アブソリュート・エゴ・レビュー

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古畑任三郎ファイナル第1夜 - 今、甦る死

2006-01-15 17:52:33 | テレビ番組
『古畑任三郎ファイナル第1夜 - 今、甦る死』 三谷幸喜脚本   ☆☆☆☆★

 古畑任三郎は大好きな番組なので、正月にまたスペシャルをやると聞いてとても楽しみだった。とはいえ米国在住の身、放映時に観ることはできない。日本のレンタルビデオ屋に入荷するのを待って、ようやく観ることができた。

 今回のゲストは石坂浩二と藤原竜也。ゲスト二人というのはどういう役割分担になっているのかと興味津々だった。なんとなく予想していたのはコロンボの『愛情の計算』のパターンだったが、実際はその予想を見事に裏切ってくれて、もっとはるかに巧妙だった。これは古畑シリーズ全体の中でも相当な傑作である。

 石坂浩二ゲストということで、『金田一耕介』シリーズをかなり意識した作りになっている。さびれた村が舞台だし、不気味なわらべ歌まで登場する。相変わらず三谷脚本はサービス精神満点である。ギャグも冴えていた。去年のスペシャルでは登場しなかった今泉、西園寺が登場するのが嬉しいが、今泉はやっぱり面白いなあ。ナッツを食べて歯が折れるシーンで爆笑。

 そしてなんといってもプロットが巧妙だった。色々なミステリ作品のおいしいところを取り入れてうまいこと組み合わせている。この下ネタばれあり。

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 これほど巧妙な殺人を知らない、とイントロで古畑が宣言したわりにはそれほどでもないなあ、と思いながら途中までは観ていた。確かにトリックは凝っている。角砂糖と水を使ったタイマー、アリバイ作り、そして雪に囲まれた密室と盛りだくさんである。しかし現場に倒れたバケツがあり、床が濡れているし、竹馬の跡が庭に残っているのが見つかる。そのうち事件のトリックはすべて解明され、あとはどう立証されるかだけだ、となったところでびっくり。犯人の音弥が死んでしまうのである。しかも、自分で偽装工作に失敗して死んでしまう。

 私が鈍いだけかも知れないが、この時点でもまだ石坂浩二の本当の役割に気づかなかった。あれれ、これどうなるの? と戸惑っただけである。ようやく気づいたのはバーで古畑がひらめくシーンである。そういえば自由研究のノートから自分が狙われる偽装工作まで、音弥の犯行はすべて天馬によって示唆されていたことに気づき、うなってしまった。

 ここで連想したのはアガサ・クリスティーの『カーテン』である。巧みに他人を操ることで殺人を行う究極の殺人者、今回の天馬恭介の殺人方法はこれと同じだ。さらに音弥がノートに書かれたシナリオに忠実に犯行を行うところは、ちょっと『Yの悲劇』を思わせる。まあ、今回のシナリオは昔の自分が書いたわけだが。しかし謎解きはしたものの、古畑もこれを「完全犯罪」と認める。私は最後まで、どうやって天馬を逮捕するのか分からなかった。そして最後の最後、15年前の記念碑の話になる。ここで連想したのは刑事コロンボの『偶像のレクイエム』。過去の犯罪、泉の下に隠された死体が決め手になる奴だ。ここでようやく、「今、甦る死」の意味が分かる。また、その凶器が展示されていた品だったというところはどう考えても『ホリスター将軍のコレクション』である。犯人にとって貴重なものであるために、処分するべきなのにできなかったことが決め手になる。ここいらへんはコロンボ・ファンの三谷幸喜のこと、絶対に意識してやっている。

 というわけで、完全犯罪を行った天馬は意外なところから逮捕されてしまう。しかし最後の最後まで先が読めない展開だったし、種明かしをされてみればすべてにちゃんと伏線がひいてある。お見事、としかいいようがない。

 唯一つ不満だったのは、雪の密室のトリックである。竹馬で歩いて行ったというだけじゃ雪の上に点々と跡が残ったはずだ。おそらく草むらとか石の影とか目立たないところを歩いていったということなんだろうが、ちゃんと立証されていないし、そもそも完全な雪の密室じゃなかったことになる。竹馬ともう一つ何かあるはずと思っていたので拍子抜けだった。

 しかし今回は三谷幸喜も相当気合いが入っているようだ。やはりファイナルだからだろうか。残りの二話を観るのが楽しみである。


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