『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』を新宿武蔵野館で見ました。
(1)これは、アメリカで大評判を取ったドキュメンタリー作品ということで見に行きました。前回は休日に見に行ったところ満席だったので今回は平日にしたら、それでもほぼ満席状態でした。
本作(注1)は、タイムシェア(共同所有)リゾートビジネスであてて一躍大富豪(注2)となったデヴィッド・シーゲルが、元ミセス・フロリダのジャッキーと結婚して(注3)、豪奢な生活を送っていたところでリーマン・ショック(2008年9月)に遭遇し、一転してシーガルの会社は巨額の負債(1200億円)を抱えるはめになり(注4)、二人の生活が激変するという次第を描いたものです。
なかでも見ものは、「ベルサイユ」と名付けられた大邸宅。

ジャッキーが、「昔はトイレが1つ寝室が3つという狭い家に住んでいたが、それに比べて今住んでいる家は2415㎡あり、トイレも17あるほど広い(注5)。にもかかわらず、物が入りきらないために、近くに新しい家を建築中だ」として、まだ完成していない家の中を案内するのですが、その規模たるや途轍もないものです。
外観は、フランスのベルサイユ宮殿とラスベガスにあるパリス・ラスベガスを重ね合わせたもので、10のキッチン、15のベッドルーム、500人収容できる大舞踏場などが内部にあり、また外には観覧席のあるテニスコートとかフルサイズの野球場まで設けられるのです。
全体で8361㎡、総工費100億円とされ、アメリカ最大の一戸建て住宅となるところでした(2006年に建設着手)。
ですが、6割ほど完成したところで資金が途絶えて、建設が中断してしまいます。
本作は、あるアメリカの大富豪とその妻が絶頂を迎えた途端に奈落に落ちる様を描いたドキュメンタリー作品で、その副題に「大富豪の華麗なる転落」とあるので、どんな転落ぶりが描き出されるのかなとミーハーとして興味津々だったところ、実際には、急降下したとはいえ主人公に収入がなかったわけではなく、むろん以前の豪勢な暮らしは無理としても、あいかわらず庶民とはかけ離れた生活ぶりを見せつけられるので、拍子抜けしてしまいました。
(2)確かに、シーゲルの会社では数千人の従業員を解雇し、所有する資産のかなりのものを売却し、19人いた家政婦を3人に減らしたりしているものの(注6)、あいかわらずこれまでどおりの豪邸暮らしを続けています。
そればかりか、ジャッキーは、「節約」と称してリムジンをマクドナルドに横付けして、これからはナゲットも食べなくてはなどと言ったりします。
さらには、シワ取りのためのボトックス注射を欠かしませんし、ウォルマートで買い物するといっても、同じようなものを無駄にいくつも買ってくる有り様。
家が差し押さえられている高校時代の友人のティナに(低所得のため、車が買えず、クレジットカードも持てない)に5000ドル贈ったりもします(注7)。
あるいは、ジャッキーは、「30万ドルの家に住むことになって寝室が4つになってしまっても、2段ベッドで寝ればいい」と言い放ちます。
本作と比べるとしたら、ドキュメンタリー作品ではありませんが、最近では何と言っても『ブルージャスミン』でしょう(注8)。
なにしろ同作は、主人公のジャスミンが、ニューヨークで豪勢な暮らしを送っていたところ、夫の事業の失敗によって無一文になってサンフランシスコで暮らす妹を頼るというものなのですから。そして本作と同様、無一文になってもなかなかそれまでの生活が忘れられずにいろいろな失敗を犯してしまうという点でも、類似するところがあります。
でも、大きく異なる点は、同作においてジャスミンの夫は、詐欺容疑でFBIに逮捕されて自殺してしまうのですが、本作のジャッキーは、8人の子どもとともにしっかりと夫を捕まえて放さないでいるところでしょう(注9)!
(3)渡まち子氏は、「成金夫婦の転落を描いているのに、終わってみれば、なかなかいい家族ドラマを見たような気がしてしまった」として60点をつけています。
渡辺祥子氏は、「どこかがズレた感覚をふりまく合間に覗くジャッキーの金銭への執着とその反対の無頓着。これはアメリカンドリームの付属品?いずれにしても大きすぎるスケールがゴージャスで笑える」として★4つ(見逃せない)をつけています。
島田映子氏は、「決して立ち止まらない飽くなき消費欲をご堪能下さい。ぜってー真似できないし、したいとも思わないけどさw」と述べています。
(注1)本作の監督は、ローレン・グリーンフィールド。彼女は監督インタビューにおいて、「この映画は、ベルサイユ建設計画についてのコメディとして始まりますが、デヴィッドとジャッキーが金融危機の圧力に対処していくにつれて、悲劇へと変化していきます。それは、家や夢を失うという現実に直面した、あらゆる社会経済レベルの家族たちと同じなのです」などと述べています。
なお、本作の概要については、このサイトの記事が大層参考になると思います。
(注2)その純資産額は1800億円とされています。
ところで、本作の劇場用パンフレット掲載の竹田圭吾氏のエッセイ『クィーンの悲喜劇、ニューリッチ王国の虚栄』によれば、アメリカにおける「格差の現実は凄まじ」く、「所得が最も多い上位1%の国民(スーパーリッチ)が占有する全体所得の割合」は「リーマン・ショック直前の07年には23・5%に達していた」とのこと。
こうしたことが背景になって、アメリカでは、本作について「全米最大のレビューサイト・Rotten Tomatoesで94%という驚異の満足度を記録した」そうですし(この記事)、またフランスの経済学者トマ・ピケティが書いた『Capital in the Twenty-First Century』〔資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも基本的に大きいことなどを主張:なお、このサイトの記事を参照してください〕がベストセラーになったのでしょう!
ちなみに、メリカほど格差が開いていないとされる日本では、本書の翻訳本は本年末に刊行されるようですが(この記事)、果たしてその売れ行きはどうなるでしょうか?
(注3)2000年に31歳の年の差ながらも結婚(65歳と34歳で再婚者同士)。
映画の撮影開始時(2007年)は、72歳と42歳ということでしょう。
(注4)上記「注1」で触れたサイトの記事によれば、タイムシェアの対象となるリゾートマンションの購入費用(年に1週間利用できる権利の購入)は2万5000ドル。購入者は申込時に約10%の手付金を支払い、残金は10年間の分割払いとなります。他方で、シーゲルの会社「ウェストゲート」は、約5%の利率で金融機関から融資を受け、それを購入者に18%の利率で貸し付けています〔このような高い金利にもかかわらず「ウォルマートのお客さん」(劇場用パンフレット掲載の町山智浩氏のエッセイ「アメリカン・ドリームの首領シーゲル」より)が借りたのは、利用権を転売したら価格の上昇によって返済できると見込まれたからでしょう〕。
ただ、金融機関がウェストゲートに融資をしている間は、同社はその金利差だけの利益を獲得できますが、リーマン・ショックにより金融機関から同社が融資を受けられなくなると、収益があげられなくなるどころか資金自体がショートしてしまうでしょう。
(注5)フロリダ州オーランド近郊の湖に面する「シーガル・アイランド」という邸宅。
上記「注1」で触れたサイトの記事によれば、新しい邸宅「ベルサイユ」は、「シーガル・アイランド」から8㎞離れたところに位置するとのこと。
ちなみに、オーランドに新邸宅があるために、「その窓からデズニー・ワールドの花火が見える」とジャッキーは説明したのでしょう。
(注6)シーゲル夫妻には7人の子どもがいて、さらに一人養子としてもらっていますから、その面倒を見るだけでも何人かの家政婦は必要かもしれませんが。

(注7)後から、家は取り戻せなかったとの電話がティナからかかってきます。
(注8)本作の前半で描かれるシーゲル夫妻の豪奢な生活ぶりは、ニューリッチのド派手な暮らしぶりという点で、『華麗なるギャッツビー』とか『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で描かれているものと類似していますが(大邸宅、プライベートジェット、大型クルーザー!←上記「注2」で触れた竹田氏のエッセイに依ります)。
(注9)余りに金銭感覚が麻痺してしまっているジャッキーに対して、どうもデヴィッドは嫌気がさしているようです。
仕事から帰って家に入ると、どこもかしこも電気が煌々と点いているのに怒り、「不要の電気を消せ」と言って自分の書斎に入ってしまい、食事もそこで取るようになってしまいます。ですが、ジャッキーは夫の言っていることが理解できずに、夫が怒っているのは家族の愛情の示し方が足りないせいだと考えて、自分が言うばかりか、子どもにまで夫に対して「愛している」と言うように求めます。これに対して、デヴィッドの方はうるさがり、「不要な電気は消せ」と繰り返すばかりです。
★★★☆☆☆
象のロケット:クィーン・オブ・ベルサイユ
(1)これは、アメリカで大評判を取ったドキュメンタリー作品ということで見に行きました。前回は休日に見に行ったところ満席だったので今回は平日にしたら、それでもほぼ満席状態でした。
本作(注1)は、タイムシェア(共同所有)リゾートビジネスであてて一躍大富豪(注2)となったデヴィッド・シーゲルが、元ミセス・フロリダのジャッキーと結婚して(注3)、豪奢な生活を送っていたところでリーマン・ショック(2008年9月)に遭遇し、一転してシーガルの会社は巨額の負債(1200億円)を抱えるはめになり(注4)、二人の生活が激変するという次第を描いたものです。
なかでも見ものは、「ベルサイユ」と名付けられた大邸宅。

ジャッキーが、「昔はトイレが1つ寝室が3つという狭い家に住んでいたが、それに比べて今住んでいる家は2415㎡あり、トイレも17あるほど広い(注5)。にもかかわらず、物が入りきらないために、近くに新しい家を建築中だ」として、まだ完成していない家の中を案内するのですが、その規模たるや途轍もないものです。
外観は、フランスのベルサイユ宮殿とラスベガスにあるパリス・ラスベガスを重ね合わせたもので、10のキッチン、15のベッドルーム、500人収容できる大舞踏場などが内部にあり、また外には観覧席のあるテニスコートとかフルサイズの野球場まで設けられるのです。
全体で8361㎡、総工費100億円とされ、アメリカ最大の一戸建て住宅となるところでした(2006年に建設着手)。
ですが、6割ほど完成したところで資金が途絶えて、建設が中断してしまいます。
本作は、あるアメリカの大富豪とその妻が絶頂を迎えた途端に奈落に落ちる様を描いたドキュメンタリー作品で、その副題に「大富豪の華麗なる転落」とあるので、どんな転落ぶりが描き出されるのかなとミーハーとして興味津々だったところ、実際には、急降下したとはいえ主人公に収入がなかったわけではなく、むろん以前の豪勢な暮らしは無理としても、あいかわらず庶民とはかけ離れた生活ぶりを見せつけられるので、拍子抜けしてしまいました。
(2)確かに、シーゲルの会社では数千人の従業員を解雇し、所有する資産のかなりのものを売却し、19人いた家政婦を3人に減らしたりしているものの(注6)、あいかわらずこれまでどおりの豪邸暮らしを続けています。
そればかりか、ジャッキーは、「節約」と称してリムジンをマクドナルドに横付けして、これからはナゲットも食べなくてはなどと言ったりします。
さらには、シワ取りのためのボトックス注射を欠かしませんし、ウォルマートで買い物するといっても、同じようなものを無駄にいくつも買ってくる有り様。
家が差し押さえられている高校時代の友人のティナに(低所得のため、車が買えず、クレジットカードも持てない)に5000ドル贈ったりもします(注7)。
あるいは、ジャッキーは、「30万ドルの家に住むことになって寝室が4つになってしまっても、2段ベッドで寝ればいい」と言い放ちます。
本作と比べるとしたら、ドキュメンタリー作品ではありませんが、最近では何と言っても『ブルージャスミン』でしょう(注8)。
なにしろ同作は、主人公のジャスミンが、ニューヨークで豪勢な暮らしを送っていたところ、夫の事業の失敗によって無一文になってサンフランシスコで暮らす妹を頼るというものなのですから。そして本作と同様、無一文になってもなかなかそれまでの生活が忘れられずにいろいろな失敗を犯してしまうという点でも、類似するところがあります。
でも、大きく異なる点は、同作においてジャスミンの夫は、詐欺容疑でFBIに逮捕されて自殺してしまうのですが、本作のジャッキーは、8人の子どもとともにしっかりと夫を捕まえて放さないでいるところでしょう(注9)!
(3)渡まち子氏は、「成金夫婦の転落を描いているのに、終わってみれば、なかなかいい家族ドラマを見たような気がしてしまった」として60点をつけています。
渡辺祥子氏は、「どこかがズレた感覚をふりまく合間に覗くジャッキーの金銭への執着とその反対の無頓着。これはアメリカンドリームの付属品?いずれにしても大きすぎるスケールがゴージャスで笑える」として★4つ(見逃せない)をつけています。
島田映子氏は、「決して立ち止まらない飽くなき消費欲をご堪能下さい。ぜってー真似できないし、したいとも思わないけどさw」と述べています。
(注1)本作の監督は、ローレン・グリーンフィールド。彼女は監督インタビューにおいて、「この映画は、ベルサイユ建設計画についてのコメディとして始まりますが、デヴィッドとジャッキーが金融危機の圧力に対処していくにつれて、悲劇へと変化していきます。それは、家や夢を失うという現実に直面した、あらゆる社会経済レベルの家族たちと同じなのです」などと述べています。
なお、本作の概要については、このサイトの記事が大層参考になると思います。
(注2)その純資産額は1800億円とされています。
ところで、本作の劇場用パンフレット掲載の竹田圭吾氏のエッセイ『クィーンの悲喜劇、ニューリッチ王国の虚栄』によれば、アメリカにおける「格差の現実は凄まじ」く、「所得が最も多い上位1%の国民(スーパーリッチ)が占有する全体所得の割合」は「リーマン・ショック直前の07年には23・5%に達していた」とのこと。
こうしたことが背景になって、アメリカでは、本作について「全米最大のレビューサイト・Rotten Tomatoesで94%という驚異の満足度を記録した」そうですし(この記事)、またフランスの経済学者トマ・ピケティが書いた『Capital in the Twenty-First Century』〔資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも基本的に大きいことなどを主張:なお、このサイトの記事を参照してください〕がベストセラーになったのでしょう!
ちなみに、メリカほど格差が開いていないとされる日本では、本書の翻訳本は本年末に刊行されるようですが(この記事)、果たしてその売れ行きはどうなるでしょうか?
(注3)2000年に31歳の年の差ながらも結婚(65歳と34歳で再婚者同士)。
映画の撮影開始時(2007年)は、72歳と42歳ということでしょう。
(注4)上記「注1」で触れたサイトの記事によれば、タイムシェアの対象となるリゾートマンションの購入費用(年に1週間利用できる権利の購入)は2万5000ドル。購入者は申込時に約10%の手付金を支払い、残金は10年間の分割払いとなります。他方で、シーゲルの会社「ウェストゲート」は、約5%の利率で金融機関から融資を受け、それを購入者に18%の利率で貸し付けています〔このような高い金利にもかかわらず「ウォルマートのお客さん」(劇場用パンフレット掲載の町山智浩氏のエッセイ「アメリカン・ドリームの首領シーゲル」より)が借りたのは、利用権を転売したら価格の上昇によって返済できると見込まれたからでしょう〕。
ただ、金融機関がウェストゲートに融資をしている間は、同社はその金利差だけの利益を獲得できますが、リーマン・ショックにより金融機関から同社が融資を受けられなくなると、収益があげられなくなるどころか資金自体がショートしてしまうでしょう。
(注5)フロリダ州オーランド近郊の湖に面する「シーガル・アイランド」という邸宅。
上記「注1」で触れたサイトの記事によれば、新しい邸宅「ベルサイユ」は、「シーガル・アイランド」から8㎞離れたところに位置するとのこと。
ちなみに、オーランドに新邸宅があるために、「その窓からデズニー・ワールドの花火が見える」とジャッキーは説明したのでしょう。
(注6)シーゲル夫妻には7人の子どもがいて、さらに一人養子としてもらっていますから、その面倒を見るだけでも何人かの家政婦は必要かもしれませんが。

(注7)後から、家は取り戻せなかったとの電話がティナからかかってきます。
(注8)本作の前半で描かれるシーゲル夫妻の豪奢な生活ぶりは、ニューリッチのド派手な暮らしぶりという点で、『華麗なるギャッツビー』とか『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で描かれているものと類似していますが(大邸宅、プライベートジェット、大型クルーザー!←上記「注2」で触れた竹田氏のエッセイに依ります)。
(注9)余りに金銭感覚が麻痺してしまっているジャッキーに対して、どうもデヴィッドは嫌気がさしているようです。
仕事から帰って家に入ると、どこもかしこも電気が煌々と点いているのに怒り、「不要の電気を消せ」と言って自分の書斎に入ってしまい、食事もそこで取るようになってしまいます。ですが、ジャッキーは夫の言っていることが理解できずに、夫が怒っているのは家族の愛情の示し方が足りないせいだと考えて、自分が言うばかりか、子どもにまで夫に対して「愛している」と言うように求めます。これに対して、デヴィッドの方はうるさがり、「不要な電気は消せ」と繰り返すばかりです。
★★★☆☆☆
象のロケット:クィーン・オブ・ベルサイユ