『ミックス。』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。
(1)予告編で見て面白そうだと思って映画館に行ってきました。
本作(注1)の冒頭では、主人公の多満子(新垣結衣)が、あらぬことを呟きながら(注2)、お酒を浴びるように呑んで泣いています。
翌日、多満子は、ローカル線の列車に荷物を抱えて乗っています(注3)。
列車の中はガラガラで、たまたま乗り合わせていた萩原(瑛太)は、二日酔いの多満子の姿を見てか、あるいは何か魂胆があってか、女子高生が座っている席の方に移動します。
すると、多満子も席を萩原の方に移します。
その時、多満子は二日酔いがこうじて吐き気を催します。
萩原が席を立つと、列車が急ブレーキで大きく揺れて、萩原は多満子に倒れかかりますが、……。
画面は、多満子の回想。
母親(真木よう子)が、幼い多満子に卓球の猛特訓を行っています(注4)。
場所は、自分が創設した「フラワー卓球クラブ」。
でも、病に倒れた母親は、病床で多満子に、「卓球、止めていいよ」「平凡な人生が一番幸せだから」(「できれば続けてほしいけど」とも付け加えますが)と言います。
次いで、母親の葬儀の場面。
司会者が「故人に持っていってもらいたいものがあれば、棺の中にお入れください」と案内したところ、多満子は、卓球道具一式を棺の中にしまい込みます。
今や28歳になった多満子は、会社の事務員として平凡な生活を送っています。
ただ、多満子の声で、「相手の不在が、深刻な問題となりつつある」「人生に奇蹟は起きない」。
ある時、多満子は、山なす書類を腕に抱えて会社の廊下を歩いていたところ、バランスを崩して書類を廊下にぶちまけてしまいます。
それを、最近卓球選手として入社した江島(注5:瀬戸康史)が、親切にも拾ってくれたのです。
さらに、会社の卓球部の優勝祝賀会の後、多満子が独りで後片付けをしていたところ、江島がやってきて、「目の前で女性が力仕事をしているのを無視できない」と言って、手伝ってくれます。
カフェでデートをした時、多満子が「卓球は全然わからない」と言うと、江島は「それが良いんだ」と応じます。
さらに多満子は、江島に弁当を作ったり、クリスマスにはマフラーを作ってプレゼントしたりします。お返しに、江島は、部屋の鍵を多満子にプレゼントします。
ですが、江島が、ミックスでペアを組むことになった小笠原(永野芽郁)と部屋で抱き合っているところを、多満子は目撃してしまいます。
多満子は、会社に退職届を提出して、父親(小日向文世)のいる実家に戻ることとします。
その帰りの列車で、多満子は萩原と出会うことになるのですが、………。
こんなところが本作の始めの方ですが、さあ、これからどのように物語は展開するのでしょうか、………?
本作は、失恋して田舎に逃げ帰った元天才卓球選手と、引退して田舎の現場で土木作業員になっている元プロボクサーが、全日本卓球選手権大会に出場しようとして、云々というお話。よく見かけるスポーツ物といった感じでストーリーは進行していき、結末もお定まりのものになるのですが、今が旬の新垣結衣をふんだんに見ることが出来るので、こんな他愛のない作品でもまあいいかというところでしょう。
(2)世界卓球における日本選手のこのところの躍進ぶり(注6)があってこうした映画が制作されたことと思いますが(注7)、今が旬と思える新垣結衣の頑張りもあって、まずまず面白い作品に仕上がっています。
それに、新垣結衣が扮する多満子の相手役・萩原を演じる瑛太も、その持ち味を上手く発揮しているように思いました。
さらに、フラワー卓球クラブのメンバーで多満子をよく知り、多満子を「お嬢」と呼ぶ吉岡を演じる広末涼子もなかなか頑張っています。
加えて、フラワー卓球クラブのメンバーが行きつけの四川料理店の店員・楊役の蒼井優のはじけっぷりはものすごいものがあり、目を見晴ってしまいます。
ただ、萩原がボクシングでサウスポーであり、卓球のミックスで有利な左打ちが出来るとしても、そしていくら猛特訓をするとしても、あれほどの短期間(2年弱)で、予選大会の決勝まで勝ち抜ける力をつけることが出来るのか、そしてその決勝戦で、全国制覇も夢ではない江島・小笠原ペアと接戦を演じてしまえるのか、という点には首を傾げたくなってしまいます(注8)。
でも、生瀬勝久が扮するジェーン・エスメラルダ(注9)というようなキャラクターが多満子と萩原の対戦相手に登場するファンタジックな要素を持っている本作に、そんなことを言ってみても野暮の極みでしょう(注10)。
(3)渡まち子氏は、「スポーツ映画としても、ラブストーリーとしても、コメディーとしても、今一つ突き抜けていないが、小ネタで楽しませるサービス精神は旺盛。TVドラマ「リーガルハイ」などの売れっ子脚本家・古沢良太の嫌味のない脚本で、薄く浅く、軽く楽しく過ごせる作品だ」として55点を付けています。
稲田豊史氏は、「予告編を観た多くの観客が想像するであろう展開のほとんどその通りに、実際の本編も進行します。もちろんストーリーの細かい部分までは想像できないでしょうが、「観た後にはきっとこんな感情が湧き上がってくるだろう」という観客の予想と期待は、大方はずれません。映画の最後には、予告編を観た多くの観客が頭に浮かべる「こうなったらいいな」を、9割がた裏切らない結末が待っています」と述べています。
(注)監督は石川淳一。
脚本は、『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』などの古沢良太(本作も、同氏のオリジナル脚本)。
なお、出演者の内、最近では、新垣結衣は『くちびるに歌を』、瑛太と遠藤憲一は『土竜の唄 香港狂騒曲』、広末涼子は『想いのこし』、永野芽郁は『帝一の國』、蒼井優は『アズミ・ハルコは行方不明』、真木よう子は『ぼくのおじさん』、吉田鋼太郎は『三度目の殺人』、生瀬勝久は『疾風ロンド』、小日向文世は『サバイバルファミリー』で、それぞれ見ました。
(注2)多満子は、「実は、私、結婚するの」「前からプロポーズを受けていて、私の方が、根負け」「ごめんなさい、あなたを捨てることになって」「相手は、年収4000万のお医者さん」「明日からプロバンスに」などと、ぬいぐるみを相手に呟きます。
(注3)神奈川県内を走るローカル線で、萩原が「山彦駅」(架空)で降りてタクシーに乗ると、その運転手は多満子の父親です。多満子の母親が創設した「フラワー卓球クラブ」もそこらあたりにあるのでしょう。
(注4)多満子の声で、「その球技は、人生における真理をいくつか教えてくれる。「栄光は、人生を狂わせる」「親というのは、我が子を天才と思いがち」「この地獄からいつか王子様が救い出してくれる、というような奇蹟は起こらない」「大切なことを気づいた時はおそすぎる」」、というナレーションが間を置いて挿入されます。
(注5)多満子は、幼い時に出場した全国大会で3位でしたが、その時江島も出場していて優勝していて、実は多満子の方は江島を知っているのです。
(注6)この記事によれば、「1952年~59年の間に日本が優勝した種目数は24。佐藤博治、荻村伊智朗、田中利明、大川とみ、江口冨士枝、松崎キミ代――6人の世界チャンピオンが生まれ、男子団体で世界卓球5連勝を達成した。1950年代、日本の卓球は黄金時代だったのだ」とのこと。
その後随分と長い暗黒時代が続きますが、このところ、日本勢が大躍進を遂げています。
例えば、この記事によれば、「6月5日に閉幕した卓球の世界選手権個人戦(ドイツ・デュッセルドルフ)で、日本は金1、銀1、銅3の大躍進を遂げた。メダル5個以上の獲得は1975年コルカタ大会以来、42年ぶり」とのこと。
本作においては、水谷隼選手や石川佳純選手、伊藤美誠選手といったトップクラスの現役選手が出演しています。
(注7)クマネズミがこれまでに見た卓球物としては、韓国映画の『ハナ』があるくらいです。
そういえば、『ボン・ボヤージュ~家族旅行は大暴走~』では、交通警察の隊長が卓球にうつつを抜かしていました。
(注8)ただ、10月29日放映の『ワイドナショー』(フジテレビ)に出演したボクシングの世界チャンピオンの長谷川穂積氏は、「卓球で、高齢者の中で一番になりたい」と言っていました。
ネットで調べてみると、こんな記事も見つかります。
となると、本作の萩原のように、ボクシングの選手が卓球に転向することは、あながち荒唐無稽でもなさそうです。
それに、長谷川選手は、萩原を演じる瑛太とほぼ同年齢の36歳です。
ですが、『ワイドナショー』において長谷川氏は、「中学の頃、卓球をやってました」と答えています。
他方、本作の萩原にはそうした背景が描かれていません(一から、多満子の指導を受けています)。
やはり、萩原が短期間で大会に出場するのは難しいのではと思えるのですが。
(注9)このサイトをご覧ください。
(注10)劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事において、脚本の古沢良太氏は、「映画としても本当に真っすぐお客さんの心に届く王道の作品になっていて、観ていただいた方に気持ちよくなってもらえるかなと思います」と述べていますが、マアそんなところではないかと思います。
★★★☆☆☆
象のロケット:ミックス。
(1)予告編で見て面白そうだと思って映画館に行ってきました。
本作(注1)の冒頭では、主人公の多満子(新垣結衣)が、あらぬことを呟きながら(注2)、お酒を浴びるように呑んで泣いています。
翌日、多満子は、ローカル線の列車に荷物を抱えて乗っています(注3)。
列車の中はガラガラで、たまたま乗り合わせていた萩原(瑛太)は、二日酔いの多満子の姿を見てか、あるいは何か魂胆があってか、女子高生が座っている席の方に移動します。
すると、多満子も席を萩原の方に移します。
その時、多満子は二日酔いがこうじて吐き気を催します。
萩原が席を立つと、列車が急ブレーキで大きく揺れて、萩原は多満子に倒れかかりますが、……。
画面は、多満子の回想。
母親(真木よう子)が、幼い多満子に卓球の猛特訓を行っています(注4)。
場所は、自分が創設した「フラワー卓球クラブ」。
でも、病に倒れた母親は、病床で多満子に、「卓球、止めていいよ」「平凡な人生が一番幸せだから」(「できれば続けてほしいけど」とも付け加えますが)と言います。
次いで、母親の葬儀の場面。
司会者が「故人に持っていってもらいたいものがあれば、棺の中にお入れください」と案内したところ、多満子は、卓球道具一式を棺の中にしまい込みます。
今や28歳になった多満子は、会社の事務員として平凡な生活を送っています。
ただ、多満子の声で、「相手の不在が、深刻な問題となりつつある」「人生に奇蹟は起きない」。
ある時、多満子は、山なす書類を腕に抱えて会社の廊下を歩いていたところ、バランスを崩して書類を廊下にぶちまけてしまいます。
それを、最近卓球選手として入社した江島(注5:瀬戸康史)が、親切にも拾ってくれたのです。
さらに、会社の卓球部の優勝祝賀会の後、多満子が独りで後片付けをしていたところ、江島がやってきて、「目の前で女性が力仕事をしているのを無視できない」と言って、手伝ってくれます。
カフェでデートをした時、多満子が「卓球は全然わからない」と言うと、江島は「それが良いんだ」と応じます。
さらに多満子は、江島に弁当を作ったり、クリスマスにはマフラーを作ってプレゼントしたりします。お返しに、江島は、部屋の鍵を多満子にプレゼントします。
ですが、江島が、ミックスでペアを組むことになった小笠原(永野芽郁)と部屋で抱き合っているところを、多満子は目撃してしまいます。
多満子は、会社に退職届を提出して、父親(小日向文世)のいる実家に戻ることとします。
その帰りの列車で、多満子は萩原と出会うことになるのですが、………。
こんなところが本作の始めの方ですが、さあ、これからどのように物語は展開するのでしょうか、………?
本作は、失恋して田舎に逃げ帰った元天才卓球選手と、引退して田舎の現場で土木作業員になっている元プロボクサーが、全日本卓球選手権大会に出場しようとして、云々というお話。よく見かけるスポーツ物といった感じでストーリーは進行していき、結末もお定まりのものになるのですが、今が旬の新垣結衣をふんだんに見ることが出来るので、こんな他愛のない作品でもまあいいかというところでしょう。
(2)世界卓球における日本選手のこのところの躍進ぶり(注6)があってこうした映画が制作されたことと思いますが(注7)、今が旬と思える新垣結衣の頑張りもあって、まずまず面白い作品に仕上がっています。
それに、新垣結衣が扮する多満子の相手役・萩原を演じる瑛太も、その持ち味を上手く発揮しているように思いました。
さらに、フラワー卓球クラブのメンバーで多満子をよく知り、多満子を「お嬢」と呼ぶ吉岡を演じる広末涼子もなかなか頑張っています。
加えて、フラワー卓球クラブのメンバーが行きつけの四川料理店の店員・楊役の蒼井優のはじけっぷりはものすごいものがあり、目を見晴ってしまいます。
ただ、萩原がボクシングでサウスポーであり、卓球のミックスで有利な左打ちが出来るとしても、そしていくら猛特訓をするとしても、あれほどの短期間(2年弱)で、予選大会の決勝まで勝ち抜ける力をつけることが出来るのか、そしてその決勝戦で、全国制覇も夢ではない江島・小笠原ペアと接戦を演じてしまえるのか、という点には首を傾げたくなってしまいます(注8)。
でも、生瀬勝久が扮するジェーン・エスメラルダ(注9)というようなキャラクターが多満子と萩原の対戦相手に登場するファンタジックな要素を持っている本作に、そんなことを言ってみても野暮の極みでしょう(注10)。
(3)渡まち子氏は、「スポーツ映画としても、ラブストーリーとしても、コメディーとしても、今一つ突き抜けていないが、小ネタで楽しませるサービス精神は旺盛。TVドラマ「リーガルハイ」などの売れっ子脚本家・古沢良太の嫌味のない脚本で、薄く浅く、軽く楽しく過ごせる作品だ」として55点を付けています。
稲田豊史氏は、「予告編を観た多くの観客が想像するであろう展開のほとんどその通りに、実際の本編も進行します。もちろんストーリーの細かい部分までは想像できないでしょうが、「観た後にはきっとこんな感情が湧き上がってくるだろう」という観客の予想と期待は、大方はずれません。映画の最後には、予告編を観た多くの観客が頭に浮かべる「こうなったらいいな」を、9割がた裏切らない結末が待っています」と述べています。
(注)監督は石川淳一。
脚本は、『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』などの古沢良太(本作も、同氏のオリジナル脚本)。
なお、出演者の内、最近では、新垣結衣は『くちびるに歌を』、瑛太と遠藤憲一は『土竜の唄 香港狂騒曲』、広末涼子は『想いのこし』、永野芽郁は『帝一の國』、蒼井優は『アズミ・ハルコは行方不明』、真木よう子は『ぼくのおじさん』、吉田鋼太郎は『三度目の殺人』、生瀬勝久は『疾風ロンド』、小日向文世は『サバイバルファミリー』で、それぞれ見ました。
(注2)多満子は、「実は、私、結婚するの」「前からプロポーズを受けていて、私の方が、根負け」「ごめんなさい、あなたを捨てることになって」「相手は、年収4000万のお医者さん」「明日からプロバンスに」などと、ぬいぐるみを相手に呟きます。
(注3)神奈川県内を走るローカル線で、萩原が「山彦駅」(架空)で降りてタクシーに乗ると、その運転手は多満子の父親です。多満子の母親が創設した「フラワー卓球クラブ」もそこらあたりにあるのでしょう。
(注4)多満子の声で、「その球技は、人生における真理をいくつか教えてくれる。「栄光は、人生を狂わせる」「親というのは、我が子を天才と思いがち」「この地獄からいつか王子様が救い出してくれる、というような奇蹟は起こらない」「大切なことを気づいた時はおそすぎる」」、というナレーションが間を置いて挿入されます。
(注5)多満子は、幼い時に出場した全国大会で3位でしたが、その時江島も出場していて優勝していて、実は多満子の方は江島を知っているのです。
(注6)この記事によれば、「1952年~59年の間に日本が優勝した種目数は24。佐藤博治、荻村伊智朗、田中利明、大川とみ、江口冨士枝、松崎キミ代――6人の世界チャンピオンが生まれ、男子団体で世界卓球5連勝を達成した。1950年代、日本の卓球は黄金時代だったのだ」とのこと。
その後随分と長い暗黒時代が続きますが、このところ、日本勢が大躍進を遂げています。
例えば、この記事によれば、「6月5日に閉幕した卓球の世界選手権個人戦(ドイツ・デュッセルドルフ)で、日本は金1、銀1、銅3の大躍進を遂げた。メダル5個以上の獲得は1975年コルカタ大会以来、42年ぶり」とのこと。
本作においては、水谷隼選手や石川佳純選手、伊藤美誠選手といったトップクラスの現役選手が出演しています。
(注7)クマネズミがこれまでに見た卓球物としては、韓国映画の『ハナ』があるくらいです。
そういえば、『ボン・ボヤージュ~家族旅行は大暴走~』では、交通警察の隊長が卓球にうつつを抜かしていました。
(注8)ただ、10月29日放映の『ワイドナショー』(フジテレビ)に出演したボクシングの世界チャンピオンの長谷川穂積氏は、「卓球で、高齢者の中で一番になりたい」と言っていました。
ネットで調べてみると、こんな記事も見つかります。
となると、本作の萩原のように、ボクシングの選手が卓球に転向することは、あながち荒唐無稽でもなさそうです。
それに、長谷川選手は、萩原を演じる瑛太とほぼ同年齢の36歳です。
ですが、『ワイドナショー』において長谷川氏は、「中学の頃、卓球をやってました」と答えています。
他方、本作の萩原にはそうした背景が描かれていません(一から、多満子の指導を受けています)。
やはり、萩原が短期間で大会に出場するのは難しいのではと思えるのですが。
(注9)このサイトをご覧ください。
(注10)劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事において、脚本の古沢良太氏は、「映画としても本当に真っすぐお客さんの心に届く王道の作品になっていて、観ていただいた方に気持ちよくなってもらえるかなと思います」と述べていますが、マアそんなところではないかと思います。
★★★☆☆☆
象のロケット:ミックス。