(1)10月25日、北京・人民大会堂。習近平・総書記が他の6人を引き連れて新たな政治局常務委員をお披露目した。李克強首相は続投、他の5人は政治局委員から昇格した。
序列3位の栗戦書はパープル、序列5位の王滬寧がブルーのネクタイを着けて登場した。他の5人のそれはレッドを基調としている。
5年前のお披露目会見では、中央規律委員会書記として“反腐敗闘争”を担当した序列6位の王岐山だけがブルーのネクタイを着けていた。
彼ら3人の共通点は習との距離の近さ、そして習にとっての重要さである。習第1次政権において、栗と王は内政・外遊を問わず、常に習に付いていた。気兼ねなく習と接し、互いに何でも言い合える関係。「自分たちは特別なのだ」。レッドではないネクタイの色がそう物語っている印象を与えた。
(2)今後、栗は国家安全、王はイデオロギーという、習が党の正統性を確保するために最重要視する分野を主に担当しつつ、常に習と行動を共にしていくに違いない。この人事から、習第2次政権も引き続き政治・経済・社会の各方面への統制が徹底される状況が続くであろう。
王に代わって中央規律委員会書記として反腐敗闘争を担当するのは趙楽際。習と同じ陝西省の出身で、第1次政権では中央組織部長として「習に近い人間を中央の要職に引き上げるという意味で習を大いに助けてきた」【党中央幹部】。今期常務委員の中では最年少(60歳)だが、習と歩調を合わせつつ同闘争を“安定的”に実施していくものと目されている。
(3)5年前の第18回党大会の時点ですでに常務委員入りが囁かれていた汪洋も、無事に常務委員入りを果たした。序列4位ということで、セオリー通りにいけば全国政治協商会議主席に就任する見込みだが、これまで国務院副総理として米中経済戦略対話を担当し、米国側からの信頼も厚い汪が、党の正統性という意味でもますます重みを増している対米関係で、どのような役割を担うのか注目される。
外交という意味では、楊潔篪(よう・けつち)元外相が国務委員から政治局委員に昇格した。職業外交官が序列25位内に入ったのは故銭其琛(きしん・せん)以来であり、習政権が政治的に対外関係を重視している、換言すれば、外交政策を政治の論理でトップダウン化しようとしている意思の表れだとみることができる。日本の対中外交としては、より習と近いポジションで動けるようになった楊と、対話のチャネルと信頼関係を築くべきであろう。
(4)経済政策は引き続き李が責任者として執行していくが、発言力は限られるだろう。今回の第19回大会で「習近平新時代における中国の特色ある社会主義思想」が行動指針として党規約に盛り込まれたことで、習が全ての分野で絶対的地位に在ることが制度化された。そんな習の分身である栗と王が経済政策を実質統括し、今回政治局委員に入った、習のマクロ経済ブレーンである劉鶴あたりが発言権を持っていくだろう。
供給側構造改革を推し進めるという意味でも、習への権力集中の制度化が吉と出るか、凶と出るか。
□加藤嘉一(国際コラムニスト)「新任常務委員お披露目/ネクタイの色が示す習総書記の権力基盤」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月11日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【米国】トランプ大統領が描く従来と違うレッドライン ~北朝鮮は世界の問題に~」
「【欧州】英航空・防衛大手企業が受注苦戦で大リストラ ~英国のEU離脱も影響か~」
「【アジア】度重なる不祥事で日本企業のイメージ失墜 ~アジア商戦にも逆風~」
「【中国】で日本の「どら焼き」や「カステラ」が売れない理由 ~風土で違う味覚~ 」
「【中国】ユニコーンが55社、加速する起業ブーム ~課題は人材確保~」
「【欧州】ドイツ議会選挙で極右政党が大躍進 ~危機感強める経済界~」
「【米国】サンオノフレ原発の核廃棄物移転を訴えた地域住民が“勝った”理由」
「【欧州】カタルーニャ独立は正しい選択なのか? ~住民投票で9割支持~」
「【米国】トランプ大統領のころころ変わる政策に振り回される不法移民」
「【中国】信用情報システム「芝麻信用」とは? ~個人の信用力を点数化~」
「【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~」
「【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~」
「【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~」
「【欧州】身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業 ~ISが戦術を転換~」
「【中国】住宅を入手しやすい「新一線都市」が人気 ~地方の生活水準が向上~」
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」
序列3位の栗戦書はパープル、序列5位の王滬寧がブルーのネクタイを着けて登場した。他の5人のそれはレッドを基調としている。
5年前のお披露目会見では、中央規律委員会書記として“反腐敗闘争”を担当した序列6位の王岐山だけがブルーのネクタイを着けていた。
彼ら3人の共通点は習との距離の近さ、そして習にとっての重要さである。習第1次政権において、栗と王は内政・外遊を問わず、常に習に付いていた。気兼ねなく習と接し、互いに何でも言い合える関係。「自分たちは特別なのだ」。レッドではないネクタイの色がそう物語っている印象を与えた。
(2)今後、栗は国家安全、王はイデオロギーという、習が党の正統性を確保するために最重要視する分野を主に担当しつつ、常に習と行動を共にしていくに違いない。この人事から、習第2次政権も引き続き政治・経済・社会の各方面への統制が徹底される状況が続くであろう。
王に代わって中央規律委員会書記として反腐敗闘争を担当するのは趙楽際。習と同じ陝西省の出身で、第1次政権では中央組織部長として「習に近い人間を中央の要職に引き上げるという意味で習を大いに助けてきた」【党中央幹部】。今期常務委員の中では最年少(60歳)だが、習と歩調を合わせつつ同闘争を“安定的”に実施していくものと目されている。
(3)5年前の第18回党大会の時点ですでに常務委員入りが囁かれていた汪洋も、無事に常務委員入りを果たした。序列4位ということで、セオリー通りにいけば全国政治協商会議主席に就任する見込みだが、これまで国務院副総理として米中経済戦略対話を担当し、米国側からの信頼も厚い汪が、党の正統性という意味でもますます重みを増している対米関係で、どのような役割を担うのか注目される。
外交という意味では、楊潔篪(よう・けつち)元外相が国務委員から政治局委員に昇格した。職業外交官が序列25位内に入ったのは故銭其琛(きしん・せん)以来であり、習政権が政治的に対外関係を重視している、換言すれば、外交政策を政治の論理でトップダウン化しようとしている意思の表れだとみることができる。日本の対中外交としては、より習と近いポジションで動けるようになった楊と、対話のチャネルと信頼関係を築くべきであろう。
(4)経済政策は引き続き李が責任者として執行していくが、発言力は限られるだろう。今回の第19回大会で「習近平新時代における中国の特色ある社会主義思想」が行動指針として党規約に盛り込まれたことで、習が全ての分野で絶対的地位に在ることが制度化された。そんな習の分身である栗と王が経済政策を実質統括し、今回政治局委員に入った、習のマクロ経済ブレーンである劉鶴あたりが発言権を持っていくだろう。
供給側構造改革を推し進めるという意味でも、習への権力集中の制度化が吉と出るか、凶と出るか。
□加藤嘉一(国際コラムニスト)「新任常務委員お披露目/ネクタイの色が示す習総書記の権力基盤」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月11日号)
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【参考】
「【米国】トランプ大統領が描く従来と違うレッドライン ~北朝鮮は世界の問題に~」
「【欧州】英航空・防衛大手企業が受注苦戦で大リストラ ~英国のEU離脱も影響か~」
「【アジア】度重なる不祥事で日本企業のイメージ失墜 ~アジア商戦にも逆風~」
「【中国】で日本の「どら焼き」や「カステラ」が売れない理由 ~風土で違う味覚~ 」
「【中国】ユニコーンが55社、加速する起業ブーム ~課題は人材確保~」
「【欧州】ドイツ議会選挙で極右政党が大躍進 ~危機感強める経済界~」
「【米国】サンオノフレ原発の核廃棄物移転を訴えた地域住民が“勝った”理由」
「【欧州】カタルーニャ独立は正しい選択なのか? ~住民投票で9割支持~」
「【米国】トランプ大統領のころころ変わる政策に振り回される不法移民」
「【中国】信用情報システム「芝麻信用」とは? ~個人の信用力を点数化~」
「【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~」
「【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~」
「【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~」
「【欧州】身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業 ~ISが戦術を転換~」
「【中国】住宅を入手しやすい「新一線都市」が人気 ~地方の生活水準が向上~」
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」