映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ペーパーボーイ

2013年08月21日 | 洋画(13年)
 『ペーパーボーイ―真夏の引力』を新宿武蔵野館で見ました。

(1)印象的だった『プレシャス』の監督リー・ダニエルズの作品でもあり、ニコール・キッドマンが出演するというので、映画館に出かけてみました。

 本作の舞台は1969年のフロリダ。ジャンセン家でメイドだったアニタメイシー・グレイ)の語りによって物語は綴られていきます。
 主人公のジャックザック・エフロン)は、大学を中退し、小さな新聞社を営む父親の元に戻ってきて、新聞配達をしています(それで、タイトルが「ペーパーボーイ」)。
 ある日、大手の新聞社に勤める兄・ウォードマシュー・マコノヒー)が、同僚の黒人記者ヤードリーデヴィッド・オイェロウォ)と一緒に戻ってきて、4年前に起きた保安官殺しの事件に疑惑があるとのことで、調査に取りかかります〔容疑者のヒラリージョン・キューザック)は、物的証拠が紛失してしまっているにもかかわらず、死刑判決を受けているのです〕。
 ジャックは、ウォードたちの調査に、運転手などの雑用係としてかかわることになります。



 そんなウォードの事務所(父親のガレージ)に、ヒラリーの婚約者だというシャーロットニコール・キッドマン)が、新聞切り抜きなど関係文書の入った段ボール箱を持って訪ねてきます。
 彼女は、獄中のヒラリーと手紙の交換をする内に愛し合うようになったとのこと。
 でも、ジャックは、そんな彼女に一目惚れしてしまいます。
 ヒラリーの冤罪は晴らされるのでしょうか、ジャックとシャーロットとの関係はどうなるのでしょうか、……?

 情報を殆ど持たずに見たものですから、期待していた内容とは違って、ズッとグロテスクで衝撃的なストーリー展開や描写に驚いてしまいました。とはいえ、そうした部分を取り除いたら、マザコン青年が年上の美女に叶わぬ恋心を燃やすといったありきたりな話に過ぎないようにも思えるところ、登場人物のそれぞれが二面性を持っているなど(注1)、様々な事柄がギュッと詰め込まれていて、1時間50分弱の映画ながら、なんだか3時間近く見ていた感じになってしまいました。

 主演のザック・エフロンは『きみがくれた未来』で、またジョン・キューザックは『シャンハイ』で見ていますが、本作でもそれぞれ堅実な演技を披露しています。



 本作では、なによりニコール・キッドマンに圧倒されてしまいます。前に見た『ラビット・ホール』における抑制された演技の母親役とは打って変わって、ヒラリーと性的な関係を持つは、海でクラゲに刺されて気を失ったジャックに放尿するはで、奔放なシャーロットの役柄を見事に出しています。




(2)保安官殺人事件の容疑者で死刑判決を受けているヒラリーの身内が住む家は、フロリダのスワンプと呼ばれる湿地帯にあります。

 このスワンプのシーンは2度ほど描き出されます。
1度目は、ヒラリーのアリバイを確認するため、ウォードとジャックがスワンプに住む伯父のタイリーに会いに行きます(注2)。
2度目は、釈放されたヒラリーが連れていったシャーロットを救出するため、ウォードとジャックがスワンプに入ります(注3)。

 それにしても、このところ、こうした湿地帯が描き出される作品をよく見かけます。
 例えば、ルイジアナ州の湿地帯を舞台にした『ハッシュパピー』。
 そして、アルゼンチンのブエノスアイレス郊外の湿地帯を描き出す『偽りの人生』。
 特に、後者のラストのシーンは、本作のラストのシーンに通じるものを感じさせます(注4)。
 そういえば、『ハッシュパピー』でも、島で亡くなった父親の遺骸をボートに積んで流すシーンがありました。

 湿地帯には、人間の死に絡むものが何か潜んでいるのでしょうか(注5)?

(3)渡まち子氏は、「見終わったらグッタリと疲れるが、「プレシャス」で注目されたリー・ダニエルズ監督は、残酷な大人たちが本性をむき出しする世界をスキャンダラスなドラマで描いてみせた。やはり才人である」として65点を付けています。




(注1)例えばジャックは、離婚して彼を父親のもとに残して立ち去ってしまった母親を強く慕っていて、女性に対して自分の方から何かを言いだすことができないほど内気な性格ながら、他方で、大学生の時に、プールの水を無断で抜いてしまい、公共物損壊ということで大学から追放されてしまうのです。

 ジャックらの父親は、一方で、小さいながらも新聞社を経営しているものの、他方で無類の女好きで、今もエレンという女を家に引っ張り込んでいて、遂には編集長にしてしまいます。

 ジャックが恋い焦がれるシャーロットは、一方で、獄中の死刑囚と婚約するなど酷く変わった女でありながら、他方で、海で大変な目に遭遇したジャックを非常手段によって助けてくれたりもするのです。

 また、ジャックは、ウォードと黒人記者ヤードリーとの関係がよく飲み込めません。主体的に動いているのはウォードのはずながら、様々なことをヤードリーが命じていたりするのです。
 ですが、ウォードの変わった性癖(ゲイでM趣味)が明らかになるのは、バーでしたたかに飲んで、そこにいた二人の黒人と消えてから。暫くすると、ウォードは、裸で縛られて、顔面などを酷く殴られた瀕死の状態で発見されるのです。
 ヤードリーとも性的な関係にあるようです。

 そのヤードリーは、ウォードと関係がありながら、ヒラリーについて根拠が十分ではないにせよ何か新しそうなことが言える段階になると、うまく記事をまとめて本社に送ってしまい、その記事が認められてニューヨークの新聞社に引き抜かれます。

(注2)伯父のタイリーは、事件があった時間に、ヒラリーと一緒にいたことを証言します(ゴルフ場の芝生をはがしてディベロッパーに売ったと言います)。
 ただ、ジャックは、その家にいた男を、刑務所のヒラリーに面会に行った際、見たといいます(どうも、この一族には胡散臭いところがあるようです:よく調べると、ディベロッパーなど存在しないようなのです)。

(注3)ヒラリーの家にジャックらが行くと、シャーロットはすでに殺されており、またウォードもヒラリーに首を切られて殺されてしまいます。
 ジャックは、武器を手にしたヒラリーに追い詰められるものの、水泳部にいたことが幸いし、スワンプの水中にうまく隠れることで辛くも逃れます(ただ、スワンプには沢山のワニが生息しているはずにもかかわらず、水中のジャックが全然遭遇しないのは不思議に思いました!あるいは、ワニは昼行性のために、夜は安全なのでしょうか?)。

(注4)ジャックは、来るときに使ったモーターボートに、兄ウォードとシャーロットの死体を乗せて戻っていきますが、それはまるで『偽りの人生』のラストで、若い娘ロサが、アグスティンの死体を乗せて湿地帯を進んで行く光景と重なります(男女の関係が反対ではありますが)。

(注5)邦画で思い出すのは『のぼうの城』。
 城代・成田長親らが立て籠もる忍城は、石田三成軍によって水攻めを受けますが、元々湖の中の島の上に作られた城でした。この映画のクライマックスは、成田長親による死を覚悟した「田楽踊り」といえますから、やはり死が絡んでいるのではないでしょうか?

 と、ここまで来ると、ベックリーンの「死の島」まではあと一歩となるでしょう(同画については、拙ブログのこのエントリの(2)を御覧ください)!



★★★☆☆



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