アブソリュート・エゴ・レビュー

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華麗なる一族(映画)

2011-07-11 19:31:37 | 映画
『華麗なる一族』 山本薩夫監督   ☆☆☆☆

 DVDで再見。

 いやー、濃い。とにかく濃い。脂ぎっている。華麗なる一族、正しくはどろどろの一族である。とにかく社会的地位と権力がすべてである世界における野望、欲望、騙し、裏切り、猜疑、おためごかし、卑屈、虚栄のすべてが、3時間半という長尺の中にげっぷが出るほど詰め込まれている。そしてつーんとくるほどの昭和の香り。間違いなく面白い。傑作です。

 『白い巨塔』と同じ原作者、監督で、まあ同じ類の映画と思ってもらっていい。今回の題材は銀行だ。要するに銀行が多過ぎて吸収合併が避けられない状況の中、預金高でいうと第10位でしかない阪神銀行が生き延びるために自分より上位の銀行を吸収合併する、つまり「小が大を喰う」合併を成し遂げてでかい銀行になろうとする話である。主人公は阪神銀行のオーナー頭取、万俵大介。演じるは佐分利信。「偉さにかけては日本一」佐分利信が、貫禄たっぷりに演じる。しかもこの万俵大介、仕事上の野心で腹黒いだけでなく、正妻と愛人を同居させ毎晩代わりばんこに抱いているという異常な人物である。たまに3Pをやったりもする。「ふっふっふっ、三人は久しぶりじゃないか」などと佐分利信がのたまうのである。すご過ぎる。

 そしてこの佐分利信をはじめ、狸オヤジ役者総出演といっても過言ではない豪華キャスト。小沢栄太郎、西村晃、加藤嘉、平田昭彦、大滝秀治、志村喬、稲葉義男、神山繁、滝沢修、その他もろもろ。こういう人たちがいかにもな演技を繰り広げるわけだが、個人的には大蔵大臣の小沢栄太郎、それから銀行の叩き上げ組・西村晃に特に注目したい。究極の狸オヤジである小沢栄太郎は話し方から表情にいたるまですべてがみどころ、西村晃はガツガツめし喰ったり楊枝でシーシー歯をせせったりする品の悪さが最高。そしてオヤジじゃないが、もちろん田宮次郎も登場。この手の映画には欠かせません。大蔵省の役人で、万俵大介の長女の婿、つまり義理の息子で、大蔵省内部で暗躍して情報を集めたり大臣と会合をセッティングしたりする役どころだが、エリート官僚のいやらしさと腹黒さ満点で、こういう役をやらせるとこの人の右に出る者はいない。『白い巨塔』でもそうだったが、野心と策謀にぎらつく目が絶品である。

 そしてこの映画の中では分が悪い善玉組が、万俵大介の長男・鉄平(仲代達矢)、鉄平を支援する大同銀行頭取の三雲(二谷英明)など。私は観ていないが、テレビ版でキムタクがやっていたのがこの鉄平だ。仲代達矢は好演だが、癖のない熱血漢の役なので実力を出し切れていない印象。それより二谷英明の三雲頭取の高潔さと、終盤の静かな苦悩の方が印象的だった。女優陣も充実していて、なんといっても万俵大介の愛人の京マチ子ががんばっている。それから正妻の月丘夢路が一人、部屋で鼓を打っている姿はコワい。上流階級にはああいう趣味もあるのか。

 まあそれにしても、どうせ限りある短い人生、こんなに権力と野望に執着して生きるのもストレスばかりで辛いと私などは思ってしまうが、やはりこういう人たちはこういうのが好きなのだろうな。そうでなければやっていけない。一応ストーリーのモデルとなったのは太陽神戸銀行の合併だそうだが、世の中にはこれに近い人生を送っている人たちも実際にいるんだろう。ご苦労さんと言う他はないが、しかし一番かわいそうなのは、そういう野心家たちの駒に使われてしまう下っ端の人間である。この映画の中でも預金獲得競争に精魂使い果たし、「頭取、5億円達成しました」などとうわごとを言いながらぽっくりいってしまう支店長さんのエピソードがあったが、あれこそ犬死である。はたから見るとばかばかしさのきわみ。会社への忠誠もほどほどにしておいた方がいい。

 ところで万俵家の次女役で酒井和歌子が出ているが、すごく可愛い。なんか妙なアクセントで喋ってるなと思ったらあれは関西弁だったんだな。


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