映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

そこのみにて光輝く

2014年05月09日 | 邦画(14年)
 『そこのみにて光輝く』をテアトル新宿で見ました。

(1)以前、この映画の原作者・佐藤泰志氏が書いた『海炭市叙景』の映画化作品を見てよかったこともあり、また監督が『オカンの嫁入り』の呉美保氏ということで、映画館に行ってみました。

 舞台は、『海炭市叙景』と同じように明示されませんが、函館市でしょう。
 映画の冒頭は、主人公の達夫綾野剛)が、畳の上にブリーフ一つで寝ているシーン。ですが、採石現場の悪夢にうなされて目を覚ましてしまいます。
 次いで、達夫は、郵便受けに投函されていた妹からの手紙を読みます(注1)。
 さらに場面は代わって、パチンコ屋。後ろ側の席にいた拓児菅田将暉)に「火貸して」と言われると、達夫は自分のライターを投げ与えます。
 すると、拓児は「飯を食わせる」と言って達夫を自分の家に連れて行きますが、途中で、拓児が「お前、仕事は?」と尋ねると、達夫は「別に、何も」と答えます。
 そして、到着した拓児の家はというと、海岸縁にある今にも壊れそうなおんぼろの一軒家。
 その家には、脳梗塞で寝たきりの父親・泰治田村泰二郎)や、その介護にあたっている母親・かずこ伊佐山ひろ子)、さらには拓児の姉・千夏池脇千鶴)がいます。
 達夫は、姉の千夏が作ったチャーハンをご馳走になるものの、隣の部屋では、泰治がうめきながら母親の名前を呼び続けたりしているのです。
 その時は、千夏と達夫との間で簡単な会話(注2)があっただけですが、しばらくしたある夜、達夫が泥酔してスナックに入ると、その奥で売春をしている千夏と偶然に遭遇。
 そんなこんなで達夫と千夏は関係を持つようになります。



 でも、達夫には悪夢が何度となく蘇ってきますし、正体不明の松本火野正平)が顔を見せ、「皆が会いたがっているぞ」などと言ったりします。また、千夏にも、うまく関係を断てない中島高橋和也)がいます。
 さあ、達夫と千夏、それに拓児の3人はどうなっていくのでしょうか、………?

 本作では、達夫と千夏、それに拓児の3人が、新しい関係を築こうとしても、それぞれが持っていたそれまでの関係が様々に絡んできて巧く達成できない様子(それでも、何かしら光明が見いだせないわけでもありませんが)が、酷く貧しい暮らしを背景にしてこれでもかという具合に描かれていて、久しぶりに優れた文芸物を見た気分になりました。

 主演の綾野剛は、一皮むけた入魂の演技をしているように思えます。



 また、共演の池脇千鶴も体当たりで充実した演技を見せてくれます。



 さらに、菅田将暉はトリックスター的な役柄を巧くこなしています(注3)。



(2)評論家の阿部嘉昭氏は、そのブログ「ENGINE EYE」で本作を取り上げていますが、その記事(2月11日)の中で「呉美保監督、高田亮脚本の映画は英断をおこなう。まず事後編を映画化対象から切断した」と述べているところ、実際に原作(河出文庫版)を読んでみると、阿部氏が「事後編」(注4)とされる「第二部 滴る陽のしずくにも」は、「出会い編」とされる「第一部 そこのみにて光輝く」とうまく融合されて本作の中に取り込まれています。

 例えば、本作に登場する松本(火野正平)は、原作の第一部ではなく第二部に登場して、達夫を東北の山に誘います(注5)。
 また、拓児が傷害事件を起こすのは、本作のように中島(高橋和也)に対してではなく、達夫と千夏の間に出来た子供のことを揶揄した街のチンピラに対してです(注6)。
 さらには、本作では、千夏がイカの塩辛の加工工場にパートで働いていますが、原作では、「第二部」において達夫が冷凍イカを扱う工場で働いています(P.122)。

 本作では、そうした「第二部」の要素が「第一部」の中に取り込まれることによって、登場人物がより一層息づいているように思いました(これは、脚本家の高田亮氏の手柄でしょう)。
 特に、達夫の元の職場を、原作のように造船所とするのではなく鉱山とし、そこで起きた事故がトラウマになって悪夢にうなされるという改変は、達夫が毎日酒を飲んでぶらぶらしている生活を送っていることにつき、より説得力を増していると思います。

 ただ、そういう改変を加えていくと、本作が描かれている時点がかなりぼやかされてしまうことにもなります。
 というのも、原作の達夫は、賃金カットや人員整理をする会社(「町一番の造船所」)を退職しますが、原作には「会社の組合は長期のストライキに突入した」と書かれているのです(P.34)。それが「函館どっく」の昭和34年(1959年)の争議を指しているのだとしたら、原作の時代設定は1960年代あたりなのではないでしょうか(注7)?

 他方、本作については、設定されている時点が明示されていないばかりか、今の風景がそのまま映し出されていることから、現在時点に立って制作されているのかなと思える半面、今どき、本作で描かれる拓児の家(注8)の余りの貧しさなどありうるのかな、どうも周りの風景に溶け込んでいないな、とも思えてきます。

 この点は、阿部嘉昭氏が、「無時間性の積極的な醸成によって、観客の平板な時間意識をゆるがすことが映画『そこのみにて光輝く』の主眼といってもいい」と述べている点に、あるいは通じるのかもしれません。
 要すれば、本作を見ると、「いったいこの映画は「いつ」をえがいているのか」という疑問が湧いてくるものの、「いまはない場所が「いまある」と映画で知覚されること」によって、「観客の眼の憂鬱を高度につくりあげる」ことになるのでしょう。

 なお、つまらない点ですが、映画の冒頭と末尾に、妹からの手紙が読み上げられますが、本作の場合この妹は、映画で描かれる中心的な物語には何ら関係しませんので、一体何のためにこのような構成にしたのかという感じになります(注9)。

(3)村山匡一郎氏は、「脚本・演出・撮影・演技が巧みに溶け合うことで物語世界を膨らませているのに驚かされる。脚本は2人の抱える心の苦しみや悩みを巧く展開して収斂させ、演出は心理を絵解きすることなく映像で提示することを志し秀逸である」などと述べて、★5つ(「今年有数の傑作」)を与えています。
 暉峻創三氏は、「呉美保監督にとっても、主演陣にとっても、キャリアを画す一作となった」と述べています。



(注1)妹の声で手紙の内容が読み上げられますが、それによれば、「自分が両親の遺骨を預かっているが、函館の街を見下ろせる墓地に葬りたい」とのこと。

(注2)千夏が達夫に話したところによれば、父親の泰治は脳梗塞ながら性欲が亢進してしまっているようで(「性欲を抑制する薬を使うと、脳がダメになってしまう(ために使えない)」)、その対応で母親・かずこらが悲惨な目に遭っているとのこと。

(注3)最近では、綾野剛は『白ゆき姫殺人事件』で見たばかりですし、池脇千鶴も『凶悪』や『はさみ』(同作には、今回の共演者の綾野剛も少しですが出演しています)で、菅田将暉は『共喰い』で、それぞれ見ています。

(注4)原作の「第二部」は、達夫と千夏の結婚後のこと(「「家庭の継続」に辛苦する「事後」」)が書かれているので、まさに「事後編」と呼べるでしょう。ただ、これから達夫が松本と山に入るところで終わっていることからすれば(さらに、本作を踏まえれば)、むしろ「展開編」ともいえ、山で事故に遭ってまた町に立ち戻ってくる「第三部」(書かれませんでしたが)こそが「事後編」というべきかもしれません(そしてまた、新たな“出会い”が始まってというように「第一部」に回帰するのかもしれません!)。

(注5)原作では、まず拓児が松本と出会い、次いで松本が所有する車を達夫に売ることで二人は出会うことになります〔松本は、父親が遺した鉱山の採掘権を持っている山師で(P.117)、発破によって片眼を失っています〕。

(注6)どちらでも同じように拓児は警察に自首します。

(注7)原作のP.119においても、松本が、達夫が造船所を辞めたことについて、「あんたはドックをやめたそうだね」、「例の有名な長期ストライキをうった時か」と尋ねると、達夫は「そうだ」と答えています。
 ただ、阿部嘉昭氏は、本作を取り上げたブログの記事において、「『そこのみにて光輝く』は「文藝」八五年一月号が初出だが、初出時期のひかりではなく、七〇年代のひかりを包含している」と述べています。
 また、劇場用パンフレット掲載のエッセイ「七〇年代の記憶、ニューシネマの記憶」で、高橋俊夫氏は、佐藤泰志の「作品世界には同時代(七〇年代)の映画のイメージや残滓が刻印されている」などと述べています。
 原作の設定が1960年代にせよ1970年代にせよ、現在よりもおよそ50年ほど前であることは間違いないのではと思います。

(注8)劇場用パンフレット掲載の「プロダクション・ノート」によれば、函館市に隣接する「北斗市七重浜」の物置を使用したとのこと。

(注9)妹は、原作者・佐藤泰志にとって酷く大切な存在なのでしょう。
 なお、この妹は、『海炭市叙景』に登場する「戻らない兄を待ち続ける妹」(谷村美月が演じました)に通じると思います。



★★★★☆☆


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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2014-07-02 22:56:43
> 久しぶりに優れた文芸物を見た気分になりました。

ダジャレで失礼。
「ふんげー」とか鳴き出しそうなミス・ピギーに何か肌のずんぐりむっくり感が池脇千鶴似てる気がする。
Unknown (クマネズミ)
2014-07-03 06:08:49
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
「文芸物」→「ふんげー」→「ミス・ピギー」→「池脇千鶴」という繋がりに目を見張ってしまいました!
でもそんなことを言ったら、ミス・ピギーから「空手」を伝授されているかもしれない池脇千鶴にこっぴどくやっつけられるかもしれませんよ!

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