いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

「おすもうさん」の悲劇

2007年07月12日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 元力士という経歴を生かして絵本や漫画を描く琴剣さんの代表作「おすもうさん」。将来を夢見て稽古に励む若い力士たちの日常が生き生きと描かれています。楽しい作品なのですが、ちょっと現状肯定が過ぎるかな、とも思います。大相撲のみならず日本の相撲はいくつも問題を抱えているからです。

 その問題の1つが顕在化してしまったのが、6月26日に時津風部屋の宿舎(犬山市)で起きた死亡事故です。稽古のダメージによる外傷性ショック、と言うと偶発的な事故のように聞こえますが、どうもその後の捜査では、昔から相撲部屋の陋習として知られる「しごき」によるものだったようです。

 「無理偏にゲンコツと書いて兄弟子と読む」と言われるように、兄弟子が寄ってたかって新弟子をしごく、いびるのは相撲部屋では当然のこととされてきたらしく、今でも残る「付け人」などの制度を見れば、相撲協会がこのような絶対的な上下関係を追認しているのがわかります。17歳の少年力士はこのような前時代的な慣習に押し潰されたとも言えるのです。

 相撲部屋はプロの力士を養成する機関ではありますが、昔から懐の深いところがあって、「あまり相撲向きじゃないけど」という少年を少なからず受け入れて来ました。関取になれるのはほんの一部、という厳しい世界である反面、行き先のない少年に寝食を与えて一人前に育て上げ、社会に送り出すという側面もあったのです。死亡した時太山(ときたいざん)はこの春に入門したばかりで、力士あるいはスポーツ選手としての実績はほとんどありませんでした。生活面で両親が不安を持っており、相撲部屋での躾を期待して入門させたようです。

 続報によれば、時津風部屋としては入門の事情を十分に汲んでおり、行き過ぎた稽古はしていない、としていますが、一方では遺族が遺体のあまりの惨状に目を覆ったとも言われています。時太山は何回か部屋から脱走しており、喫煙が止められないなど素行の悪さもあって、厳しくしてやろうと思われたのかも知れませんが、素人に毛の生えたような少年には過酷でした。

 この事件の影響もあったのか、名古屋場所の新弟子はついに1人もいませんでした。志望者が極端に少なく、単に体が大きいだけの少年を入門させなければならない現状を見ると、今回のような悲劇が繰り返される危惧は多分にあります。相撲部屋による力士の養成や社会との関わりについて、見直すべき時期が来ているのかも知れません。

 例えば、入門から一定期間は所属部屋によらず相撲協会がまとめて養成するとか、一部に学校方式を導入してフルタイムの拘束を止めるとか、時代に合わせた方法は考えられるのではないでしょうか。「親方と言えば実の親も同然」と過剰な責任感を背負っていては、今回のような「やり過ぎ」と縁を切れないように思います。
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