語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~

2017年08月26日 | 社会
 (1)7月18日、英国政府は計画中の高速鉄道、ハイスピード2(HS2)に関し、第1期工区(ロンドン~バーミンガム間)の第1回大口発注先を発表した。今回の発注は、トンネル、橋、土手の工事。発注額は66億ポンド(約9,600億円)。コステイン(英国)、カリリオン(英国)、ブイグ(フランス)、ストラバグ(オーストリア)、スカンスカ(スウェーデン)といった建設会社13社が参加する四つの合弁企業が受注した。

 (2)HS2は、ロンドンとイングランド北部を結ぶ路線だ。計画案は2009年に発表された。
  (a)第1期工区・・・・ロンドンを南の起点として、イングランド中部バーミンガムまでの路線が2026年に開通予定。
  (b)第2期工区・・・・バーミンガムを起点とする二股の路線で、北東はリーズ、北西はマンチェスターまで延伸される。2032~33年に開通予定。雇用創出に対する期待も高く、今回の大口発注だけでも16,000人分の雇用につながると試算されている。

 (3)HS2は、日本企業にとっても関心の高いプロジェクトだ。
  〈例1〉JR東日本が運行計画に関するコンサルティング業務を受託した実績がある。
  〈例2〉日立製作所が車両納入を目指している。

 (4)HS2が開通すれば、ロンドン~バーミンガム間の移動時間は従来の6割に短縮される。
 HS2の最高運行速度は、欧州最速となる時速約400km。その計画が実現すれば、ロンドン~バーミンガム間の所要時間が現在の約80分から約50分に短縮される。バーミンガムには、自動車産業を中心に多くの日本企業が進出している。ロンドンとの往復時間が1時間短縮されれば、両者の間の距離は心理的にかなり近くなる。

 (5)本格的な発注開始を受けて期待が高まっているHS2ではあるが、幾つか懸念される報道も流れている。
 〈例1〉総工費が大幅に上振れする可能性の指摘。現在、英国政府はHS2の総工費を557億ポンド(8兆円強)と見積もっているが、運輸省の委託を受けた民間専門家による最新の試算では、1,040億ポンド(15兆円強)に膨れ上がる恐れがある。試算したマイケル・ビン氏によれば、用地買収やコンサルティングの費用が現在の想定よりも大きくなる可能性がある。
 〈例2〉工事受注業者の一つ、カリリオンの経営難。7月初め、同社は業績見通しの下方修正と配当停止を発表するとともに、CEOが辞任し、株価は約3分の1となった。7月18日の発注先発表後、グレイリング運輸相は、カリリオンの施工能力については再点検済みであることや、同社の合弁パートナーであるキア(英国)とエファージュ(フランス)からも保証を得たことを説明するなど、火消しに追われた。
 〈例3〉政府のHS2事業を統括する公共法人HS2が祓っていた過大な退職金。国家監査室は、規定の3倍近い金額が支給されていた、と指摘している。同公共法人のコスト管理やガバナンスに対する批判が高まっている。

 (6)HS2は多額の税金を投じる大プロジェクトだけに、産業界のみならず一般国民からも強い関心が寄せられている。今後も懸念や批判が予想される中、プロジェクトを推進していくためには高い期待の維持がカギとなるだろう。

□高山真(三菱東京UFJ銀行経済調査室ロンドン駐在)「総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト/高まる期待と漂う懸念」(「週刊ダイヤモンド」2017年8月26日号)
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 【参考】
【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~
【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~
【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~
【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~
【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~




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