映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ザ・マジックアワー

2008年07月20日 | 08年映画
「ザ・マジックアワー」を近くの吉祥寺で見てきました。

 前作の「有頂天ホテル」のような作品に過ぎないのでは、とあまり期待せずに見たところ、今回の作品は、前作よりもズット面白く出来上がっているように思いました(素直に笑える場面が多かったと思います)。

 粉川哲夫氏が、従前の三谷作品は、「ある意味で「演劇的」なのだが、もっと正確に言えば、演劇の舞台を中継放送しているのを見る感じ」だったが、「今回は、そういう薄膜をさっぱり剥ぎ取り、演技や演出のプロセスのなかに観客を引き込む」、と高く評価していますが、まずそんなところかな、と思いました。

 とはいえ、随分とお金をかけたコメディだな、コメディだったらそんなにお金をかけない方がコメディらしいのでは、と思ったりしました。

 配役は、亡くなった市川崑監督とか柳沢真一(JAZZシンガー)などを含め実に錚々たるメンバーを揃えていますし(「僕の彼女はサイボーグ」の綾瀬はるかも、重要な役どころで出演しています)、また、セットも凝りに凝っています〔「セット」が凝っているといっても、「セット」らしく凝っているということで、だからこそ、主人公(大根役者という設定)は映画の撮影と思い込んで、役者ではないやくざの親分と渡り合ったり出来るのでしょう!〕。
 ですが、やっていることがいい加減だったら、俳優陣もセットもいい加減の方がピッたる来るのではないでしょうか?それを、お金をかけることによって、過去の映画とか監督に対するオマージュだとかなんとか至極真面目な要素をちりばめるものですから、笑いにもブレーキがかかるというものです。

 としても、主演の佐藤浩市は、それまでの血気盛んな若者というイメージをかなぐり捨ててコメディに取り組んでいますし(昔はそうは思いませんでしたが、お父さんの三国連太郎と顔つきが実によく似ています)、妻夫木聡も、「演技や演出のプロセスのなかに観客を引き込む」上で重要な役柄をうまくこなしています。

 といったようなことで、総合すれば、マア合格点なのかな、と思いました。

歩いても、歩いても

2008年07月13日 | 08年映画
 「歩いても、歩いても」を澁谷のアミュズCQNで見てきました。

 監督の是枝裕和氏については、「ワンダフルライフ」や「DISTANCE」、「誰も知らない」で知っていたので、今回の映画が公開されたら是非見たいものだと思っていました。

 この映画では、実に淡々と描かれていた「ぐるりのこと」に輪をかけて何も起きません。長男の命日に両親の家に子供たちが集まった一日を、どこでも見かけるような一日として描き出しているに過ぎません(是枝監督のこれまでの作品は、どれもかなり特異な状況が設定されていましたが、今回の映画はごく普通のシチュエーションが設けられています)。

 それでいて、少しも「退屈」ではなく、モットモットこの雰囲気を味わいたいと観客に思わせます。といって、ほのぼのとした楽しげな雰囲気というわけではなく、逆に、子供たちと両親との関係は、表面は取り繕われていますが、それぞれの発する言葉やしぐさの一つ一つから波乱の予感が醸し出され、緊張感に溢れているのです。
 それが、重厚に練り上げられた画面の中にしっかり捉えられているので、事件が何一つ起こらず、かつ2時間近い上映時間であっても、マッタク飽きることがありません。

 これに対して、前田有一氏は、「たった1日にしてはあまりに出来事、すなわち動きが多すぎる。やたらと濃厚な24時間は、リアリティに欠ける事甚だしい」と厳しい批判を浴びせます。
 ですが、長男の命日(15周忌)に、長女や次男が、それぞれの連れ合いや子供まで連れて集まるわけですから、このくらい「濃厚」であっても何ら不思議ではないと思いますし、何より濃厚だとされる「出来事」にことさらなものは何もないのです。

 特に、前田氏は、「「こういう家族あるよね、ね、ね?」とひっきりなしに同意を求められているようで、大変うざったい」と述べていますが、そんなことより、それぞれの登場人物が話す言葉とか仕草・身振り一つ一つに込められた意味を探ろうとしながら見ていると、是枝氏がいわゆる「ホームドラマ」(「あるある感」が重要な要素となる)を提示しようとはしていないことが分かってくるというものです。

 いわゆる「ホームドラマ」というよりも、むしろ、この映画は、「死」を裏から絶えず描き出そうとしているのではと、私には思えました。一番深いところで蟠っているのは、勿論、期待されていた長男の死ですが、それだけでなく、高齢になった両親(原田芳雄と樹木希林)もそれぞれ自分の死を意識しますし、次男(阿部寛)と一緒になる女性(夏川結衣)も、連れてきた子供を見るたびに死んだ夫のことが脳裏に浮かびます。前の家の奥さんも、心筋梗塞で倒れました。でも、日常生活は、淡々と進んでいきます。

 一時は興行成績がアップし洋画を追い抜いたと意気軒昂だったのが、その後乱作気味になって質が低下しのではと思っていましたら、「接吻」、「ぐるりのこと」、「休暇」、そしてこの映画と、最近また大層良質の邦画を何本も見ることが出来るようになったように思います。