いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

溶けないヒマラヤの氷河(IPCCの不都合な真実再び)

2010年01月21日 | たまには意見表明
 イギリスの新聞系サイト、TIMESONLINEによれば、2007年のノーベル平和賞を受賞した「気候変動に関する政府間パネル」(Intergovernmental Panel on Climate Change、IPCC)の第四次評価報告書において、地球温暖化の例のひとつとして挙げられたヒマラヤの急速な氷河消失が、実は極めていい加減な経緯で報告されたものであり、このため全世界が誤った判断に誘導された、とあります。

 IPCCの報告書はこうです。"Glaciers in the Himalaya are receding faster than in any other part of the world and, if the present rate continues, the likelihood of them disappearing by the year 2035 and perhaps sooner is very high if the Earth keeps warming at the current rate."つまり「ヒマラヤの氷河は他の地域に比べて速やかに減少しており、地球温暖化が継続し、氷河の減少する勢いが続くなら2035年あるいはそれ以前に氷河が消失する可能性が非常に高い。」

 IPCCは気象学者などによる専門家の団体と見做されているようですが、学者はある仮説の是非を判断するについて、自分で実験や調査、解析を行ったり、他の学者による論文を参考にしたりします。あらゆる学術論文は他の論文を下敷きにして、より先の真実を解明するのが目的ですから、関連分野の論文にはきちんと目を通してその正否を判断し、そのため必要なら追加調査も行います。その結果、自分の論文に引用する先行論文を支持する場合も否定する場合もあるわけです。

 新たな論文も好き勝手に出していいわけではなく、投稿誌により査読(つまり審査)されます。ほとんど査読のないローカル誌もないことはありませんが、そんな健康食品の広告みたいないい加減なもの、誰もまじめに読まないでしょう?世界的に名の通った投稿誌(最近はネット上のサイトも多い)ほど査読は厳しいのが当然です。厳しい査読に堪えて採用された論文は信用度が高く、世界中の学者から喜んで引用されるようになります。一流誌にどれだけ論文を掲載したか、が学者の実績になるのですから。

 ところがこのヒマラヤ氷河の消失をIPCCが報告するにあたって、直接の研究も調査もしていないインド人学者が、専門家向きではなく一般読者向きに、憶測をかなり交えて語ったインタビューから起こした記事を、検証もせずに第一級の資料として採用してしまったらしいのですね。著者のHasnain自身も、「査読や学術誌への掲載を経た論文ではないことをわかった上で扱って欲しい。」と認めているそうです。これ、私も医学者の端くれですから、仰天するほど驚きました。何ていい加減な!

 一体、学者が学術報告をするときに、一般向けの雑誌、つまり他の学者による査読を受けていない記事を参考にするって、考えられますか?しかもIPCCは世界中の政府に働きかけて、その長期的な政策を誘導することで人類の生存に貢献しようという団体です。報告書にはこの上ない厳密さが求められるのに、ですよ。TIMESONLINEが取材した氷河の研究者によれば、Hasnainの(証拠のない)見込みはやはり荒唐無稽であるようです。

 この件に関するIPCCの姿勢は不誠実極まりないと言うしかなく、去年の暮れに問題になったデータ操作事件、「クライメートゲート事件」と併せて考えますと、もはや報告書全体の信頼度について疑問を持たざるを得ない段階まで来ていると考えます。現議長ラジェンドラ・パチャウリの特定企業との癒着の疑いも持たれており、ひょっとすると「地球温暖化」そのものが巨大な詐欺であったという可能性まで考えなければなりません。

 このような状況では、IPCCの報告を重視して一方的に炭酸ガスの大幅排出削減を宣言し、日本から製造業の実質的な追い出しを決めてしまった鳩山内閣の政策は極めて稚拙であり、排出権取引で(パチャウリの関与する)ドイツ銀行を大喜びさせるために国民に長期の経済後退を押し付けるという歴史的な愚策です。

 一山当ててやろう、日本政府がカネを出すぞ!みたいな連中と、そいつらが召抱える政治家、学者が地球温暖化問題を雪ダルマみたいに大きくして、実態がどうなのかわかりにくくしてしまったのは明らかで、この辺で政府も個人も冷静になった方がいいと思います。地球温暖化問題を過大評価することで、より対応が必要なはずの貧困や紛争、経済危機などに手が回らなくなることは、日本にとっても世界にとっても大きな損失となるはずだからです。
コメント (2)
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