『ファミリー・ツリー』をTOHOシネマズ渋谷で見てきました。
(1)本作は、『スーパー・チューズデー』で監督・出演したばかりのジョージ・クルーニーの主演作であり、かつアカデミー賞の5部門にノミネートもされましたから、期待して見に出かけたのですが、残念ながら思ったほどではありませんでした。
原題は「The Descendants」ということで、ハワイのカメハメハ大王の血を引く弁護士の主人公マット(ジョージ・クルーニー)が、一方で不慮の事故で意識不明のこん睡状態に陥ってしまった妻の世話に当たらなくなるところ(注1)、他方で、先祖から引き継いだ土地の処分をどうするかという問題にも直面しています。
マットは、妻がそんな状態に陥ってしまったために、まずこれまで仕事に集中して顧みなかった家族の問題にぶち当たります(注2)。
オアフ島の自宅にマットと一緒に住んでいる次女スコッティは、言葉遣いが乱暴になるは学校で問題を引き起こすは、と荒んできますが(注3)、別のハワイ島の全寮制の高校にいる長女アレックス(シャイリーン・ウッドリー)も、アルコール依存症気味ではあるし、またわけのわからないボーイフレンド・シドとも付き合っています。
母親が重体に陥ったことから長女を家に連れてくると、彼女は、妻が浮気をしていたことをマットに告げてしまいます(注4)。それで、頭に来たマットは、妻の浮気相手スピアー(マシュー・リラード)が出向いているというカウアイ島に向かいます。
そのカウアイ島は、マットが先祖から引き継いでいる広大な土地キプ・ランチがある島で、近く開催される親族会議では、その土地についてマットは自分なりの判断を提示する必要があるのです(親族たちは、売却益のおこぼれに早くあずかろうとしているようです)。
さあ、マットはスピアーと対決するのでしょうか、また祖先から引き継いでいる土地をどう処分しようとするのでしょうか、……?
見ている間中、この作品は、御当地映画とどこが違うんだという気がしてなりませんでした。とにかくハワイの3つの島の素晴らしさを観客に見せることに重点が置かれているように思え、映画を見た人は、皆がアロハシャツを着て四六時中ハワイアンが流れているようなハワイに行ってみたくなること必定です(注5)。
そんな中で、明日をもしれぬ重篤な妻を抱えた主人公のマットなのですが、なぜか、妻を病院に置きっ放しにして(注6)、ハワイ島に行くはカウアイ島に行くはで大活躍です(カウアイ島では、スピアーの探索で探偵まがいのことまでします:注7)。
加えて、母親の喪失に迫られた子供たちも、確かに荒んだ行動はするものの、決して則は超えず、家族の崩壊というにはほど遠い感じ。
それに、原題の「The Descendants」ですが、確かに、血の繋がりがなく、おまけに浮気をしてマットとは別れる気でもあった妻はあまり関係はないのかもしれません。とはいえ、余りにも一族の圏外に彼女が置かれ過ぎているのではという感じもしました。
(2)さて、上で申しあげたようにマットは、妻の浮気相手・スピアーを追ってカウアイ島に行った際に、自分が祖先から受け継いでいる広大な土地を見に行きます(注8)。

そこには自然がそのままで残されているものの、親族の大部分が売却先として適当だと考えている開発業者のホリツァー(注9)に売却してしまえば、その素晴らしい自然は破壊されてしまうでしょう。
でも、信託期間が7年後には切れてしまうために、いずれは処分せざるを得ないということのようなのです。
しかしながら、ここら辺りの事柄がどうも理解しがたい感じがするので(「信託期間」?「7年後」?信託期間が終わると?)、ネットで少し調べてみましたら、大変興味深い記事が見つかりました(注10)。
同記事では、本作の法律面につき助言をしたハワイ法科大学のランダール・ロス教授(ハワイ州の土地信託の権威)の話を伝えているところ、その概要は次のようです。
「原作では、マットの祖父が亡くなったとき(あるいはそれに類似することが起きたとき)に終了する信託(trust)の取り決めがなされていたとされているが(注11)、それには疑問があるので、脚本では法律的な原則を付け加えた方が良いと助言した。
すなわち、永久拘束禁止則(the rule against perpetuities)といわれるのがそれで、信託が永遠に続くのを妨げるべく、その上限を設けるものであり、多くの州で立法化されている。
伝統的には、「lives in being plus 21 years」とされ(注12)、実際には、多くの信託で期間はおよそ100年とされ、本作ではそれが150年に切り上げられている。それで、映画では、あと7年で信託が終了するとされているのだ。
ただ、映画では触れていないが、その原則を廃止して信託期間が永遠に続くことを認める州が出てきており(注13)、映画の完成後にハワイ州でもそのようになった。
なお、マットがキプ・ランチの売却を拒否した際の動機については、映画では明確にされていないが、疑問がある。
というのも、マットは、ただ一人の「受託者(trustee)」として、受益者(beneficiaries)にとって最善の利益をもたらすように行動しなくてはならない義務を負っているのであって、スピアーを窮地に立たせようとして(注14)、あるいは開発業者からの提案が魅力的であると知っていながら、売却を拒否してしまうことは、受託者に与えられている裁量の範囲を逸脱しているのではなかと考えられる。
ただ、後者についてマットは、先祖は開発よりも保存を望んだだろうと反論するかもしれないが」。
マットは、先祖から譲られた自然豊かな土地を守ろうとして売却話を拒絶するのですが、ちょっと考えてみると、そんなことをしても最長で7年間しか今の状態を継続できないわけで、その後は信託は精算されますから、相続人達がオーナーとして処分できることになるわけです。
ソウなった暁には、一括して開発業者に任せる場合よりも事態が悪化してしまう可能性の方が高いのではないでしょうか(注15)?
マットは、「受託者」として当然負うべき義務を果たさないどころか、自分の権限を振り回して物事を悪い方向に持って行こうとしているだけではないのかと思えてきます。
(3) 以上を要すれば、マットの家庭の崩壊の話それ自体はどこにでも転がっていそうなものであり、もう一つの土地売却の話も映画の中だけでは理解し難しく、その上これら二つがうまく有機的な繋がりをもって描き出されてはいないのではとも思いました(注16)。
どうしてこの程度の作品でアカデミー賞の5部門にノミネートなのか不思議な気がしたところです。
それでも、主演のジョージ・クルーニーの演技は素晴らしく、なかでも、妻の浮気を知ってその真相を確かめるべく友人宅に向かってカーブのある道を駆けている姿は、一見の価値があるのではと思いました。

(4)渡まち子氏は、「ジョージ・クルーニーが絶妙の演技をみせる「ファミリー・ツリー」。ほろ苦いドラマだが後味はさわやか」であり、「誰もが欠点を持ち、誰もが完全には正しくない。互いを補いあう家族だからこそ、それでいい。映画全編をそっと包み込む、柔らかなハワイアン・ミュージックがそう告げている」として80点をつけています。
(注1)担当する医師の話によれば、状態は悪化していて、余命は数日、せいぜい数週間とされています。
さらに、妻は尊厳死を望んでおり、また臓器提供の意思も表明しているとのこと。
(注2)妻の実の父親も、「娘はよく働いていた。だけどお前は、娘に金を使わせなかった。もっと自由に金が使えていたら、そして娘をもっと幸せにしてくれていたら、娘もあんな事故に遭わなくても済んだ」などとマットに愚痴を言います。
(注3)でも、柄の悪い言葉遣いをしたり、おかしな写真を同級生に見せたり、変なメールを送ったりする程度のこと。
(注4)アレックスは、「クリスマスに、ママは男といたんだよ。それでママと喧嘩したの。パパは気が付かなかったよね、仕事ばかりしていたから」と言い放ちます。
(注5)特に、劇場用パンフレットは、マウイ島やカウアイ島の地図付きであり、その他のハワイ情報も満載です!
(注6)妻の浮気の話を知って、昏睡状態で横たわっている妻に向って、「君は大嘘つきだ。私の人生を台無しにしている」などと詰ったりしていますから、マットが病室に籠り切りにならないのも分かりますが、他方で、浮気相手のスピアーに妻のことを知らせて見舞ってもらおうともします。それは、妻が会いたいだろうと思ってのことですから、妻に対する優しい気持もいまだ十分に持ってもいるのです。
(注7)スピアーが滞在しているカウアイ島のコテージの前の生垣からのぞき見をして、スピアーが妻と子供と3人でそこにいることを知ります。
(注8)ハワイの土地制度の歴史については、このサイトの記事によれば次のようです。
ハワイ王国のカメハメハ3世(治世は1832年~1855年)の時に制定されたマヘレ法(1848年)によって、ハワイの全ての土地は、カメハメハ王と245人の族長の間に分配され、さらに王の領地の大半はハワイ政府の所有する官有地とされ、その結果、王領23.8%、官有地37%、族長領地39.2%という割合になったようです。
さらに、1850年には、外国人による土地私有も認められたため、法律に強く、ある程度資金もあったハオレ(白人)たちは、対外債務を抱えていたハワイ政府から、格安で王領地や官有地の売却を受け、1862年までにはなんとハワイ全土の75%がハオレの個人所有になったとのこと。
(注9)開発業者ホリツァーの義弟がスピアーで、スピアーが不動産業者であることから、その開発業者に売却すれば、スピアーが土地の売却等を任せられるだろうことも判明してきます。マットは、スピアーが、土地のことから自分の妻に近づいたのではと疑います。
(注10)アメリカの雑誌「Forbes」のネット版に掲載されたDeborah L. Jacobs氏(Forbes Staff )による「George Clooney Makes Estate Planning Sexy」(2012.2.23)。
(注11)原作〔カウイ・ハート・ヘミングス著『ファミリー・ツリー』(堤朝子訳、ヴィレッジブックス)〕によれば、マットの銀行家の曽祖父が、カメハメハ大王最後の直系子孫と結婚して30万エイカーの土地を持つことになり、曽祖父は1920年にそれを信託財産にして亡くなり、それをマット達が受け継いだが、「昨年、父が亡くなり信託期間が終了しました」とのこと(同書P.61~)。
(注12)「信託の存続期間に上限がある。受益者とその相続人の生存期間にプラス21年で私的信託は終わる。その時点で信託は解消され清算されなければならない。これが私的信託の永久拘束禁止則(rule against perpetuity)である」(同志社大学法科大学院教授・藤倉皓一郎氏による「アメリカ法における私と公―公共信託の理論」から)。
(注13)このサイトの記事も、アメリカにおける同じような動きを述べています。
(注14)上記「注9 」を参照。
(注15)ここで引用した「Forbes」の記事においてロス教授は、信託期間が終わると、従兄弟達は土地の共有者(co-owners)になり〔法律用語では「tenancy in common 」〕、それぞれが財産の部分所有者になるものの、それは分割できない持ち分(an undivided interest)であり、反対者が一人でもいたら売却も何もできなくなってしまい、従兄弟達の間で喧嘩騒ぎが引き起こされる可能性がある、と述べています。
(注16)妻が事故に遭遇して昏睡状態になったという事情から親族と会ったりするうちに、マットは売却話に乗らないことを決めますから、あながち二つの話につながりがないわけでもないでしょう。ですが、土地の売却を拒否することがそれほどご大層なこととは思えないところです。
★★★☆☆
象のロケット:ファミリー・ツリー
(1)本作は、『スーパー・チューズデー』で監督・出演したばかりのジョージ・クルーニーの主演作であり、かつアカデミー賞の5部門にノミネートもされましたから、期待して見に出かけたのですが、残念ながら思ったほどではありませんでした。
原題は「The Descendants」ということで、ハワイのカメハメハ大王の血を引く弁護士の主人公マット(ジョージ・クルーニー)が、一方で不慮の事故で意識不明のこん睡状態に陥ってしまった妻の世話に当たらなくなるところ(注1)、他方で、先祖から引き継いだ土地の処分をどうするかという問題にも直面しています。
マットは、妻がそんな状態に陥ってしまったために、まずこれまで仕事に集中して顧みなかった家族の問題にぶち当たります(注2)。
オアフ島の自宅にマットと一緒に住んでいる次女スコッティは、言葉遣いが乱暴になるは学校で問題を引き起こすは、と荒んできますが(注3)、別のハワイ島の全寮制の高校にいる長女アレックス(シャイリーン・ウッドリー)も、アルコール依存症気味ではあるし、またわけのわからないボーイフレンド・シドとも付き合っています。
母親が重体に陥ったことから長女を家に連れてくると、彼女は、妻が浮気をしていたことをマットに告げてしまいます(注4)。それで、頭に来たマットは、妻の浮気相手スピアー(マシュー・リラード)が出向いているというカウアイ島に向かいます。
そのカウアイ島は、マットが先祖から引き継いでいる広大な土地キプ・ランチがある島で、近く開催される親族会議では、その土地についてマットは自分なりの判断を提示する必要があるのです(親族たちは、売却益のおこぼれに早くあずかろうとしているようです)。
さあ、マットはスピアーと対決するのでしょうか、また祖先から引き継いでいる土地をどう処分しようとするのでしょうか、……?
見ている間中、この作品は、御当地映画とどこが違うんだという気がしてなりませんでした。とにかくハワイの3つの島の素晴らしさを観客に見せることに重点が置かれているように思え、映画を見た人は、皆がアロハシャツを着て四六時中ハワイアンが流れているようなハワイに行ってみたくなること必定です(注5)。
そんな中で、明日をもしれぬ重篤な妻を抱えた主人公のマットなのですが、なぜか、妻を病院に置きっ放しにして(注6)、ハワイ島に行くはカウアイ島に行くはで大活躍です(カウアイ島では、スピアーの探索で探偵まがいのことまでします:注7)。
加えて、母親の喪失に迫られた子供たちも、確かに荒んだ行動はするものの、決して則は超えず、家族の崩壊というにはほど遠い感じ。
それに、原題の「The Descendants」ですが、確かに、血の繋がりがなく、おまけに浮気をしてマットとは別れる気でもあった妻はあまり関係はないのかもしれません。とはいえ、余りにも一族の圏外に彼女が置かれ過ぎているのではという感じもしました。
(2)さて、上で申しあげたようにマットは、妻の浮気相手・スピアーを追ってカウアイ島に行った際に、自分が祖先から受け継いでいる広大な土地を見に行きます(注8)。

そこには自然がそのままで残されているものの、親族の大部分が売却先として適当だと考えている開発業者のホリツァー(注9)に売却してしまえば、その素晴らしい自然は破壊されてしまうでしょう。
でも、信託期間が7年後には切れてしまうために、いずれは処分せざるを得ないということのようなのです。
しかしながら、ここら辺りの事柄がどうも理解しがたい感じがするので(「信託期間」?「7年後」?信託期間が終わると?)、ネットで少し調べてみましたら、大変興味深い記事が見つかりました(注10)。
同記事では、本作の法律面につき助言をしたハワイ法科大学のランダール・ロス教授(ハワイ州の土地信託の権威)の話を伝えているところ、その概要は次のようです。
「原作では、マットの祖父が亡くなったとき(あるいはそれに類似することが起きたとき)に終了する信託(trust)の取り決めがなされていたとされているが(注11)、それには疑問があるので、脚本では法律的な原則を付け加えた方が良いと助言した。
すなわち、永久拘束禁止則(the rule against perpetuities)といわれるのがそれで、信託が永遠に続くのを妨げるべく、その上限を設けるものであり、多くの州で立法化されている。
伝統的には、「lives in being plus 21 years」とされ(注12)、実際には、多くの信託で期間はおよそ100年とされ、本作ではそれが150年に切り上げられている。それで、映画では、あと7年で信託が終了するとされているのだ。
ただ、映画では触れていないが、その原則を廃止して信託期間が永遠に続くことを認める州が出てきており(注13)、映画の完成後にハワイ州でもそのようになった。
なお、マットがキプ・ランチの売却を拒否した際の動機については、映画では明確にされていないが、疑問がある。
というのも、マットは、ただ一人の「受託者(trustee)」として、受益者(beneficiaries)にとって最善の利益をもたらすように行動しなくてはならない義務を負っているのであって、スピアーを窮地に立たせようとして(注14)、あるいは開発業者からの提案が魅力的であると知っていながら、売却を拒否してしまうことは、受託者に与えられている裁量の範囲を逸脱しているのではなかと考えられる。
ただ、後者についてマットは、先祖は開発よりも保存を望んだだろうと反論するかもしれないが」。
マットは、先祖から譲られた自然豊かな土地を守ろうとして売却話を拒絶するのですが、ちょっと考えてみると、そんなことをしても最長で7年間しか今の状態を継続できないわけで、その後は信託は精算されますから、相続人達がオーナーとして処分できることになるわけです。
ソウなった暁には、一括して開発業者に任せる場合よりも事態が悪化してしまう可能性の方が高いのではないでしょうか(注15)?
マットは、「受託者」として当然負うべき義務を果たさないどころか、自分の権限を振り回して物事を悪い方向に持って行こうとしているだけではないのかと思えてきます。
(3) 以上を要すれば、マットの家庭の崩壊の話それ自体はどこにでも転がっていそうなものであり、もう一つの土地売却の話も映画の中だけでは理解し難しく、その上これら二つがうまく有機的な繋がりをもって描き出されてはいないのではとも思いました(注16)。
どうしてこの程度の作品でアカデミー賞の5部門にノミネートなのか不思議な気がしたところです。
それでも、主演のジョージ・クルーニーの演技は素晴らしく、なかでも、妻の浮気を知ってその真相を確かめるべく友人宅に向かってカーブのある道を駆けている姿は、一見の価値があるのではと思いました。

(4)渡まち子氏は、「ジョージ・クルーニーが絶妙の演技をみせる「ファミリー・ツリー」。ほろ苦いドラマだが後味はさわやか」であり、「誰もが欠点を持ち、誰もが完全には正しくない。互いを補いあう家族だからこそ、それでいい。映画全編をそっと包み込む、柔らかなハワイアン・ミュージックがそう告げている」として80点をつけています。
(注1)担当する医師の話によれば、状態は悪化していて、余命は数日、せいぜい数週間とされています。
さらに、妻は尊厳死を望んでおり、また臓器提供の意思も表明しているとのこと。
(注2)妻の実の父親も、「娘はよく働いていた。だけどお前は、娘に金を使わせなかった。もっと自由に金が使えていたら、そして娘をもっと幸せにしてくれていたら、娘もあんな事故に遭わなくても済んだ」などとマットに愚痴を言います。
(注3)でも、柄の悪い言葉遣いをしたり、おかしな写真を同級生に見せたり、変なメールを送ったりする程度のこと。
(注4)アレックスは、「クリスマスに、ママは男といたんだよ。それでママと喧嘩したの。パパは気が付かなかったよね、仕事ばかりしていたから」と言い放ちます。
(注5)特に、劇場用パンフレットは、マウイ島やカウアイ島の地図付きであり、その他のハワイ情報も満載です!
(注6)妻の浮気の話を知って、昏睡状態で横たわっている妻に向って、「君は大嘘つきだ。私の人生を台無しにしている」などと詰ったりしていますから、マットが病室に籠り切りにならないのも分かりますが、他方で、浮気相手のスピアーに妻のことを知らせて見舞ってもらおうともします。それは、妻が会いたいだろうと思ってのことですから、妻に対する優しい気持もいまだ十分に持ってもいるのです。
(注7)スピアーが滞在しているカウアイ島のコテージの前の生垣からのぞき見をして、スピアーが妻と子供と3人でそこにいることを知ります。
(注8)ハワイの土地制度の歴史については、このサイトの記事によれば次のようです。
ハワイ王国のカメハメハ3世(治世は1832年~1855年)の時に制定されたマヘレ法(1848年)によって、ハワイの全ての土地は、カメハメハ王と245人の族長の間に分配され、さらに王の領地の大半はハワイ政府の所有する官有地とされ、その結果、王領23.8%、官有地37%、族長領地39.2%という割合になったようです。
さらに、1850年には、外国人による土地私有も認められたため、法律に強く、ある程度資金もあったハオレ(白人)たちは、対外債務を抱えていたハワイ政府から、格安で王領地や官有地の売却を受け、1862年までにはなんとハワイ全土の75%がハオレの個人所有になったとのこと。
(注9)開発業者ホリツァーの義弟がスピアーで、スピアーが不動産業者であることから、その開発業者に売却すれば、スピアーが土地の売却等を任せられるだろうことも判明してきます。マットは、スピアーが、土地のことから自分の妻に近づいたのではと疑います。
(注10)アメリカの雑誌「Forbes」のネット版に掲載されたDeborah L. Jacobs氏(Forbes Staff )による「George Clooney Makes Estate Planning Sexy」(2012.2.23)。
(注11)原作〔カウイ・ハート・ヘミングス著『ファミリー・ツリー』(堤朝子訳、ヴィレッジブックス)〕によれば、マットの銀行家の曽祖父が、カメハメハ大王最後の直系子孫と結婚して30万エイカーの土地を持つことになり、曽祖父は1920年にそれを信託財産にして亡くなり、それをマット達が受け継いだが、「昨年、父が亡くなり信託期間が終了しました」とのこと(同書P.61~)。
(注12)「信託の存続期間に上限がある。受益者とその相続人の生存期間にプラス21年で私的信託は終わる。その時点で信託は解消され清算されなければならない。これが私的信託の永久拘束禁止則(rule against perpetuity)である」(同志社大学法科大学院教授・藤倉皓一郎氏による「アメリカ法における私と公―公共信託の理論」から)。
(注13)このサイトの記事も、アメリカにおける同じような動きを述べています。
(注14)上記「注9 」を参照。
(注15)ここで引用した「Forbes」の記事においてロス教授は、信託期間が終わると、従兄弟達は土地の共有者(co-owners)になり〔法律用語では「tenancy in common 」〕、それぞれが財産の部分所有者になるものの、それは分割できない持ち分(an undivided interest)であり、反対者が一人でもいたら売却も何もできなくなってしまい、従兄弟達の間で喧嘩騒ぎが引き起こされる可能性がある、と述べています。
(注16)妻が事故に遭遇して昏睡状態になったという事情から親族と会ったりするうちに、マットは売却話に乗らないことを決めますから、あながち二つの話につながりがないわけでもないでしょう。ですが、土地の売却を拒否することがそれほどご大層なこととは思えないところです。
★★★☆☆
象のロケット:ファミリー・ツリー