いかにもフランスらしいお洒落で頑丈なイメージが日本の道具好きに受けたものか、人気のあるル・クルーゼの鍋。極楽家も何年か前に買ってみたのですが、カレーやシチューの煮込み料理ばかりで、正直言って普通の鍋とどこが違うのかなあ、という印象を受けていました。圧力鍋みたいな圧倒的な早さや、逆にシャトルシェフみたいな省エネルギーと安全性というわかりやすいアピールがないので、極楽家では単に重くてカラフルな鍋として使われていたに過ぎません。
そこでこの本です。何しろ15分でつくるとありますので、簡単でいいじゃないですか。普通の見出しなら買わなかったと思います。レシピ通りではないですが、白菜と豚ばら肉の蒸しゆでを試してみました。ちょうど頂き物の白菜がたくさんあったのです。材料はほとんどこれだけ。庭にあったネギと、水を半カップ足したぐらいです。
中火にかけて、何もせずに待つと、10分後にはその「蒸しゆで」らしいものができていました。白菜と豚肉の水炊きはありふれた鍋料理ですが、その蒸しゆで版です。土鍋の水炊きと違うのは、手軽さと白菜の風味の濃厚さ。水炊きと違って、外から加える水が少量なので、味付けをしなくても素材のだしがたっぷり出ています。これはいい。ぽん酢醤油で水炊きと同じように食べてみましたが、明らかに水炊きより旨いです。こりゃ土鍋はお役御免だな。
密封性のある蓋で鍋を封じ込めて水分が逃げるのを制限して料理する、いわゆる無水料理はビタクラフトに代表される多層構造の鍋を支持する人たちが広めたものだと思いますが、ル・クルーゼやストウブなどの重たい鋳物鍋でも同じように鍋の底面と側面の広い範囲が均一に加熱される特徴があり、密封性のある重い蓋の効果もあって、同様の調理ができると言われています。
ガスやIHで加えた熱のかなりの部分は水を気化させることに使われています。せっかくの湯気や蒸気が逃げてしまうと熱効率が悪くなり、しかも乾きやすくなる、つまり焦げやすくなるため余計に水を加えないといけなくなります。この連鎖を断ち切って、効率のいい均一な加熱と、風味や栄養分が水に逃げないようにするのがこの無水料理でしょう。実際には少量の水を加えるので、著者は無水料理という言葉を嫌って「蒸しゆで」と記載していると思われます。
この蒸しゆでを試してみれば、薄いアルミ鍋とル・クルーゼの違いは歴然としています。煮物のイメージが強いル・クルーゼですが、この本でまず短時間料理を強調されたのは実に適切であり、ル・クルーゼで料理してみようという初心者には絶好の入門書だと思います。最初がうまくいけば、他の料理だって作ってみたくなりますからね。
ル・クルーゼで料理(1) 15分でつくる編 (天然生活ブックス) | |
平野 由希子 | |
地球丸 |