安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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●安全問題研究会が、JRグループ再国有化をめざし日本鉄道公団法案を決定!

●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

【書評】リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」

2014-04-29 23:28:24 | 書評・本の紹介
リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」(集英社新書)

昨年、JR東海の発表したリニア中央新幹線計画は、全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づく整備計画路線として認可され、いよいよ今年から着工へ向けた準備作業が始まることになる。リニア新幹線計画を止めるなら、事実上、これが最後のタイミングだ。本書はそうしたタイミングを捉えて出版されたリニア計画全面批判だ。

リニア中央新幹線計画に批判的な長野県飯田市議会議員から当ブログ管理人宛に「地元ではリニアに関し、全くものがいえない状態」というメールが送られてきたこともある。リニア計画に対する批判は、どうやらこの国にとって、3.11以前の原発同様「完全なタブー」のようだ。極端な言い方をすれば、3.11以前の原発と同様、リニアに批判的な人は村八分にされるか、頭がおかしいと思われる。そうしたファシズム的状況が社会を覆っている。大手メディアはもちろん、週刊誌にすらリニアに対する批判記事が載ることはない。それだけに、本書が出版されたことは大変貴重といえる。

本書を読めば、リニアが百害あって一利なしということが良く理解できる。現在の東海道新幹線の乗客の8割がリニアに転移したとしても、建設費を償還できるかどうかは微妙。国土交通省の審議会とJR東海が「お手盛り」で見積もった需要予測は、なんと「全列車全車両満席」が前提になっているというから、驚きを通り越して呆れてしまう。現在の東海道新幹線すら座席使用率は8割、しかもこれから人口減少社会が待っているというのに…。

全行程の8割がトンネル内で車窓もろくに楽しめず、電磁波の身体への影響を心配しながら乗車し、東海道新幹線なら新大阪まで乗り換えなしで行けるところをわざわざ名古屋で乗り換えなければならないリニアに、東海道新幹線の乗客の8割もが転移するなんてことがあるわけがない(どうしても転移させたいなら、東海道新幹線の東京~名古屋間を廃止するくらいの荒療治をやらなければならないだろう)。

本書では、さらに驚愕の事実が明らかにされる。JR東海社長みずから、定例記者会見で「(リニア中央新幹線は)絶対にペイしない」と発言したというのだ。だとすれば、この計画は、誰が何のために進めているのか。ここまで来ると全くわけがわからないが、思えばこうした「意味不明な金食い虫公共事業」は八ツ場ダムに典型的に見られるように、これまでもあちこちにあった。アベノミクスは明らかにこうした「昭和型公共事業」復活を目指しており、「新幹線はいらないけど新幹線工事は欲しい」「高速道路はいらないけど高速道路工事は欲しい」という人たちに向けた政治的ばらまきとして、この中央リニア新幹線計画もまた位置づけられていると考えるべきだろう(昨年末、2014年度予算の財務省原案が決定する直前の国土交通省1階ロビーで、公共事業を求める「背広に鉢巻き姿の業界関係者」が「エイエイオー」と拳を振り上げていた、という話まであるくらいだ)。

著者の橋山禮治郎氏は極めて冷静に、データを示して論証しながら、中央リニア計画を「失敗が決定づけられているプロジェクト」と断ずる。その上で、リニア方式をやめ、従来型新幹線方式で中央新幹線を建設してはどうか、と提案している。当ブログ管理人はその見解に全面的に同意する。奇しくも今年でちょうど開業から50年を迎えた東海道新幹線は老朽化が進む。民営化後は国鉄時代のような「リフレッシュ運休」も行っておらず、運行の安全面はかなり危機的な状況にある。酷使が続いている東海道新幹線の「代替路線」を確保する意味からも、また近い将来襲来が噂される南海トラフ地震によって太平洋沿岸の輸送が途絶する事態を避ける意味からも、中央新幹線で東京~大阪を結んでおくこと自体は有意義なことだと思うのだ。「ネットワークとしての既存の鉄道路線網を有効活用せよ。従来の鉄道網のどことも接続できないリニアは鉄道ネットワークを破壊する」という橋山氏の主張に、改めて鉄道関係者としての深い見識を見る思いがする。

本書の中で、橋山氏はさすがにここまでの指摘はしていないが、私は、青森から鹿児島中央までが新幹線で結ばれた今、そろそろ新幹線を貨物輸送にも活用したらどうかと思っている。新幹線を活用できれば、「その日の朝、大間で揚がったマグロを新鮮な状態のまま、昼に都内の料亭で食べる」などという、現在ではほとんど不可能なことが可能になる。過労運転で疲弊しきっているトラック業界の労働条件改善の一助にもなるだろう。

「新幹線で、軸重の大きな機関車牽引方式の列車の高速運転なんてできるのか」という疑問をお持ちの方もいるかもしれないが、すでに技術面では克服されている。東海道本線で1日1往復、運転されている貨物電車「スーパーレールカーゴ」JR貨物M250系電車を標準軌化し、交流25000V、50/60Hz共用に改造するだけですぐにも新幹線に投入できるだろう。電車方式で超高速貨物輸送を行う先例を世界で初めて作れれば、「貨物列車は機関車牽引方式が当然」という世界の鉄道界に衝撃を与えることができる。リニアなどよりそのほうがよほど私には価値のあることだと思うが…。

このように考えると、国鉄分割民営化から27年という時の流れを改めて強く感じる。新幹線を貨物輸送に使うことができれば、新幹線は旅客輸送、在来線は貨物輸送というJR発足時の前提条件も大きく変わる。現状の旅客6社+貨物という枠組み自体、意味を成さなくなり、この点からも限界に達したJR体制は再編が避けられないだろう。

いずれにせよ、本書は難しい技術論争の隘路に迷い込むのではなく、技術的知見を持たない一般市民にも理解できるよう、経済性(費用対効果)や環境問題の観点からリニア計画を論証している。本書を読めば、リニア計画の無謀さは余すところなく理解できるであろう。

2014年、JR体制との最大の攻防は北海道の安全問題とリニア建設問題である。いずれもJR体制の根幹に関わる問題だ。当ブログと安全問題研究会は、本書を「推薦図書」に指定するので、ぜひこの本を読んでほしいと思っている。

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