『プリズナーズ』を渋谷シネパレスで見ました。
(1)本作(注1)の評判が随分と高そうなので、遅ればせながらも映画館に足を伸ばしました。
ペンシルヴェニア州に住むケラー(ヒュー・ジャックマン)の一家は、近所のフランクリン(テレンス・ハワード)の一家と親密な付き合いをしていたところ、感謝祭の日の午後、ケラーの娘アナとフランクリンの娘ジョイとが突然姿を消してしまいます。
驚いた両家は必死に二人を探すものの、全然見つかりません。
地元警察ではロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)が担当することになりますが、事態は進展しません。
そんななか、アレックス(ポール・ダノ)が不審者として捕まります。ですが、何の証言も得られないままに保釈されてしまいます。
その後、一方で、ロキ刑事は、違う線から犯人を割り出して二人の少女を救出しようとします。他方で、ケラーは、アレックスが犯人に違いないと強く思い込み(注2)、なんとか自分で自白させようと彼を密かに監禁してしまうのです。
さあ、二人の少女は無事に助かるのでしょうか、犯人は誰なのでしょうか、………?
ケラーが娘を思う気持ちは痛いほど観客に伝わってきますし、ロキ刑事の犯人探しも綿密であり、さらには両者のぶつかり合いを演じる俳優の熱演もあって(注3)、まずまずの出来栄えの作品となっています。
(2)この作品はサスペンスですから、他にもましてネタバレするわけにはいかないとはいえ、以下では、ネタバレには少々目をつぶっていただくこととして、つまらないことでも書くことといたしましょう。
イ)本作は、ケラーの息子が鹿を銃で撃つ冒頭のシーンで祈りの言葉が唱えられたり、ロキ刑事の指にはフリーメーソンの指輪(直角定規とコンパスが描かれています:注4)が嵌められていたり、重要参考人として捕まった男ボブが「迷路」(注5)に拘ったりするなど、さまざまに宗教的な意匠が凝らされています。
それで、そういった角度から本作を云々するのはとても興味深いこととはいえ、そちらの方面の知識に乏しいクマネズミとしては、手を出さないほうが無難でしょう。
それに、本作は、それらを度外視してもなかなか面白く作られているように思いますし。
ロ)本作でまず目を引くのは、何度も祈りの言葉を唱えながらも、ケラーが、捕まえたアレックスを狭い場所に監禁した上で(注6)、娘の居場所を自白するよう繰り返し酷い拷問を加えることではないでしょうか(果ては、上から熱湯を浴びせることまでするのです)。
このシーンを見て、このところこうした場面を映画等で見ることが多いな、それも、水を使っているものが多いような、と思いました。
例えば、『レイルウェイ』では、先の戦争中、タイの捕虜収容所でラジオを作った主人公ローマクスに対して日本の憲兵隊が激しい拷問を加えます。
また、『デンジャラス・ラン』などが挙げられるでしょう(注7)。
さらには、現在放映中のTVドラマ『MOZU』の第6話(5月15日放映)では、捕まえた新谷(池松壮亮)に対して、警備会社アテナセキュリティの中神(吉田鋼太郎)たちが激しい拷問を加えます。
これらの背景に、CIAがテロリストに対して行ったウォーターボーディングが注目されていることがあるように思われますが(注8)、こうした場面を映像で詳細に描く必要性がどこまであるのか考えてみる必要があるのかもしれません。
ハ)さて、それだけ責め続けてもアレックスから何の証言も得られなかったケラーは、ある時事件の目星が着いたとして一軒の家に出向くのですが、逆にそこの住人によって「穴」の中に閉じ込められてしまいます。まさに、ケラー自身がプリズナー(囚われ人)になってしまったわけです。
こんなところから、本作では、タイトルにある「プリズナー」という言葉が様々な意味を持っているように思われてきます。
むろん、ケラーによって狭いところに監禁されたアレックスもそうでしょう。
さらに飛躍すれば、アレックスが犯人に違いないという思い込みに囚われてしまった点でもケラーはプリズナーといえるでしょうし、他の登場人物も何にせよプリズナーなのかもしれません。
また、上で挙げた『レイルウェイ』の主人公ローマクスにしても、捕虜収容所ではプリズナーそのものでしたし、帰国した後も長い間、拷問のトラウマに囚われたままだったのですからプリズナーだったでしょう。
ニ)ケラーが閉じ込められた「穴」ですが、本作においてそれに類似するものとしては、他に、アレックスが閉じ込められている狭い空間も挙げられるでしょう(注9)。
さらに、本作の「穴」にソックリなものとして思い当たるのは、『ザ・コール 緊急通報指令室』において、少女ケイシー(アビゲイル・ブレスリン)が閉じ込められた地下室です。そちらの方は、本作の「穴」に比べるとずっと広いとはいえ、その場所を見つけ出すことができないように本作の「穴」と同様に巧みにカモフラージュ―されているのです(注10)。
本作のキャッチコピーにあるような「もしも最愛の我が子を奪われたら、あなたはどうするのか」といった厳しすぎる問いかけは脇に置いておいて、こんなアレヤコレヤを考えながら本作を見るのも、また一興ではないでしょうか?
(3)渡まち子氏は、「何よりもドゥニ・ヴィルヌーヴという俊英監督の重厚な演出力とストーリーテリングの才能に、映画から一瞬も目が離せなかった」として80点をつけています。
前田有一氏も、「非常に満足度の高い映画であり、とくに子を持つ親におすすめしたい。きっと没頭してみることができるはずだ」として80点をつけています。
相木悟氏は、「後に尾をひく、観応えある重量級の犯罪ドラマであった」と述べています。
(注1)監督は、『灼熱の魂』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
(注2)アレックスが、ケラーにだけ「僕がいる間は、泣かなかった」と言い、また娘が歌っていた替え歌を口ずさんでいましたから。
(注3)ヒュー・ジャックマンは『オーストラリア』、ジェイク・ギレンホールは『マイ・ブラザー』で見ています。
その他の俳優陣の中では、ポール・ダノは『それでも夜は明ける』、メリッサ・レオは『ザ・ファイター』、ヴィオラ・デイヴィスは『ヘルプ』で、それぞれ見ました。
(注4)このサイトの記事によれば、定規は「実直に、堅実で、公平であれ」、コンパスは「欲求・欲望をコンパスで描く円内に抑え・留めておけ」という指針を表しているようです。
(注5)ボブが描いた「迷路」の絵を見て、ロキ刑事は、神父の家の地下室で見たことがあるなと思い出し、さらにはある人物の胸に飾られているペンダントにも同じ絵が書かれていたことを見出します。
(注6)自殺した父親(刑務所の看守でした)が所有していた家。ケラーは別の場所に家を構え、この家は荒れ放題になっていました。そこの一室にアレックスを監禁したのです。
(注7)拷問ということであれば、『サンブンノイチ』や『それでも夜は明ける』でも拷問シーンが見られました。
なお、本作を制作したドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による『灼熱の魂』では、政治テロを行った主人公ナウルは、捕らわれて15年間刑務所にいますが、その間拷問(レイプ)を受けます。
(注8)例えば、『ゼロ・ダーク・サーティ』(この作品は見ましたが、レビューはアップしませんでした)。同作については、このサイトの記事がここでは参考になるでしょう。
(注9)さらには、上記「注5」で触れた神父の家の地下室も「穴」といえるでしょう。
(注10)『ザ・コール』の主人公・ジョーダン(ハル・ベリー)がある音をヒントに地下室を発見したのと同じように、本作でも、ロキ刑事が最後にある音を耳にします!
★★★☆☆☆
象のロケット:プリズナーズ
(1)本作(注1)の評判が随分と高そうなので、遅ればせながらも映画館に足を伸ばしました。
ペンシルヴェニア州に住むケラー(ヒュー・ジャックマン)の一家は、近所のフランクリン(テレンス・ハワード)の一家と親密な付き合いをしていたところ、感謝祭の日の午後、ケラーの娘アナとフランクリンの娘ジョイとが突然姿を消してしまいます。
驚いた両家は必死に二人を探すものの、全然見つかりません。
地元警察ではロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)が担当することになりますが、事態は進展しません。
そんななか、アレックス(ポール・ダノ)が不審者として捕まります。ですが、何の証言も得られないままに保釈されてしまいます。
その後、一方で、ロキ刑事は、違う線から犯人を割り出して二人の少女を救出しようとします。他方で、ケラーは、アレックスが犯人に違いないと強く思い込み(注2)、なんとか自分で自白させようと彼を密かに監禁してしまうのです。
さあ、二人の少女は無事に助かるのでしょうか、犯人は誰なのでしょうか、………?
ケラーが娘を思う気持ちは痛いほど観客に伝わってきますし、ロキ刑事の犯人探しも綿密であり、さらには両者のぶつかり合いを演じる俳優の熱演もあって(注3)、まずまずの出来栄えの作品となっています。
(2)この作品はサスペンスですから、他にもましてネタバレするわけにはいかないとはいえ、以下では、ネタバレには少々目をつぶっていただくこととして、つまらないことでも書くことといたしましょう。
イ)本作は、ケラーの息子が鹿を銃で撃つ冒頭のシーンで祈りの言葉が唱えられたり、ロキ刑事の指にはフリーメーソンの指輪(直角定規とコンパスが描かれています:注4)が嵌められていたり、重要参考人として捕まった男ボブが「迷路」(注5)に拘ったりするなど、さまざまに宗教的な意匠が凝らされています。
それで、そういった角度から本作を云々するのはとても興味深いこととはいえ、そちらの方面の知識に乏しいクマネズミとしては、手を出さないほうが無難でしょう。
それに、本作は、それらを度外視してもなかなか面白く作られているように思いますし。
ロ)本作でまず目を引くのは、何度も祈りの言葉を唱えながらも、ケラーが、捕まえたアレックスを狭い場所に監禁した上で(注6)、娘の居場所を自白するよう繰り返し酷い拷問を加えることではないでしょうか(果ては、上から熱湯を浴びせることまでするのです)。
このシーンを見て、このところこうした場面を映画等で見ることが多いな、それも、水を使っているものが多いような、と思いました。
例えば、『レイルウェイ』では、先の戦争中、タイの捕虜収容所でラジオを作った主人公ローマクスに対して日本の憲兵隊が激しい拷問を加えます。
また、『デンジャラス・ラン』などが挙げられるでしょう(注7)。
さらには、現在放映中のTVドラマ『MOZU』の第6話(5月15日放映)では、捕まえた新谷(池松壮亮)に対して、警備会社アテナセキュリティの中神(吉田鋼太郎)たちが激しい拷問を加えます。
これらの背景に、CIAがテロリストに対して行ったウォーターボーディングが注目されていることがあるように思われますが(注8)、こうした場面を映像で詳細に描く必要性がどこまであるのか考えてみる必要があるのかもしれません。
ハ)さて、それだけ責め続けてもアレックスから何の証言も得られなかったケラーは、ある時事件の目星が着いたとして一軒の家に出向くのですが、逆にそこの住人によって「穴」の中に閉じ込められてしまいます。まさに、ケラー自身がプリズナー(囚われ人)になってしまったわけです。
こんなところから、本作では、タイトルにある「プリズナー」という言葉が様々な意味を持っているように思われてきます。
むろん、ケラーによって狭いところに監禁されたアレックスもそうでしょう。
さらに飛躍すれば、アレックスが犯人に違いないという思い込みに囚われてしまった点でもケラーはプリズナーといえるでしょうし、他の登場人物も何にせよプリズナーなのかもしれません。
また、上で挙げた『レイルウェイ』の主人公ローマクスにしても、捕虜収容所ではプリズナーそのものでしたし、帰国した後も長い間、拷問のトラウマに囚われたままだったのですからプリズナーだったでしょう。
ニ)ケラーが閉じ込められた「穴」ですが、本作においてそれに類似するものとしては、他に、アレックスが閉じ込められている狭い空間も挙げられるでしょう(注9)。
さらに、本作の「穴」にソックリなものとして思い当たるのは、『ザ・コール 緊急通報指令室』において、少女ケイシー(アビゲイル・ブレスリン)が閉じ込められた地下室です。そちらの方は、本作の「穴」に比べるとずっと広いとはいえ、その場所を見つけ出すことができないように本作の「穴」と同様に巧みにカモフラージュ―されているのです(注10)。
本作のキャッチコピーにあるような「もしも最愛の我が子を奪われたら、あなたはどうするのか」といった厳しすぎる問いかけは脇に置いておいて、こんなアレヤコレヤを考えながら本作を見るのも、また一興ではないでしょうか?
(3)渡まち子氏は、「何よりもドゥニ・ヴィルヌーヴという俊英監督の重厚な演出力とストーリーテリングの才能に、映画から一瞬も目が離せなかった」として80点をつけています。
前田有一氏も、「非常に満足度の高い映画であり、とくに子を持つ親におすすめしたい。きっと没頭してみることができるはずだ」として80点をつけています。
相木悟氏は、「後に尾をひく、観応えある重量級の犯罪ドラマであった」と述べています。
(注1)監督は、『灼熱の魂』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
(注2)アレックスが、ケラーにだけ「僕がいる間は、泣かなかった」と言い、また娘が歌っていた替え歌を口ずさんでいましたから。
(注3)ヒュー・ジャックマンは『オーストラリア』、ジェイク・ギレンホールは『マイ・ブラザー』で見ています。
その他の俳優陣の中では、ポール・ダノは『それでも夜は明ける』、メリッサ・レオは『ザ・ファイター』、ヴィオラ・デイヴィスは『ヘルプ』で、それぞれ見ました。
(注4)このサイトの記事によれば、定規は「実直に、堅実で、公平であれ」、コンパスは「欲求・欲望をコンパスで描く円内に抑え・留めておけ」という指針を表しているようです。
(注5)ボブが描いた「迷路」の絵を見て、ロキ刑事は、神父の家の地下室で見たことがあるなと思い出し、さらにはある人物の胸に飾られているペンダントにも同じ絵が書かれていたことを見出します。
(注6)自殺した父親(刑務所の看守でした)が所有していた家。ケラーは別の場所に家を構え、この家は荒れ放題になっていました。そこの一室にアレックスを監禁したのです。
(注7)拷問ということであれば、『サンブンノイチ』や『それでも夜は明ける』でも拷問シーンが見られました。
なお、本作を制作したドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による『灼熱の魂』では、政治テロを行った主人公ナウルは、捕らわれて15年間刑務所にいますが、その間拷問(レイプ)を受けます。
(注8)例えば、『ゼロ・ダーク・サーティ』(この作品は見ましたが、レビューはアップしませんでした)。同作については、このサイトの記事がここでは参考になるでしょう。
(注9)さらには、上記「注5」で触れた神父の家の地下室も「穴」といえるでしょう。
(注10)『ザ・コール』の主人公・ジョーダン(ハル・ベリー)がある音をヒントに地下室を発見したのと同じように、本作でも、ロキ刑事が最後にある音を耳にします!
★★★☆☆☆
象のロケット:プリズナーズ