ゆるゆると続いているリサイクル文学集の読書。今度は大佛次郎(おさらぎじろう)集です。年輩の方には「鞍馬天狗」の作者として知られる人ですが、「詩人」「地霊」はロシア革命期のテロリストの活動を事実に即して描いた作品。
尊王の志士である鞍馬天狗とロシアの暴力革命家が、大佛さんの頭の中でどのように解釈されているかは興味のあるところですが、いずれにしても官憲のスパイにしてテロリストの首領であったアーゼフや、戦局の悪化に日本の敗北を嗅ぎ取って蠢きまわる「帰郷」の登場人物など、二面性のある人格を描く大佛さんの筆は冴えています。今となっては叶わぬことですが、こうした筆致で、例えばCIAのエージェントでありながら日本の最高権力者として戦後日本の舵取りをした奇怪な人物、岸信介を描いてくれればさぞ面白い小説や映画になったと思います。
諜報活動、つまりスパイ活動の究極は政治を操ることであり、非合法な情報収集や実力行使などよりも、資金提供による政権操作の方が本道です。戦後のアメリカ政府はCIAを通じて日本の政権中枢に資金を提供し、アメリカに都合のいい政策を実行させていたというのですからまさに「事実は小説より奇なり」です。経済界でも読売グループの正力松太郎がCIAの資金提供を受けていたとされ、アメリカ政府の意向に忠実な人物が日本の政治、経済の大物として活動していたことになります。
こっちは読み聞かせ用の「くまの子ウーフ」。"woof"は低い唸り声で、"woofer"と言えば低音用スピーカーのことですから、低い声で読むのがいいのでしょう。古い本なので内容は素朴ですが、ウーフの一家はきちんと食器で食事をするし、料理も洗濯もするし、井戸のポンプが壊れて困ったとか、ずいぶん近代的な生活をしています。「ミッフィー」の熊版と思えばいいと思いますが、ミッフィーに比べるとキャラクターが地味ですね。
と思ったら現代的にアニメ化されていて、今の子供が取っ付きやすいように工夫されているみたいです。