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L.A.ギャングストーリー

2013年05月14日 | 洋画(13年)
 『L.A.ギャングストーリー』を渋谷東急で見ました(注1)。

(1)ライアン・ゴズリングショーン・ペンが出演するというので、映画館に出向いてみました。

 本作の舞台は、1949年のロスアンジェルス。
 ブルックリン生まれで元プロボクサーのコーエンショーン・ペン:注2)が、ロスの裏社会を牛耳っています。



 警察当局はおろか司法当局などにもコーエンの金が行きわたって、彼を取り締まることはできません。
 ただ、警察本部長のパーカーは、どんなことをしてでもコーエンをロスから叩き出したいとして、巡査部長のオマラジョシュ・ブローリン)に極秘指令を発します。
 すなわち、コーエンを逮捕する必要はない、違法な行為をやっても構わないから組織を潰せ、ただ警察官としての素性は隠せ、必要な人選はオマラに任せる、というものです。
 早速、オマラは5人を選び出し〔実際の人選は彼の妻によるものですが、その中に、ライアン・ゴズリング扮する巡査部長ジェリーが入っています〕、コーエンの賭場を次々に襲っていきます。



 でも、そんなにうまく事が運ぶでしょうか、彼ら6人の運命は、……?

 本作に関しては、「「ギャング×警察」の仁義なき戦い」とか「最凶の悪(ギャング)×最強部隊(ロス市警)」などといった派手なキャッチコピーが飛び交い、その冒頭では、コーエンがサンドバッグを叩く様子が映し出され、引き続いて、シカゴのギャング団に通じている男を、見せしめのためか残虐なやり方で殺してしまう場面(注3)となり、これは凄い映画になりそうだと観客に思わせます(注4)。
 ですが、見続けている内に、どうも以前見た『アンタッチャブル』〔TV版も少々(注5)〕の二番煎じ的な臭いがしてきて(場所がシカゴからロスに代わるだけではないでしょうか)、マシンガンがやたら吠えまくるものの、イマイチの印象でした。

 あるいは、ジョシュ・ブローリンが演じる主役のオマラが、『アンタッチャブル』におけるエリオット・ネス(ケビン・コスナー)ほど格好良くないためなのかもしれません。なにしろ、ジョシュ・ブローリンがかなり渋めなのと(注6)、オマラらが最初に賭場に踏み込むと、そこには用心棒として制服を着た警官が何人もいて逆襲されてしまい、オマラともう一人が捕まってしまうというテイタラクなのです(十分に内偵せずに突入したのでしょうか)。

(2)もっといえば、本作を見る少し前に、偶然にも『ラブ・アゲイン』のDVDを見たせいで、イマイチの感を抱いたのかもしれません。
 驚いたことにその映画では、本作にも出演するライアン・ゴズリング(注7)とエマ・ストーンが出演していて、実に軽妙に演じているのですから!

 同作でゴズリングが扮するジェイコブは、妻との間で離婚話が持ち上がった主人公キャルに対する恋愛アドバイザーで、とっかえひっかえ付き合う女性を変えている女たらし。その身持ちの悪いジェイコブが嵌まってしまったのがエマ・ストーン演じるハンナながら、そのハンナがキャルの娘であることが分かって、事態はてんやわんやになるといったところです。

 こんなゴズリングが、本作においては、コーエンの愛人・グレイスを演じているエマ・ストーンと一緒に出てきて、その間ですぐに関係が出来てしまうというのですから、二人ともそんなに厳しいことにはならないだろうな、と思いたくなってしまいます。



 案の定、グレイスは、見つかったらただでは済まないとなんども忠告されるものの、ジェリーともどもコーエンによって消されることはありませんでした(注8)。

(3)渡まち子氏は、「ロス市警の極秘チームと大物ギャングの“仁義なき戦い”を描く「L.A.ギャングストーリー」。暴力には暴力をという発想がアメリカらしい」として70点をつけています。



(注1)渋谷東急で上映が開始されると、予告編もなしにいきなり本篇に入ったのでおかしいなと思い、見終わってから入口付近を見回したら、「5月23日で閉館」との張り紙が掲示されているではありませんか!
 係の人に尋ねると、他に引っ越すわけではなく完全撤退とのことです。
新しく渋谷東口にできた「ヒカリエ」には、その前にあった渋谷東急文化会館内の映画館(渋谷東急もその一つです)が戻ってくるものと思っていたにもかかわらず、ミュージカル専用の「シアターオーブ」が設けられただけで残念だなと思っていたところ、この知らせです。

 渋谷では、TOHOシネマズなどが賑わっているだけに、なんとかならなかったものかと思ってしまいますが、ただ現在の渋谷東急は、駅から一館だけ離れたところに位置しているだけでなく、座席数も300と大き過ぎて(平日の夕方に本作を見たのですが、10名ほどがパラパラと座っているにすぎませんでした)、運営面でさぞかし大変だったのではと想像します。

 なお、渋谷では、このところ「シネマ・アンジェリカ」(2011.11)「シネセゾン渋谷」(2011.11)、「シアターN」(2012.12)などが閉館されてきているところ、そうした流れがもう続かないことを願うのみです。

(注2)ショーン・ペンは、最近では『ツリー・オブ・ライフ』が印象的でした。

(注3)驚いたことに、コーエンは、車2台を使って、男を車裂きの刑に処するのです。
 車裂きの刑といえば思い出すのが、明治大学准教授の重田園江氏が、その著『ミシェル・フーコー―近代を裏から読む』(ちくま新書、2011.9)において、「大好きな人の大好きな本」(P.268)として専ら焦点を当てる『監獄の誕生―監視と処罰』(田村俶訳、新潮社、1977年)であり、その冒頭に取り上げられるダミアンに課せられたものです(重田氏の著書の冒頭でも、フーコーの本の最初の部分が引用されています)。

 フーコーは、絶対主義王政期の身体刑から近代の自由刑への移り行きを議論していて、最早現代では車裂き刑など消滅しているところ、コーエン帝国というギャング団の内部においては、コーエンの王としての絶対振りを仲間に見せつけるためにも〔「王の絶対的な力を群衆に見せつけ、彼らの脳裏にその偉大さを刻みつける儀式」としての「公開処刑」(重田著P.65)〕、格好の刑罰として復活したのでしょう。

 ただ、警察に捕まったオマラらを救出するために留置場を壊そうと、窓に結んだロープを車で引っ張りますが、逆に車のバンパーの方が剥がれてしまいます。そんな車で、果たして車裂きの刑を実行できるのか、心許なくも思えてくるのですが〔歴史上に現れた二度目ですから、もしかしたら「みじめな笑劇」になってしまったかもしれません(『ルイ・ボナパルトのブリューメール十八日』(カール・マルクス著、上村邦彦訳:平凡社ライブラリー)〕。

(注4)さらには、街を歩く素人娘をギャングの一味が言葉巧みにだまして、コーエンが経営する娼館に連れ込んでしまう様子を見て、オマラは正義感に燃えて、その娼館に飛び込み、娘を救出するとともに、そこにいたギャングを警察に連行します。ところが、オマラの上司は、既に人身保護令がでているからとして、ギャングを釈放させてしまいます。
 最初の短い時間の内に、コーエン帝国の状況とか警察内部の腐敗振りを、観客に実に手際よく提示しているなと思いました。

(注5)TV番の『アンタッチャブル』については、このエントリで少しだけ触れています。

(注6)ジョシュ・ブローリンについては、『トゥルー・グリット』における敵役だったり、『恋のロンドン狂騒曲』での売れない小説家だったりするので、クマネズミにとっては、格好良い俳優のイメージがありません〔『ミルク』でも、主役のミルク(なんとショーン・ペン!)を暗殺するダン・ホワイトを演じていますが、印象に残っておりません〕。



(注7)ライアン・ゴズリングについては、『スーパー・チューズデー』が印象的でした。

(注8)そればかりか、オマラ以下6人の「最強部隊」のうち、二人は殺されてしまうものの、残りはまずまずの状況に戻ります(特に、オマラは、警察を離れ、幼い子供を伴って海岸でのんびりとして生活を楽しんでいる有様なのです!)。



★★★☆☆



象のロケット:L.A. ギャング ストーリー


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まあいいけど (milou)
2013-05-14 22:00:11
まあ見ているときは、そこそこ面白かったけど、それだけ。
まず冒頭の処刑ですが、実際にやったらどうなのか知らないが、腹部で真っ二つなんてことはなく腕がちぎれるんじゃないかと、まず引っかかった。

あとはコーエン帝国(自宅)こそ最後のレストランのように完全防護の要塞のはずなのに、いとも簡単に忍び込んで盗聴器を仕掛けることができるなんて…ひどすぎない?
そして、ころされる老夫婦はコーエンに狙われるのは必定なのに何の対策も取っていない。ラストも(アクション映画の定番みたいだが)コーエンは元ボクサーではあるが、何もオマラが銃を捨てて殴り合いで決着なんてしなくてもいいのに…

やっぱり一番面白いのは(といってもこれも定番だが)人選で“優秀”な人材ではなく使い物にならない(?)警官を(妻が)“選び直す”ことかな…
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Unknown (クマネズミ)
2013-05-15 21:01:59
「milou」さん、コメントをありがとうございます。
本作については、「見ているときは、そこそこ面白かったけど、それだけ」という「milou」さんのコメントに尽きるのではと思います。
帝国の独裁者のコーエンというには、取り巻きが単なるボディガードしかいないように映画で見えるのも、なんだか器が小さく見えてしまうのですが。
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閉館 (KGR)
2013-05-24 12:50:48
シネコンの多くはデジタル化され、映写技師もいらないし、フィルム交換もなし。
コンピュータ制御で上映はほぼ無人でできるようですね。

見る側にとっても単館よりシネコンの方が便利ですし、
この傾向は続くんでしょうね
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また消える映画館 (クマネズミ)
2013-05-24 21:45:14
「KGR」さん、TB&コメントをありがとうございます。
まさにおっしゃるように、「見る側にとっても単館よりシネコンの方が便利」で、「この傾向は続くんでしょう」が、行き着く先は映画館がなくなり、新作も全てネットを通じて流されるようになるのでしょうか?
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浮き沈み (iina)
2013-05-25 10:08:28
「ヒカリエ」オープン時には、映画館は未だ会館してなかったですが、シネコンスタイルで会館したようですね。その分を古い映画館があおりを食らって閉館とは、渋谷の新旧交代が進んでいる風です。

直前に、主要俳優たちによる映画の残像が新作に波及すると、何がしら影響を受けややこしいことになりそうです。

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Unknown (クマネズミ)
2013-05-26 07:55:05
「iina」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「直前に、主要俳優たちによる映画の残像が新作に波及すると、何がしら影響を受け」てしまうようです。
なお、「ヒカリエ」についてですが、本文注にも書きましたように、ミュージカル専用の「シアターオーブ」が設けられただけで、残念ながら映画館は設けられてはおりません(例えば、http://www.hikarie.jp/faq/index.htmlを参照してください)。
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