アブソリュート・エゴ・レビュー

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閉店時間

2018-12-03 23:03:23 | 映画
『閉店時間』 井上梅次監督   ☆☆☆

 若尾文子の主演映画DVDをまたひとつAmazonで入手した。1962年公開作品。共演は例によって川口浩、野添ひとみなどで、まあ『あなたと私の合言葉 さようなら、今日は』『女経』『婚期』などと同じような感じではあるが、本作では三人娘の一人を演じる江波杏子が面白いアクセントになっている。

 まったく予備知識なしに観たものだから、タイトルバックに「原作・有吉佐和子」と出た時は「ほう、有吉佐和子が原作か」とちょっと期待したが、結果的にはごく他愛のない恋愛ものだった。監督の井上梅次はよく知らなかったが石原裕次郎の『嵐を呼ぶ男』を監督した人で、テレビドラマも多数手がけ、「早撮り」「職人監督」と評される人だったようだ。ジャニーズのアイドル映画なんかも撮っている。Wikipediaによれば、この人はテレビの「江戸川乱歩の美女シリーズ」について「大事なことは(視聴者にチャンネルを変えさせないよう)9時55分に女の裸を出すことです」と述べたという。まあ、そんなタイプの監督さんだ。

 この映画もストーリーはまあまあ悪くないと思うが、演出や見せ方の時代遅れ感がパンパない。すっかり古びてしまっている。おそらく当時はこれが普通だったのだろうが、定石、つまり紋切り型ばかり寄せ集めたせいで時代の変遷についていけず、すっかり賞味期限が切れてしまった感じだ。OLが夜の街に繰り出す場面ではネオンサインで華やかさを演出し、野添ひとみがウィンクして勘違い野郎どもに追いかけられ、「恋はすてき~」みたいなベタベタな歌謡曲が何度も流れる。どんくさいことこの上ない。特にギャグの古び方がキビしい。役者の顔ぶれが同じでも映画のクオリティの違いは明らかで、小津や成瀬がいかに偉大だったかがよく分かる。

 それからこれは演出というより社会の慣習の違いだろうが、会社で男性社員が同僚の女性社員の顔や首にすぐ触ったり、堂々と「女のくせに」と言い放ったりと、描かれている風俗も今の目ではちょっと見れないものが多い。

 さて、そんな風に演出や作劇はどんくさいが、ストーリーそのものは永遠の定番みたいなもので、要するに三人の女性がデパートという職場の中でそれぞれ違う形の恋愛を経験する、というものだ。三人の女性は若尾文子、野添ひとみ、江波杏子で、それぞれ呉服売場、お惣菜売場、エレベーターガールと部門が違う。

 ヒロインの若尾文子は仕事に情熱を燃やすキャリアウーマン型の勝気な女性で、余暇に朗読の仕事もしているが、自分のインストラクターである年上の声優を秘かに慕っている。が、声優は既婚者、かつ人徳者なので不倫の恋に発展するなどということもない。そんな彼女の職場に仕事はできるが若くて生意気な新人(川口浩)が配属され、「女のくせに」を連発するので、彼女はこの男と何かにつけ衝突するようになる。

 二人目の野添ひとみは庶民的なタイプで、多忙なお惣菜売場でイヤな上司に耐えて働きながらすてきな恋に憧れている。休日のドライブをきっかけに出入り業者のマジメな青年(竹村洋介)とイイ感じになるが、ある時青年は彼女の上司の激しいイビリに立ち向かったために、デパートに出入り禁止になってしまう。

 三人目、エレベーターガールの江波杏子は人生楽しまなきゃ損、という享楽派で、いつも美しく着飾り、何人ものボーイフレンドをとっかえひっかえして遊んでいる。ある時宣伝部のイケメン社員(川崎敬三)に口説かれてデートするうちに本気になり、結婚を夢見るようになるが、彼は実は既婚者のプレイボーイだった。

 とまあ、こんな具合に三人それぞれの恋の顛末が描かれる。若尾文子と川口浩はケンカ相手をやがて好きになるというお約束パターンだが、年上の声優とのエピソードが大人っぽい雰囲気を醸し出す。声優と、その足の悪い妻の家庭に若尾文子が招かれる場面はなかなか良い。野添ひとみとマジメな出入り業者の青年との恋は一番経過が丁寧に描写されていて、途中彼が出入り禁止になり、また再会して告白シーンにつながるなど、堂々たる王道パターンである。彼女の話が本作の芯になっていると言ってもいいだろう。

 そして江波杏子が一番変化球で、享楽的な派手な女がプレイボーイに遊ばれ、裏切られるという苦い話になっている。プレイボーイ役の川崎敬三がなかなかいい。誠実さのカケラもない男を軽やかに演じている。柴門ふみのマンガに出てくるプレイボーイ会社員を彷彿とさせる。

 このように三人の物語が並行して進むのでテンポが良く、話は飽きさせない。演出のどんくささや時代遅れ感を差し引いても、まあまあ楽しめた。しっかりしたキャリアウーマンの若尾文子より、キリギリスのように破滅に引き寄せられていく江波杏子の方が印象に残る。


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