 (2)今後は3月ごろに「春季財政報告」が発表されるが、こちらの主眼は「秋季予算案」発表後の経済・財政状況の変化に合わせた予算案の微調整であり、大幅な政策変更は基本的に盛り込まれない。

 (3)現在の保守党政権は、25年までの財政赤字解消を公約に掲げており、今回の予算案も全体的には緊縮気味の内容となっている。ただし、そうした中でも住宅購入支援や欧州連合(EU)からの離脱といった喫緊の課題に対しては一定の手当てがなされた。

 (4)住宅に関しては、初めて住宅を購入する層を対象に印紙税の軽減が打ち出された。30万ポンド(約4,500万円)以下の住宅については印紙税が免除され、またロンドンなど住宅価格が高い地域では、購入価格が50万ポンド(約7,500万円)以下であれば30万ポンド分については印紙税が免除される。
 加えて、住宅の供給不足解消に向け、今後5年間で総額440億ポンド(約6兆6,700億円)を投融資や信用保証に充てること、建築技術向上のための財政支援増額なども盛り込まれた。政府は一連の措置で、住宅供給数を20年代半ばまでに年間30万戸に引き上げることを目標としている(16年は21万7千戸)。

 (5)EU離脱については、対応予算として今後2年間で30億ポンド(約4,550億円)が計上される。具体的な使途は未定だが、通関や移民管理の人員増強やシステムのアップグレードなどに使われるとみられている。

 (6)今回の「秋季予算案」では、経済見通しが下方修正されたことも注目を集めた。従来の見通しでは、18~21年の平均実質GDP成長率は年率+1.8%だったが、今回は同+1.4%に下方修正され、22年の成長率も前年比+1.6%と低めの予想になっている。
 下方修正の主因は、生産性の想定伸び率が大きく引き下げられたことだ。英国では10年代に入って以降、生産性の伸び悩みが続いているが、そうした状況が当面継続することが経済見通しの前提として織り込まれた。
 政府も生産性低迷の問題を認識しており、対策に着手している。今年度より「国家生産性投資基金」を通じたインフラ整備等への資金供給を開始したほか、今回の予算案では同基金の増額が盛り込まれた。この他にも、研究開発投資支援や電気自動車の普及促進、第5世代移動通信システム(5G)の実用化支援などに向けた予算が計上されている。
 もっとも、こうした政策の効果が生産性の向上として顕在化するまでには少なくとも数年を要するとみられる。今後数年間、英国政府にとって最大の課題がEU離脱であることは論をまたないが、同時に生産性向上に向けた諸政策の進捗やその効果などにも注目していきたい。

□高山真(三菱東京UFJ銀行経済調査室ロンドン駐在)「生産性向上に向けて大幅に投資を増額した英国の2018年度予算」(「週刊ダイヤモンド」2017年12月16日号)
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