『チェンジリング』以来のアンジェリーナ・ジョリーを見てみようと思って、『ソルト』を渋谷のシネパレスで見てみました。
(1)お話としては、アンジー扮する女スパイ・ソルトの八面六臂の働きによって、勃発寸前にまで突き進んだ世界大戦をなんとか未然に防ぐことができた、というものですが、スパイ物らしく、目まぐるしく立場が入れ替わったり破天荒な出来事が起きたりして、アレヨアレヨといううちにラストになってしまいます。
例えば、ギリギリまで追い詰められたソルトが、高層マンションの窓をつたって逃亡するシーンが映し出されますが、無論セットでの撮影であることは分かっていても、見ている方はハラハラします。何しろ、下を見たら足がすくんで一歩たりとも動けなくなることは必定の高さなのですから!
また、ソルトは、追手から逃れるために、トレーラーの屋根に飛び乗り、それが追手に見つかると、別の車の屋根に飛び移ります。両方の車ともスピードを出して走っているわけですから、そんなことをしたら簡単に振り落とされてしまうはずですが、類い稀なる運動神経の持ち主なのでしょう、ソルトは屋根にしがみつくことに成功してしまいます。
さらに、手錠を嵌められて乗せられたパトカーの中で、ソルトは、警固の警察官を倒した上で、電気ショックを運転手に与えながら、ものすごいカーチェイスに挑みます。これだけ様々の車に衝突したら、中のソルト自身がお陀仏になるに相違ありませんが、スパイとしての教育の成果でしょう、ナントカ脱出に成功します。
この映画は、元はトム・クルーズがやるはずだったところ、彼が降板したために、アンジーにお鉢が回ってきたとのこと。ただ、こうした激しいアクションも、男性俳優ならば最早見慣れたものでしょうが、アンジーだからこそ見ごたえがあるというものです。
それに、映画は、ソルトが北朝鮮に捕えられて拷問を受けるシーンから始まり、スパイ交換で西側に連れ戻されたとき、左目がやや潰されてしまっているところ、アンジーだからこそ見られるのではないでしょうか?
また、追手から逃げおおせると、今度は、典型的なロシアン・ファッションで船のデッキに立ったりしますが、これはトム・クルーズではまったく様にならないでしょう。
というような具合で、アンジーを見て楽しむ分には、大変面白くできた映画だと思いました。
ですから、上の階からシャンデリアとともに落下してきたロシア大統領は、それだけで助かるはずはないと思えるところ、さらに銃弾を撃ち込まれたにもかかわらず、しばらくしたら元気な姿がTVに映し出されるなんて(弾の中にはクモの毒が注入されていたから一時的ショックを受けただけって、ニホンザルの捕獲に使われた麻酔銃じゃあるまいし〔注〕!)などとチャチャを入れたりせずに、おおらかな気持ちで映画を楽しむべきでしょう!
それにしても、「今度のアンジーは300万カラットの煌きだぁと大声で叫びたくなるほど、“華麗な容姿”と“アクション”を見せてくれる」と言うのは全然かまいませんが、「必見!!」とまで言うとなると、熱中症にでも罹ってしまったのかとおすぎのことが心配になりますが!
〔注〕時事通信の記事によれば、台東区内で見つかったニホンザルに対して、上野動物園の職員が「麻酔銃や薬品を塗った「吹き矢」をそれぞれ2発ずつ打ち込み」捕獲したとのこと(8月13日)。
(2)この映画は、前日の記事で取り上げた『フェアウェル/さらば、哀しみのスパイ』と対比させると面白いかもしれません。
まず、この映画の主人公ソルトは、米国CIA職員ですが、『フェアウェル』の主人公グリゴリエフ大佐はソ連KGBの幹部です。
次にソルトは、諜報組織の業務の一つとされる要人の暗殺に取り組みますが、グリゴリエフ大佐は、本来的業務である機密情報の略取に長けています。
その暗殺の対象が米ロの大統領とされていますから、この映画にも、『フェアウェル』同様、トップが登場します。ただ、『フェアウェル』は30年ほど前の設定ですが、こちらは近未来の設定のためソックリさんは不要というところで、『フェアウェル』のように緊張感が途切れてしまうことはありません。
さらにソルトは、本来的にはソ連の特務機関で教育を受け米国に送られたスパイのはずですが、最終的には米国に忠誠を尽くします。他方、グリゴリエフ大佐も、各国の組織に潜入しているスパイのリストを西側に渡すことによって、ソ連の崩壊をもたらそうと努めます。
また、ソルトを最後まで庇う上司ウィンターが実はということになりますが、グリゴリエフ大佐の場合も、ことが発覚して彼の取り調べに当たっている元の同僚が実はということが明らかになります。
といった具合に、映画から受ける印象は180度違うといってもいいものの、内容的には意外と関連する部分があるのだなと思いました。
(3)評論家のこの映画に対する見解にはばらつきがみられます。
小梶勝男氏は、「アンジェリーナ・ジョリーが、走り、飛び、格闘し、銃を撃つ。全編、アクションが全く止まらない。この疾走感は実に見事」であり、「このスピード感を支えているのは、ジョリーを徹底的にアクションだけで見せる演出」であって、「むしろ、正体も内面も分からないまま、男女の違いなど超えて、精密機械のように行動するソルトを描くことで、サスペンスを維持しているのだと思う」が、ただ「残念だったのは、カメラが動きすぎて、せっかくのアクションがはっきりと見えないことだ」として74点を、
佐々木貴之氏は、「本作で観られるアクションは、ド派手で迫力満点な作品に比べるとややおとなしめではあるものの、目を見張るようなシーンがそれなりに用意されていて良いと言える」し、「もう一つの魅力は、アンジー姉さんの変化ぶりだ。最初は金髪だが、逃亡開始後に黒髪のクールビューティーに変身!! そんな黒髪アンジーが魅せるアクションは実にカッコいいし、決まっていると言い切っても良いほどだ」として70点を、
渡まち子氏は、「ヒロインの超絶タフネスぶりが際立つこの物語」だが、「つい最近でもスパイ同士の引渡し劇という、まるで映画のような事件が起こったばかり」、「こんな荒唐無稽な作品が、計らずも現実とリンクしてしまうところが、映画の面白さであり不確定要素だ」として55点を、
前田有一氏は、「いろいろと問題点はあるが、アンジェリーナ・ジョリー主演作らしい個性がない点が一番まず」く、「リアル系スパイアクションとしては、アイデアも格闘のスピード感もボーンシリーズの足元にも及ばず、007のような色気もしゃれっ気もない。ちんちくりんな細いオンナがちょこちょこ逃げ回るだけの、悲しいほどに迫力に欠けたシーンが延々と続くのみ」で、「ストーリーは単純なわりにテンポが悪く、少々退屈するが、見ようによっては笑える部分も」などとして55点を、
福本次郎氏は、「頬がこけるほどシェイプアップしたアンジェリーナ・ジョリーの鋭い眼光以外はバカげた印象しか残らない作品だった」として40点を、
それぞれつけています。
★★★☆☆
象のロケット:ソルト
(1)お話としては、アンジー扮する女スパイ・ソルトの八面六臂の働きによって、勃発寸前にまで突き進んだ世界大戦をなんとか未然に防ぐことができた、というものですが、スパイ物らしく、目まぐるしく立場が入れ替わったり破天荒な出来事が起きたりして、アレヨアレヨといううちにラストになってしまいます。
例えば、ギリギリまで追い詰められたソルトが、高層マンションの窓をつたって逃亡するシーンが映し出されますが、無論セットでの撮影であることは分かっていても、見ている方はハラハラします。何しろ、下を見たら足がすくんで一歩たりとも動けなくなることは必定の高さなのですから!
また、ソルトは、追手から逃れるために、トレーラーの屋根に飛び乗り、それが追手に見つかると、別の車の屋根に飛び移ります。両方の車ともスピードを出して走っているわけですから、そんなことをしたら簡単に振り落とされてしまうはずですが、類い稀なる運動神経の持ち主なのでしょう、ソルトは屋根にしがみつくことに成功してしまいます。
さらに、手錠を嵌められて乗せられたパトカーの中で、ソルトは、警固の警察官を倒した上で、電気ショックを運転手に与えながら、ものすごいカーチェイスに挑みます。これだけ様々の車に衝突したら、中のソルト自身がお陀仏になるに相違ありませんが、スパイとしての教育の成果でしょう、ナントカ脱出に成功します。
この映画は、元はトム・クルーズがやるはずだったところ、彼が降板したために、アンジーにお鉢が回ってきたとのこと。ただ、こうした激しいアクションも、男性俳優ならば最早見慣れたものでしょうが、アンジーだからこそ見ごたえがあるというものです。
それに、映画は、ソルトが北朝鮮に捕えられて拷問を受けるシーンから始まり、スパイ交換で西側に連れ戻されたとき、左目がやや潰されてしまっているところ、アンジーだからこそ見られるのではないでしょうか?
また、追手から逃げおおせると、今度は、典型的なロシアン・ファッションで船のデッキに立ったりしますが、これはトム・クルーズではまったく様にならないでしょう。
というような具合で、アンジーを見て楽しむ分には、大変面白くできた映画だと思いました。
ですから、上の階からシャンデリアとともに落下してきたロシア大統領は、それだけで助かるはずはないと思えるところ、さらに銃弾を撃ち込まれたにもかかわらず、しばらくしたら元気な姿がTVに映し出されるなんて(弾の中にはクモの毒が注入されていたから一時的ショックを受けただけって、ニホンザルの捕獲に使われた麻酔銃じゃあるまいし〔注〕!)などとチャチャを入れたりせずに、おおらかな気持ちで映画を楽しむべきでしょう!
それにしても、「今度のアンジーは300万カラットの煌きだぁと大声で叫びたくなるほど、“華麗な容姿”と“アクション”を見せてくれる」と言うのは全然かまいませんが、「必見!!」とまで言うとなると、熱中症にでも罹ってしまったのかとおすぎのことが心配になりますが!
〔注〕時事通信の記事によれば、台東区内で見つかったニホンザルに対して、上野動物園の職員が「麻酔銃や薬品を塗った「吹き矢」をそれぞれ2発ずつ打ち込み」捕獲したとのこと(8月13日)。
(2)この映画は、前日の記事で取り上げた『フェアウェル/さらば、哀しみのスパイ』と対比させると面白いかもしれません。
まず、この映画の主人公ソルトは、米国CIA職員ですが、『フェアウェル』の主人公グリゴリエフ大佐はソ連KGBの幹部です。
次にソルトは、諜報組織の業務の一つとされる要人の暗殺に取り組みますが、グリゴリエフ大佐は、本来的業務である機密情報の略取に長けています。
その暗殺の対象が米ロの大統領とされていますから、この映画にも、『フェアウェル』同様、トップが登場します。ただ、『フェアウェル』は30年ほど前の設定ですが、こちらは近未来の設定のためソックリさんは不要というところで、『フェアウェル』のように緊張感が途切れてしまうことはありません。
さらにソルトは、本来的にはソ連の特務機関で教育を受け米国に送られたスパイのはずですが、最終的には米国に忠誠を尽くします。他方、グリゴリエフ大佐も、各国の組織に潜入しているスパイのリストを西側に渡すことによって、ソ連の崩壊をもたらそうと努めます。
また、ソルトを最後まで庇う上司ウィンターが実はということになりますが、グリゴリエフ大佐の場合も、ことが発覚して彼の取り調べに当たっている元の同僚が実はということが明らかになります。
といった具合に、映画から受ける印象は180度違うといってもいいものの、内容的には意外と関連する部分があるのだなと思いました。
(3)評論家のこの映画に対する見解にはばらつきがみられます。
小梶勝男氏は、「アンジェリーナ・ジョリーが、走り、飛び、格闘し、銃を撃つ。全編、アクションが全く止まらない。この疾走感は実に見事」であり、「このスピード感を支えているのは、ジョリーを徹底的にアクションだけで見せる演出」であって、「むしろ、正体も内面も分からないまま、男女の違いなど超えて、精密機械のように行動するソルトを描くことで、サスペンスを維持しているのだと思う」が、ただ「残念だったのは、カメラが動きすぎて、せっかくのアクションがはっきりと見えないことだ」として74点を、
佐々木貴之氏は、「本作で観られるアクションは、ド派手で迫力満点な作品に比べるとややおとなしめではあるものの、目を見張るようなシーンがそれなりに用意されていて良いと言える」し、「もう一つの魅力は、アンジー姉さんの変化ぶりだ。最初は金髪だが、逃亡開始後に黒髪のクールビューティーに変身!! そんな黒髪アンジーが魅せるアクションは実にカッコいいし、決まっていると言い切っても良いほどだ」として70点を、
渡まち子氏は、「ヒロインの超絶タフネスぶりが際立つこの物語」だが、「つい最近でもスパイ同士の引渡し劇という、まるで映画のような事件が起こったばかり」、「こんな荒唐無稽な作品が、計らずも現実とリンクしてしまうところが、映画の面白さであり不確定要素だ」として55点を、
前田有一氏は、「いろいろと問題点はあるが、アンジェリーナ・ジョリー主演作らしい個性がない点が一番まず」く、「リアル系スパイアクションとしては、アイデアも格闘のスピード感もボーンシリーズの足元にも及ばず、007のような色気もしゃれっ気もない。ちんちくりんな細いオンナがちょこちょこ逃げ回るだけの、悲しいほどに迫力に欠けたシーンが延々と続くのみ」で、「ストーリーは単純なわりにテンポが悪く、少々退屈するが、見ようによっては笑える部分も」などとして55点を、
福本次郎氏は、「頬がこけるほどシェイプアップしたアンジェリーナ・ジョリーの鋭い眼光以外はバカげた印象しか残らない作品だった」として40点を、
それぞれつけています。
★★★☆☆
象のロケット:ソルト