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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~

2017年09月24日 | 社会
【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~

 (1)ドイツ経済の屋台骨、自動車産業が揺れている。同国の自動車業界の誇りだったディーゼルエンジンの将来に影が差しているのだ。エネルギー転換の次は、モビリティー転換がやって来る。

 (2)バーデン・ヴュルテンベルク(BW)州のシュトゥットガルトは、ダイムラーやポルシェが本社を置く自動車産業の中心地。同市の行政裁判所が2017年7月28日に下した判決は、ドイツの政界・産業界に強い衝撃を与えた。
 この街では、窒素酸化物(NOx)の濃度が欧州連合(EU)の上限値を上回る違法状態が7年前から続いていた。シュトゥットガルト行政裁判所は、BW州政府に大気汚染緩和を求めていた環境保護団体の訴えを認め、「違法状態を終わらせるには、来年1月から、ディーゼル車の市内への乗り入れを禁止することが最も有効だ」という判決を下したのだ。裁判官は「市民の健康は、車の持ち主の財産権よりも重要だ」と断じた。

 (3)ドイツでは28の都市でNOx濃度がEUの基準を超えており、この環境保護団体は16の都市で訴訟を起こしている。行政裁判所の判決は確定していないが、国や自動車業界が有効な対策を打ち出せない場合、大都市からディーゼル車が締め出されるという、前代未聞の事態が起こる可能性がある。
 このため現在ドイツでは、消費者のディーゼル離れが急速に進んでいる。連邦自動車庁によると、今年8月に新しく認可されたディーゼル車の数は、前年同期に比べて13.8%も減った。逆にガソリン車は15%増加、プラグインハイブリッド車は213%も増えている。2016年12月に認可された車の45.9%はディーゼル車だったが、2017年8月にはその比率が37.7%に激減した。

 (4)連邦政府、州政府、自動車業界は、ディーゼル車締め出しを防ぐため、8月2日にベルリンで対策を協議。自動車メーカーは、ドイツで使われているディーゼル車530万台のソフトウエアを無償で更新し、NOxの排出量を25~30%減らすことなどを約束した。
 また政府と自動車業界は、普及が遅れている電気自動車(EV)の充電施設を整備するために、10億ユーロ(約1,300億円)規模の基金を創設する。

 (5)だが裁判所や環境省は、「ソフトウエアの更新だけでは、NOxを大幅に削減できない」としており、これらの措置によって来年1月からの乗り入れ禁止を回避できるかどうかは、未知数だ。一昨年に発覚したフォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題も収束しておらず、検察庁はダイムラーに対しても捜査を開始。さらに今年に入ってからは、VWやダイムラーが1990年代から技術的な細部について談合していたという疑惑も浮上し、EUが調査している。自動車業界への国民の信頼は深く傷ついた。
 ドイツの就業者の7人に1人は、直接もしくは間接的に自動車関連産業で働いており、この業界は政治家にとって重要な票田だ。メルケル首相は、2017年9月末に行われる連邦議会選挙を意識して「われわれはまだ何十年も内燃機関を搭載した車を使うだろう」と発言している。だがこの国では「内燃機関の時代は終わり、今後はEVの比率が急速に拡大する」という意見が有力だ。

□熊谷徹(ドイツ在住ジャーナリスト)「ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決/EV普及の契機となるか」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月23日号)
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