映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

実録・連合赤軍

2008年04月06日 | 08年映画
 「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」をテアトル新宿で見ました。

 監督の若松孝二氏の前衛的ピンク映画を昔ヨク見たことがあることから、久しぶりの作品というので昨年から心待ちにしていました。

 映画は、1960年代後半の学生運動が、当局の取締まり体勢が充実するにつれて、追い詰められ次第に先鋭さを増していく中で、超過激な赤軍派が生まれ、彼らは群馬県の山中で軍事訓練をし、その過程で“総括”という形で仲間を次々と粛清、最後は「あさま山荘」に至るというものです。

 2002年に役所広司主演で製作された映画「突入せよ!あさま山荘事件」は、警察側からこの事件を捉えているのに対し、こちらは活動家側からのみ描かれています〔「突入せよ」は、例の佐々淳行氏をプレイアップするだけの映画と思え、全く見る気がしませんでした〕。

 「Always 三丁目の夕日」のように40年前に戻るだけのノスタルジックな映画なのか、と危惧していましたが〔満員の観客の大部分は年配者でした!〕、ヨク考えてみれば、こちらは学生運動に入り込んだ経験はないノンポリ学生でしたから、戻るべき地点などあるはずもないわけです。
 冒頭に当時のニュース映像が映し出されるものの、実際にストーリーが展開されてくると、マスコミで報道された様々の出来事の裏側(活動家側の視点から見えてくるもの)の異常な様子が、現時点での出来事のようにこちらに突きつけられます。映画で演じられていることが決して40年前の出来事とは思えず、オウム真理教の裏側とか、おそらくはアルカイダの実情もあるいはコウなのかもしれない、現在でもどこかでなされている事柄なのでは、などと思えてきます。

 唯一歴史を感じさせるのは、その古色蒼然とした言葉遣いでしょう。彼らが、「自分たちは共産主義者だ」とか「世界革命に勝利する」、「ひとりひとりの共産主義化」などなどといくら絶叫してみても、現時点では全く実態を伴わない内容空疎なものとなっていて、例えば「イスラム原理主義」などという言葉に簡単に置き換え可能で、むしろそのほうが現実味を増すかもしれません。

 とはいえ、「実録」と銘打っているものの、あくまでもフィクションであることは間違いありません(坂井真紀が演じる遠山美枝子を巡る物語は、この作品のメインであり、なかなかよくできていると思います)。さまざまのシーンに若松監督の赤軍派にたいする思いといったものが入り込んでいることでしょう。

 キャスト、スタッフとも渾身の力を振り絞って映画を製作したであろうことが画面からこちらに十分伝わってきます。それで“つぶあんこ”氏は、「日本人なら必見の力作と断言する」とまで述べていますが(注)、それはいくらなんでも大袈裟過ぎるとしても、近来稀に見る力作であることは間違いないと思います。
 なにしろ190分の長尺にもかかわらず、最後までダレルことなく観客をひきつけて見させてしまうのですから。 

(注)“つぶあんこ”氏が、「3時間を超える長尺を持ってしても描き足りないだけの事実が、一連の事件にはあるのだと気づかされ」るとか、永田洋子について「悪女が権力を握ると、男の独裁者より歯止めが利かなくなる、歴史の必然がまさに再現されている様で興味深い」とか述べていますが、いつもの同氏の映画評に比べて何故か大層ユルユルになっているなと思われます(いくらなんでも「悪女」はないでしょうに!)。