映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

さよならケーキとふしぎなランプ

2014年05月05日 | 邦画(14年)
 『さよならケーキとふしぎなランプ』を吉祥寺のバウスシアターで見ました。

(1)5月末で閉館になるバウスシアターで2週間だけ上映される吉祥寺関係の映画(注1)だということで、覗いてみました。

 本作の冒頭は、地方のケーキ店。
 パティシエ見習いのアキ平田薫)は、「新作、今日から店に出すんだから」とケーキ作りに余念がありません。



 それに対し、父親(梅垣義明)は、「あまり調子に乗るなよな。こっちを手伝え」と怒ります。
 さらには、アキがつけた値段に対し、父親が「お前ごときが付ける値段じゃない。値段を下げないならウインドウに置かせない」と文句をいうと、アキは「置かせてくれないなら、家を出て行く」と言って飛び出してしまいます。
 アキが降り立ったのが吉祥寺駅。
 近くの友達の家に転がり込もうとしたところ、あいにく同棲していて断られてしまいます。
 ハーモニカ横丁で酔いつぶれた挙句、「アルバイト募集」の張り紙を頼りにカフェ「パーラム」にたどり着きます。
 でも、そのカフェは、店主・此野岸堂島孝平)が自作のケーキを作って店に置いたりしているものの、どうも客の入りが良くなく、此野岸は店を畳むつもりでいるようです。



 そこでアキは、自分でケーキを作り、さらに店の外で通行人に試食をしてもらい、「ぜひお店においでください」とPR活動をします。
 すると、来店客が増加し、作ったケーキも完売します。

 実は、このカフェには不思議なランプが置かれています。
 店主の此野岸が、駅前にあるハーモニカ横丁で偶然に手に入れたもので(注2)、夜、ランプのロウソクの火が灯っている間だけ、亡くなった人がカフェに現れるのです。
 第一には、急性インフルエンザで亡くなった此野岸の長男・
 次いで、結婚式の前に交通事故で婚約者を亡くした草本
 さらには、苺と大福を一緒に食べて喉を詰まらせて亡くなった野口さんの旦那さん(ヨネスケ)。
 ランプのロウソクは次第に融けて残り少なくなっています。
 生きている人と死んでしまった人との関係、そしてこのカフェはどうなるのでしょうか、………?

(2)本作は、「ムサシノ吉祥寺で映画を撮ろう!」というプロジェクト(注3)の第4弾ですから、おなじ吉祥寺を舞台にした傑作『吉祥寺の朝比奈くん』とまではいわずとも、少なくとも第3弾の前作『あんてるさんの花』と比べたくなってしまいます。

 そうすると、映画の構造が実によく似ていることがわかります。
 例えば、本作の舞台は喫茶店で、前作の場合が居酒屋と異なっているものの、どちらの店も閑古鳥が鳴いていて、近いうちの閉店が予定されています。
 また、主人公はどちらもそれぞれの店の主人ですが、物語を引っ張っていくのはどちらも女性(本作の場合、パティシエ見習いのアキであり、前作の場合は主人公の妻の奈美恵)です。
 さらに、その店に来るお客の何人か(前作では3人、本作では4人)が話に絡まってくるというのも似ています。

 なかでも一番類似しているのは、そのファンタジー性でしょう。
 そのための道具立てが、前作の場合は「忘れろ草」(別名が「アンデルセンの花」)であり、本作の場合ランプです(どちらも、ハーモニカ横丁で入手)(注4)。
 なにしろ、「忘れろ草」の花びらに触れると「その人しか見えない幻が見え、なおかつそれを真実と思ってしまう」のであり、本作のランプの場合はロウソクの火が灯っている間に亡くなっている人が現れるというのですから、道具自体は異なっているとはいえ、ほぼ同じ機能を果たしているといえるでしょう。
 そして、そうした道具を使って登場させるのはどちらの作品でも、登場人物が是非会いたいと願っている人なのです(注5)。

 本作のプロデューサーの松江勇武氏(注6)によれば、「言ってみれば武蔵野ファンタジー第2弾と言った位置づけ」だそうです(注7)。ですが、いったい、ここまで類似した構造を持つ作品を、2年という僅かな間隔をおいて新たに制作する意味がどこにあるのでしょう(注8)?

 とはいえ、吉祥寺という街には「ファンタジー」が大層似つかわしいとするのは分からないでもありません。狭い範囲に、実に様々な舞台装置が盛り沢山に置かれていて(注9)、何度行っても夢見た心地になってしまう街なのですから。

 また、松江プロデューサーによれば、「観光PRビデオにならない作品作りを心がけ」たとのことで、その点は前作同様に評価しなくてはならないと思いますし(注10)、「地域から世界に向けて発信していきたい」(注11)という気宇壮大な意気込みも買うべきでしょう!

 さらには、本作の主人公・此野岸が、元妻と一緒に長男の墓参りをした後に別れる場所(注12)が玉川上水緑道の「長兵衛橋」であり、そこは散歩でクマネズミがしばしば通るところという点でも、この作品を評価しなくてはと思いました(注13)。



(注1)本作の監督の金井純一氏については、不思議なことに劇場用パンフレットに何も記載されていないので、少し調べてみたところ、このサイトの記事によれば、「1983年埼玉県出身。大学在学中より、ドキュメンタリー作品を初め、映像作品を製作。2012年に製作した短編映画『転校生』が、札幌国際短編映画祭で 「最優秀監督賞」「最優秀国内作品賞」、また釜山国際映画祭短編コンペティションにて「特別賞」を受賞」し、「『ゆるせない、逢いたい』(2013年)が商業デビュー作となる」とのこと〔なお、このサイトの記事によれば長編作『モーメント』(2013年)もあるようです〕。

(注2)カフェ店主の此野岸は、「不思議な女性に声をかけられ、何を言っているのか全然わからないままに、無理やりランプを買わされた」と話します。

(注3)このサイトの記事によれば、「東京都武蔵野市の吉祥寺地区周辺で、地元企業と団体、個人が100%出資し、撮影から劇場公開までを行う映画企画」。
 なお、このサイトの記事もご覧ください。

(注4)前作の「忘れろ草」の場合は、経緯等につき、映画の中で一応の説明がありますが、本作のランプについては上記「注2」の話だけです。

(注5)本作にカフェの常連客として登場する浮島三郎の場合、なぜその娘が最後まで現れなかったのか何の説明もありません(夜毎に喫茶店にやってくるからには、亡くなった娘に会いたがっているのでしょうが)。

(注6)上記「注3」で取り上げたこの記事では、松江プロデューサーが「異色プロデューサー」として大きく紹介されています。

(注7)このサイトの記事によります。

(注8)特に、前作の場合、様々な問題点がありながらも、主人公の妻の奈美恵自体が幻だったという工夫を凝らしていて、単なる地域映画の域を抜けているのではと思いましたが、本作の場合はそうした工夫が見当たりません(あるいは、アキの父親がカフェ「パーラム」に現れるのが前作の工夫に相当するのかもしれませんが、意外性がないのです)。

(注9)なにしろ、駅の北側には、先端のIT機器が並ぶヨドバシカメラがあると思えば、南側の井の頭公園には、小さいながらも動物園まで設けられているのですから!

(注10)ご当地物の定番は祭とかフェスティバルでしょうが、前作でも本作でもそういったものは登場しませんし、また吉祥寺のランドマークの一つといえるサンロード商店街もはっきりとは映し出されません。さらに、前作同様、ハーモニカ横丁が映し出されますが、ほんのわずかですし、その他の撮影場所も、吉祥寺近辺に住む人でないとなかなか判別がつかないのではないでしょうか?

(注11)上記「注7」で取り上げた記事には、「第一歩としてミャンマーでの配給を成功させ、日本映画の新たな海外展開ルートを開拓します」と記載されています。

(注12)元妻は、「私、再婚するかもしれない」と此野岸に言います。

(注13)とはいえ、本作の古めかしい箇所には疑問を覚えます。
 例えば、カフェ「パーラム」で行われた結婚披露パーティーで、草本とその婚約者がキスをするときに、浮島三郎が聡の目を塞ぎますが、今時のませている子供に対してそんなことをする大人がいるでしょうか(また、そのパーティーの司会を浮島三郎が担当しますが、上がりまくっている様も、一昔前の光景のような気がします)?



★★★☆☆☆