語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~

2017年10月07日 | 社会
 (1)国際金融筋のオフレコ懇談会がある。「国際」といっても、出席者のほとんどが米国人なので、会話の大半が米経済の話題に割かれる。
 だが、10月に入って開催されたこの会合では、「ミサイル発射と核実験を繰り返す北朝鮮と取引している銀行と個人をどう監視するのか?」「有事の際には、ドル供給などの緊急対策を用意しているのか?」といった質問が飛んだ。

 (2)米政府の外交政策に影響力を持つニューヨークのシンクタンク「外交問題評議会(CFR)」では、北朝鮮に関連した緊急会合が増えている。
 米メディアは、米国と北朝鮮の「開戦シナリオ」を日夜討論している。
 「対岸の火事」を決め込んでいたはずの北朝鮮問題に、米国民が慌て始めた。北朝鮮が「グアム島攻撃」を警告した上に、米国本土に到達する核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成が現実味を帯び始めたからだ。
 ミサイル発射と核実験のたびに株価が下落するなど、ウォール街の住人たちも意識し始めた。最近、「足元の世界情勢は1937年に似ている」という見方が流行している。
 1929年に起こり33年ごろまで続いた世界大恐慌ののち、米経済はケインジアン的な政策で持ち直したが、36年に見切り発車で金融政策を引き締め、37年には財政も圧縮した。
 すると、米経済は38年に前年比マイナス3.4%となり、株価は1年で半値になった。米国の不況は、世界に伝播した。

 (3)翻って足元では、米連邦準備制度理事会(FRB)が「出口政策」を遂行し、欧州中央銀行(ECB)なども追随しようとしている。
 こうした金融引き締めの動きが、かつての不況入りを連想させるのだ。
 実は、「37年と似ている」と膾炙(かいしゃ)された局面は、今回で3回目である。
 1回目:2011年。米政府の債務上限引き上げ問題が難航したことで、格付け会社が米国債の格下げを発表した。欧州危機で世界経済が混乱しているのに、米政府による財政削減が現実味を帯びた。
 2回目:2013年。当時のバーナンキFRB議長が「出口政策」の開始を示唆したため、長期金利が急上昇し、新興国からの資金逃避が起きた。
 3回目:今回。前の2回と比べて人気なのは、北朝鮮問題という地政学リスクが顕在化しているからだ。格差が拡大し、ポピュリズムが台頭している点でも、30年代に似ている。

 (4)「37年説」を吹聴する銀行家の間では、20世紀に活躍した経営学者、ピーター・ドラッカーが1939年に著した『経済人の終わり』が読まれているそうだ。
 この名著は、世界恐慌で格差が決定的になり、欧州大陸で「積極的な信条を持たず、専ら他の信条を攻撃し、排斥し、否定する」全体主義が台頭した仕組みを解析した。
 37年不況で世界経済が縮小すると、「自国が第一」とばかりに世界経済はブロック化した。ブロック経済が第2次世界大戦の遠因になったことは周知のとおり。
 北朝鮮問題をきっかけとした大国間の紛争シナリオが、米国民の恐怖心を煽るのだ。

□松浦肇(産経新聞ニューヨーク駐在編集委員)「北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ/1937年不況の再来?」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月14日号)
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