語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【欧州】カタルーニャ独立は正しい選択なのか? ~住民投票で9割支持~

2017年10月18日 | 社会
 (1)カタルーニャ自治州(州都バルセロナ)の独立を阻止するスペイン政府による実力行使は、世界を巻き込んだ金融危機を引き起こす可能性を秘めている。そうなれば、これはBrexitをはるかに上回る悪影響を世界経済に与えるだろう。
 10月1日に実施されたカタルーニャ州の独立を問う住民投票を阻止しようと、スペイン政府は警官隊を投票所に送り込み、多数の投票箱を撤収した。警官隊は抗議する州民に対しゴム弾を撃ち込み、800人以上が負傷した。実力行使だけではなく、独立に関わるサイトを閉鎖し、投票に関わる携帯電話アプリへのアクセスをブロックし、ネット上の情報規制も行った。さらにスペイン政府は有無を言わせず独立を阻止するため、地方政府の権限の凍結を行う憲法155条を適用する可能性が高い。
 実力行使や155条の適用は明らかに逆効果だ【注】。独立派、残留派の区別なく、80%のカタルーニャ州民が住民投票を望んでおり、今回の投票でも(投票率42%)、90%以上が独立に賛成したからだ。中央政府が強権的な態度に出れば出るほど、州民の感情は高ぶり、独立に中立・否定的だった州民でさえ、独立派に加わるだろう。

 (2)ただ、独立という選択には大きなリスクが伴う。独立派の大きな勘違いは、三つ。
  (a)カタルーニャがデンマークやフィンランド並みの経済規模のため、同じような経済発展ができると考えていることだ。カタルーニャはスペインの輸出の3割以上を担っているが、地中海に面する最大の港を保有しているため、スペインからの輸出の70%を取り扱う流通の重要拠点でもある。これはカタルーニャが欧州連合(EU)で4位の経済基盤を持つスペインの規模の経済のメリットをフルに受けていることを示している。この地域が潤っている大きな要因はスペインの一部であるからなのだ。
  (b)独立派によるもう一つの勘違いは、政府による資金の再配分に対する不満だ。確かに不公平な資金再配分は長年続いているものの、先月にスペイン財務省が出したデータを見ると、2014年にカタルーニャが供出した税金と中央政府から受け取った額の差は98億ユーロ(約1兆3,000億円)で、1人当たり1,317ユーロ(約17万円)の「支払い超過」だ。しかしこれは他地域と比べて突出して高いわけではない。
  (c)さらに、英国、フランス、ドイツの銀行によるスペイン向け融資は、EUの問題児とされるギリシャのそれと比べると桁違いに大きい。しかし、スペイン経済の20%を占めるカタルーニャが独立し、経済基盤が著しく不安定になるスペインに対しては信用コストが跳ね上がるだろう。その一方、カタルーニャが独立しても、離脱・立ち上げ費用、巨額の財政赤字、そして深刻な状況に陥っている大手銀行を抱える不確定要素満載の新生国に対して、金融機関は寛容な貸し付けを行わない。これはスペイン、カタルーニャ双方にとって崩壊へのシナリオだ。

 (3)政府側がすべきことは、これらの現実を州民に問うことであって、ゴム弾を撃ち込むことではない。力による住民投票阻止を行うことは、火に油を注ぐ行為だ。

 【注】「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~

□竹下誠二郎(静岡県立大学経営情報学部教授)「【from 欧州】 住民投票で9割支持 カタルーニャ独立は正しい選択なのか?」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月21日号)
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 【参考】
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【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~
【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~
【欧州】身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業 ~ISが戦術を転換~
【中国】住宅を入手しやすい「新一線都市」が人気 ~地方の生活水準が向上~
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【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~
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【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~
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